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偽装恋愛、始めます
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端から見て、広くもないシンクに二人並んで立っているという不思議な光景に戸惑う。
「あの、何をしてるんでしょうか?」
「河野さんが食器を洗ってるのを見てる」
しれっと言う。
別に普通に洗ってるだけで物珍しいことなんてないんだけど。
しかもすぐ側にいるもんだから、手を動かしていると立花さんの身体に何度も触れてしまう。
私はその度に「すみません」と謝罪すると立花さんは「いいよ」と笑う。
(なんなの、このやり取りは)
洗い物をするだけで、どうしてこんなにドキドキしないといけないんだろう。
「洗っているだけなので見ても楽しくないと思うんですけど」
「そんなことはないよ」
いや、絶対に楽しくないと思う。
「あの、水が飛んで立花さんの服が濡れちゃうので、向こうにいてもらった方がいいんですけど」
離れてくださいという意味を込めて、遠回しに言ってみた。
それが伝わったのか、立花さんは「分かったよ」と言ってクスクスと笑う。
「もう少し見ていたかったけど、仕方ない。おとなしく座っておくよ」
さっきから立花さんはずっと笑っていて、私はからかわれていたんだろうかという疑惑が生まれた。
リビングに向かう立花さんの背中にジト目を向けた。
食器を洗い終わり、お湯を沸かす。
カップにコーヒーを淹れてテーブルに置いた。
「どうぞ」
「ありがとう」
立花さんにコーヒーはアイスとホットのどちらがいいか聞くとホットが飲みたいと言った。
私は氷を入れてアイスにした。
さっきは炭酸のジュースが飲みたかったけど、今はそんな気分ではなくなった。
「あのさ、ちょっと図々しいお願いしてもいいかな」
コーヒーを飲んでいた立花さんがおもむろに口を開く。
「何ですか?」
「偽装だけど、俺たちは彼氏彼女だよな?」
「そう、ですけど」
「飯を作るのに一人分は難しいんだよな?」
「はい」
確認するように聞いてくる。
一体、立花さんは何が言いたいのか分からず、次の言葉を待った。
「俺は料理は全く作れないし、手料理に飢えているんだ。河野さんさえよければ、またこうして料理を作ってくれないかな?」
いきなりの提案に目が点になった。
私が立花さんに料理を作る?
「もちろん、食材費はこちらが払うよ」
「いえ、そんなことしていただかなくてもいいんですけど」
「で、どう?」
期待を込めた目で見られ、断ることなんて出来る訳がない。
それに、さっき私の作った料理を食べていた立花さんを見て、また作ってあげたいと思ったし。
何だか分からないけど、私の料理を気に入ってくれたってことなんだろう。
「分かりました。私の料理でよければ」
「そうか。ありがとう」
立花さんは嬉しそうに微笑んだ。
こうして私は、立花さんが仕事が遅くならない日は料理を作ることになった。
「あの、何をしてるんでしょうか?」
「河野さんが食器を洗ってるのを見てる」
しれっと言う。
別に普通に洗ってるだけで物珍しいことなんてないんだけど。
しかもすぐ側にいるもんだから、手を動かしていると立花さんの身体に何度も触れてしまう。
私はその度に「すみません」と謝罪すると立花さんは「いいよ」と笑う。
(なんなの、このやり取りは)
洗い物をするだけで、どうしてこんなにドキドキしないといけないんだろう。
「洗っているだけなので見ても楽しくないと思うんですけど」
「そんなことはないよ」
いや、絶対に楽しくないと思う。
「あの、水が飛んで立花さんの服が濡れちゃうので、向こうにいてもらった方がいいんですけど」
離れてくださいという意味を込めて、遠回しに言ってみた。
それが伝わったのか、立花さんは「分かったよ」と言ってクスクスと笑う。
「もう少し見ていたかったけど、仕方ない。おとなしく座っておくよ」
さっきから立花さんはずっと笑っていて、私はからかわれていたんだろうかという疑惑が生まれた。
リビングに向かう立花さんの背中にジト目を向けた。
食器を洗い終わり、お湯を沸かす。
カップにコーヒーを淹れてテーブルに置いた。
「どうぞ」
「ありがとう」
立花さんにコーヒーはアイスとホットのどちらがいいか聞くとホットが飲みたいと言った。
私は氷を入れてアイスにした。
さっきは炭酸のジュースが飲みたかったけど、今はそんな気分ではなくなった。
「あのさ、ちょっと図々しいお願いしてもいいかな」
コーヒーを飲んでいた立花さんがおもむろに口を開く。
「何ですか?」
「偽装だけど、俺たちは彼氏彼女だよな?」
「そう、ですけど」
「飯を作るのに一人分は難しいんだよな?」
「はい」
確認するように聞いてくる。
一体、立花さんは何が言いたいのか分からず、次の言葉を待った。
「俺は料理は全く作れないし、手料理に飢えているんだ。河野さんさえよければ、またこうして料理を作ってくれないかな?」
いきなりの提案に目が点になった。
私が立花さんに料理を作る?
「もちろん、食材費はこちらが払うよ」
「いえ、そんなことしていただかなくてもいいんですけど」
「で、どう?」
期待を込めた目で見られ、断ることなんて出来る訳がない。
それに、さっき私の作った料理を食べていた立花さんを見て、また作ってあげたいと思ったし。
何だか分からないけど、私の料理を気に入ってくれたってことなんだろう。
「分かりました。私の料理でよければ」
「そうか。ありがとう」
立花さんは嬉しそうに微笑んだ。
こうして私は、立花さんが仕事が遅くならない日は料理を作ることになった。
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