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優しさに触れて
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しおりを挟むお鍋や食器を綺麗に洗ってくれたあと、立花さんは鞄を手にした。
「仕事が終わったらまた来るよ」
「いいんですか?」
また来てくれるという言葉に反応し、感情が全面に出てきた。
「もちろん。なるべく早めに仕事を終わらせるから。じゃあ、行ってきます」
「あの、無理はしないでくださいね。いってらっしゃい」
立花さんを見送ったあと、私はスマホから会社に電話をかけた。
今日一日、おとなしく寝ていたら熱も下がるだろう。
桐野さんに休むことを伝えるとベッドに寝転がって目を閉じた。
少し眠り、昼過ぎに目が覚めた。
昼ご飯は朝の残りの雑炊を食べた。
夕方にはすっかり熱も下がっていたので、汗を流すためにシャワーを浴びた。
立花さんから仕事終わりに『体調はどう?』と連絡があった。
私のことを気にかけてくれることが嬉しくて胸がいっぱいになる。
熱が下がったことを伝えると、晩ご飯を一緒に食べようということになった。
胃に優しいものがいいと思うから、うどんを買ってくると言って立花さんは電話を切った。
そして、十九時過ぎにスーパーのビニール袋を手に立花さんは私の部屋に来てくれた。
私も部屋着のまま普通に出迎えた。
「熱が下がってよかった」
立花さんがネクタイを緩めながら言い、私はその仕草にドキドキしてしまう。
仕事終わりに買い物をして、直接私の部屋に来てくれたんだ。
ビニール袋からうどん、玉子、ネギ、白菜、もやし、生姜、かまぼこなどたくさをの食材をテーブルの上に出す。
「うどんの中に何を入れるのかよく分からなくて、ネットで調べて買ってきたんだ」
「こんなにたくさんありがとうございます」
「河野さんはまだ病み上がりだから俺が作るよ」
料理する気満々で手を洗いながら言う。
昨日から、何から何までやってもらっている。
病み上がりとはいえ熱も下がったし、料理ぐらいできる。
「大丈夫ですよ。それに立花さん、ネットを見ながら料理しますよね?」
「あぁ、普段料理なんかしないから」
当たり前だろと頷く。
「失礼ですが、私が作った方が早くできると思います。立花さんだってお腹が空いてますよね」
正論だったからか、立花さんは気まずそうに言葉を詰まらす。
こんなことを言うのは申し訳なかったけど、仕事終わりで疲れている立花さんに料理をさせるわけにはいかないと思ったんだ。
「ビールを用意するからテレビでも見ていてください」
「しんどくないのか?」
「この通り、元気ですから。はい、座っていてください」
立花さんの背中を押し、強引にリビングのソファに座らせた。
冷蔵庫の中に入っていた食材で簡単なおつまみを作る。
ちくわの中にキュウリを詰め、一口サイズの大きさに切る。
小皿に醤油を入れてわさびを添え、ビールと共に運んだ。
「ありがとう」
「うどん、すぐに作りますね」
キッチンに戻り、鍋を火にかけた。
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