次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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優しさに触れて

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「ごちそうさまでした」
「全部食べたんだな」

空になった茶碗を見て嬉しそうに顔を綻ばせる。

「あの、食器とか後で洗うので置いといてください」
「病人はそんなことを気にしなくていいから。薬を飲んで早く寝ること」

立花さんはそう言うと、甲斐甲斐しくグラスに水を注いで薬の準備をしてくれる。
何から何までお世話をしてくれて、ありがたいやら申し訳ないやら。
薬を飲んでマスクをつける。

洗い物を済ませた立花さんがベッドのそばにやって来た。
病気の時にそばにいてくれる人がいるっていうのはホントに心強い。

子供の頃、熱を出して寝込んでいる時にお母さんがつきっきりで看病してくれたことを思い出す。
私はお母さん大好きっ子でよく引っ付いていた。
お母さんは嫌な顔ひとつせず『梨音は甘えんぼね』なんてよく笑われていたなぁ。

ベッド脇のラグに腰をおろした立花さんを改めてじっくり見るとTシャツにジーパン姿。
仕事の時のスーツを見慣れているので、ラフな服装を見るとプライベート感満載でドキドキしてしまう。

高柳課長に私が風邪で早退したということを聞いて、状況を確認しようと何度も連絡を入れてくれたんだろう。
私は寝ていて気が付かなかったけど。

立花さんは、わざわざ買い物をしてお粥まで作ってくれた。
ホントの彼女じゃないのに、こんなに優しくしてもらってもいいんだろうか?
でも、その優しさが嬉しくていつまでもそばにいて欲しいと思ってしまう。

「もう帰りますか?」
「えっ」

立花さんは私の言葉に目を見開いた。

私は何を口走った?
「もう帰りますか」なんて、帰ってほしくないと言っているように聞こえちゃうよね。
無意識に言ってしまった自分の言葉に驚く。
散々、お世話になったのにこれ以上何を望むというの。
少し心が弱っているのかもしれない。

「あの、何でもないです。今日はありがとうございました」

慌てて誤魔化し、視線を逸らした。

「まだ帰らないよ。河野さんが寝付くまでそばにいるから。だから、気にしないでゆっくり寝ていいよ」

フッと笑いながら、私の心を見透かしたように言ってくれる。
どうしてそんなに優しくしてくれるんだろう。

頭を優しく撫でられると安心感を覚え、私はゆっくりと目を閉じた。
身体が熱を持っているし薬を飲んでいる影響もあり、睡魔はすぐに襲ってくる。

「大丈夫?」

頬を撫でる立花さんの手の冷たさが心地よくて甘えるようにすり寄った。

「あまり可愛いことしないで欲しいんだけど」

苦笑混じりのそんな呟きは寝ている私には聞こえなかった。

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