次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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気づきたくなかった気持ち

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「お待たせしました」

玲奈が明るい声を出す。
私も「遅くなってすみません」と軽く頭を下げた。
女性側には二つ空席があり、玲奈が先に座り私は端っこに座った。

「もう自己紹介は済んだよ」

眼鏡の子が玲奈に声をかける。
確かあの人は花田美紀さんだよね。

「ホントに?あー、ごめんね」
「じゃあ、取りあえず二人の名前を聞いてもいい?」

男性側の幹事であろう人が口を開いた。

「私は中村玲奈、二十五歳です。趣味とかは追々話しまーす。で、こっちが友達の梨音です」

ほら、と玲奈は私に自己紹介するように促す。

「河野梨音です。同じく二十五歳です」

特にアピールすることも話すこともないので簡単な挨拶で終了した。
男性陣も改めて自己紹介してくれて、四人とも二十七歳で高校時代からの友人とのことだった。
私以外の女性陣たちは会話が弾み、合コン慣れしているんだろうなというのが感じ取れる。
私なんて質問されて答えるのに精一杯、完全に場違いな合コンに気疲れしていた。

玲奈はグイグイ意中の人に話しかけていた。

「干場さんは休日なにをしているんですか?」
「休みの日は映画観たり家でボーっとしてるかな」
「そうなんですね!私も映画をよく観ます」

もう語尾にハートマークが飛んでそうなぐらい。
玲奈の意中の人は干場さんというのか。
干場さんはこのメンバーの中では一番イケメンだ。
まあ、立花さんの方がカッコいいけど……って私は何を考えているんだろう。
こんな時に立花さんのこと思い出してしまったことに一人赤面し、それを誤魔化すようにビールを飲んだ。

飲み放題付きのコース料理で、まずサラダが運ばれてきた。
お造り盛り合わせ、旬の魚と季節の野菜の天ぷら盛り合わせ、鶏肉のネギ焼きなど美味しそうな料理の数々。

天ぷらを食べていたら目の前に座っていた男性に話しかけられた。

「梨音ちゃん、もしかして急遽呼ばれた感じ?」
「どうしてですか?」

急にそんなことを言われてギョッとした。

確かこの人は能勢正和さん。
自己紹介の時、IT企業に勤めているとか言ってた気がする。
特に意識して聞いていなかったので、あまりよく覚えていない。
いきなり馴れ馴れしく名前で呼ばれ、若干引いてしまった。
でも、これは合コンならではの距離の縮め方なのかなと無理矢理納得させた。

「だって、ここに来た時に買い物袋をぶら下げてただろ。最初から合コンに来るはずだったら、そんなの持ってこないじゃん」

私の荷物を指差した。
場違いなのは痛感している。

「そう、ですよね。なんかすみません」
「謝ることなんてないよ。俺的には可愛い子が来てくれてラッキーって思ったけどね」

笑顔で言われ、反応に困る。
こういうのに免疫がないので、私としては戸惑うばかりだ。

「梨音ちゃんは休みの日は何しているの?」
「買い物とかですかね」
「あー、なるほど。だから今日も買い物していたんだね」

能勢さんはニコニコしながら話しかけてくる。
そのあともいろいろ聞かれたりして、私は顔を引きつらせながらどうにか答えていた。

私が居酒屋に来てから一時間半が経過し、そろそろ帰りたくなってきた。
愛想笑いも疲れてきて、静かに席を立ちレストルームへ足を向けた。

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