次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

文字の大きさ
上 下
38 / 107
優しさに触れて

しおりを挟む
「この時期に風邪か?」

出社してきた宮沢が何か言いたいことを含んだ笑みを浮かべて私を見る。
体調の悪い時に絡んでこないでほしいんだけど。

「何よ、どうせ夏風邪を引くのはバカだって言いたいんでしょ」
「別にバカとは言ってないだろ」

宮沢はニヤニヤしながら席に座る。
その顔が言ってるんでしょ!とは思っても、言い返す元気もなくてため息をつきスルーした。

「おいおい、河野が言い返してこないとかマジで大丈夫か?」

からかうように言う宮沢を無言でジロリと睨んだあと、届いたばかりのデザイン案に目を通した。

電話が鳴り、受話器を取って対応する。

「高柳課長、二番にミキモト文具店の内藤さんからお電話です」
「えっ?どうしたの、その声。朝より酷くなってるんじゃないか?」

内線を回すと、受話器越しに高柳課長が驚きの声を出す。

「すみません、聞き取り辛いですよね」
「いや、そんなことはないけど大丈夫か?体調が悪いなら酷くなる前に早退した方がいいと思うけど」
「ありがとうございます。そうですね、区切りのいいところまで仕事を進めてから早退させてもらいます」
「それがいいよ。二番にミキモトさんだね」

そう言うと高柳課長は電話を切り替えたので、私は受話器を置いた。
私の風邪の症状は、昼過ぎて酷くなる一方だった。
当然のように食欲はなくて少し熱っぽい感じがし、コンコンと軽めの咳も出るようになった。
全然集中できなくて仕事にも支障が出てきたので、早退させてもらうことにした。

「すみませんが、お先に失礼します」
「梨音先輩、気を付けて帰ってくださいね」
「うん、友田さんありがとう」

心配そうに言ってくれる友田さんに笑顔を見せた。

「帰りに病院で診てもらうこと、分かった?」
「はい」

桐野さんに念を押され、私は素直に頷いた。
早退の手続きを済ませてから会社を後にした。

家に帰る前に病院に寄って薬をもらった。
驚いたのが、病院で熱を計ったら37.9。
こんなに熱が上がっているとは思わなかった。
念のため検査をしてもらったけど、インフルエンザとかそういった類のものではなく、ただの風邪だった。
流行りの感染症とかじゃなくてよかった。

病院を出ると真っ直ぐ家に帰った。
ホントはゼリーやスポーツ飲料とか買い物をして帰りたかったけど、そんな元気はなかった。

やっとのことで家に帰宅し、着ていた服を脱いで洗濯ネットに入れて洗濯機に放り込む。
部屋着に着替えるとメイクを落とし、いつでも寝れる準備をする。
冷蔵庫の中にあった明日までの賞味期限のプリンを食べて薬を飲んでベッドに潜り込むと、すぐに睡魔が襲ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

拉致られて家事をしてたら、カタギじゃなくなってた?!

satomi
恋愛
肩がぶつかって詰め寄られた杏。謝ったのに、逆ギレをされ殴りかかられたので、正当防衛だよね?と自己確認をし、逆に抑え込んだら、何故か黒塗り高級車で連れて行かれた。……先は西谷組。それからは組員たちからは姐さんと呼ばれるようになった。西谷組のトップは二代目・光輝。杏は西谷組で今後光輝のSP等をすることになった。 が杏は家事が得意だった。組員にも大好評。光輝もいつしか心をよせるように……

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...