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優しさに触れて
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うどんなど食べ終えた食器を立花さんが洗ってくれている。
この光景は当たり前になりつつある。
私の部屋でご飯を食べた後は、立花さんが洗い物をしてくれるようになった。
最初は断ったけど、「ご飯を作ってもらってるから」と言って譲らなかった。
それで立花さんが洗い物をしている時に私がコーヒーの準備をしているけど、今日は要らないらしい。
私は薬を飲むと、洗い物をしている立花さんの背中を見つめた。
あの提案からもうすぐ一ヶ月経つ。
お弁当を作ったり、晩ご飯を一緒に食べたり、些細な出来事を話したりすることが日々の楽しみになり、立花さんからの連絡を待っている私がいた。
確実に私の中で立花さんの存在が大きくなっている。
「……い!おーい、河野さん」
洗い物をしていた立花さんが、いつの間にか私の目の前にいた。
「どうした?やっぱり調子が悪いのか?」
「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていただけなので」
「それならいいけど」
「洗い物、ありがとうございました」
「どういたしまして」
そう言いながらビジネスバッグを手に取った。
あ、もう帰っちゃうんだ。
いつもなら、食事のあとにコーヒーを飲みつつテレビを見たりして話をするのに……。
「あのさ、そんな顔しないでくれる?」
立花さんはため息をつきながら言った。
仕事で疲れている中、わざわざ買い物をして私の部屋に来てくれたのに不愉快にさせてしまった。
申し訳なさでいっぱいになり、謝罪した。
「すみません」
「どうして謝るんだ?」
「立花さんの気に触るような顔をしてたのかなと思って」
「ちょっと待って。何か勘違いしてない?」
立花さんは困ったように眉尻を下げていた。
「そんな顔っていうのは、帰って欲しくないような寂しそうな顔ってことだよ」
思い当たる節があり、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
気持ちが表情に出ていたとか恥ずかしすぎる。
真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、視線を逸らした瞬間に私の身体は立花さんの腕の中に包まれていた。
ドキドキして平熱まで下がった熱がまた上がりそうだ。
「どうしてそんなに可愛い反応するかな。無自覚に俺を煽らないで欲しいよ」
突然のことに驚いて固まっている私の肩に顎をのせ呟く。
「帰って欲しくないなら今日も泊まろうか?」
今日もって……あっ!
昨日、私が引き止めた挙げ句、座ったまま寝かせてしまったんだ。
あんな体勢で寝ていたら身体は痛くなるはず。
「だ、大丈夫です。今日は家でゆっくり休んでください」
私は立花さんの腕の中から抜け出した。
「残念、別に俺はまた泊まってもいいんだけどね」
「いえ、そういう訳にはいきません」
「河野さんは真面目だな。まぁ冗談はさておき、熱も下がったみたいだし、あともう一息だから早く寝るように」
また冗談だったのか。
いつもバカ正直に立花さんの言葉を受け取ってしまう。
「帰るけど、何かあったらいつでも連絡してくれればいいから」
「はい。ありがとうございます」
「悪いけど、戸締まりだけはしてもらってもいい?」
「分かりました」
立花さんの後を追って歩いていたら、玄関近くの姿見に自分が映る。
この数日で立花さんの前でノーメイクでも普通に過ごせるようになってしまった。
身内以外の人と会うときはメイクをして少しでも綺麗に見せたいという気持ちはあった。
メイクをしてもそこまで顔は変わらないので問題はないといえばそうなんだけど、私の気持ちの問題だ。
それなのに、病気の時に不意打ちで家に来られてしまってはどうすることも出来ない。
立花さんは全く気にしてないみたいで、それもいいのか悪いのか複雑な気分だ。
玄関先で立花さんは振り返り「おやすみ」と言って帰っていった。
私は鍵を閉め、歯磨きをするために洗面所に向かった。
この光景は当たり前になりつつある。
私の部屋でご飯を食べた後は、立花さんが洗い物をしてくれるようになった。
最初は断ったけど、「ご飯を作ってもらってるから」と言って譲らなかった。
それで立花さんが洗い物をしている時に私がコーヒーの準備をしているけど、今日は要らないらしい。
私は薬を飲むと、洗い物をしている立花さんの背中を見つめた。
あの提案からもうすぐ一ヶ月経つ。
お弁当を作ったり、晩ご飯を一緒に食べたり、些細な出来事を話したりすることが日々の楽しみになり、立花さんからの連絡を待っている私がいた。
確実に私の中で立花さんの存在が大きくなっている。
「……い!おーい、河野さん」
洗い物をしていた立花さんが、いつの間にか私の目の前にいた。
「どうした?やっぱり調子が悪いのか?」
「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていただけなので」
「それならいいけど」
「洗い物、ありがとうございました」
「どういたしまして」
そう言いながらビジネスバッグを手に取った。
あ、もう帰っちゃうんだ。
いつもなら、食事のあとにコーヒーを飲みつつテレビを見たりして話をするのに……。
「あのさ、そんな顔しないでくれる?」
立花さんはため息をつきながら言った。
仕事で疲れている中、わざわざ買い物をして私の部屋に来てくれたのに不愉快にさせてしまった。
申し訳なさでいっぱいになり、謝罪した。
「すみません」
「どうして謝るんだ?」
「立花さんの気に触るような顔をしてたのかなと思って」
「ちょっと待って。何か勘違いしてない?」
立花さんは困ったように眉尻を下げていた。
「そんな顔っていうのは、帰って欲しくないような寂しそうな顔ってことだよ」
思い当たる節があり、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
気持ちが表情に出ていたとか恥ずかしすぎる。
真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、視線を逸らした瞬間に私の身体は立花さんの腕の中に包まれていた。
ドキドキして平熱まで下がった熱がまた上がりそうだ。
「どうしてそんなに可愛い反応するかな。無自覚に俺を煽らないで欲しいよ」
突然のことに驚いて固まっている私の肩に顎をのせ呟く。
「帰って欲しくないなら今日も泊まろうか?」
今日もって……あっ!
昨日、私が引き止めた挙げ句、座ったまま寝かせてしまったんだ。
あんな体勢で寝ていたら身体は痛くなるはず。
「だ、大丈夫です。今日は家でゆっくり休んでください」
私は立花さんの腕の中から抜け出した。
「残念、別に俺はまた泊まってもいいんだけどね」
「いえ、そういう訳にはいきません」
「河野さんは真面目だな。まぁ冗談はさておき、熱も下がったみたいだし、あともう一息だから早く寝るように」
また冗談だったのか。
いつもバカ正直に立花さんの言葉を受け取ってしまう。
「帰るけど、何かあったらいつでも連絡してくれればいいから」
「はい。ありがとうございます」
「悪いけど、戸締まりだけはしてもらってもいい?」
「分かりました」
立花さんの後を追って歩いていたら、玄関近くの姿見に自分が映る。
この数日で立花さんの前でノーメイクでも普通に過ごせるようになってしまった。
身内以外の人と会うときはメイクをして少しでも綺麗に見せたいという気持ちはあった。
メイクをしてもそこまで顔は変わらないので問題はないといえばそうなんだけど、私の気持ちの問題だ。
それなのに、病気の時に不意打ちで家に来られてしまってはどうすることも出来ない。
立花さんは全く気にしてないみたいで、それもいいのか悪いのか複雑な気分だ。
玄関先で立花さんは振り返り「おやすみ」と言って帰っていった。
私は鍵を閉め、歯磨きをするために洗面所に向かった。
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