次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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偽装恋愛、始めます

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「散らかってますけど」

立花さんをリビングに案内した。
私の部屋は1LDKで、そんなに広くはない。
立花さんが住んでいる上の階の部屋はここより広くて、確か2LDKだった気がする。
このマンションは階によって間取りが違う。

「へぇ、綺麗にしてるんだな。全然散らかってないよ」

立花さんは視線を巡らせたあと、感心したように言う。

「恥ずかしいのであまり見ないで下さいね。すぐ準備するのでソファに座っててください」
「ありがと。その前に手を洗わせてもらってもいい?」
「はい、どうぞ」

立花さんは洗面所に入っていく。
私は鍋を温めて、みそ汁をお椀によそう。
温まった肉じゃがをお皿に入れて盛り付けた。

「お口に合うといいんですけど」

テーブルの上にはさっき私が食べたものと同じメニュー。
タコ飯、肉じゃが、ほうれん草のおひたしにみそ汁。
さすがにほうれん草は食べてしまっていたので急いで新しいのを茹でて、かつお節をかけた。

立花さんは「いただきます」と両手を合わせて食べ始めた。
ドキドキしながら立花さんを見つめていると、ピタリと動きが止まる。
疑問に思っていたら、困惑した表情の立花さんと目が合った。

「そんなに見つめられると食べにくいんだけど」
「あっ、すみません」

慌てて謝罪し、視線を逸らす。
人に手料理を食べてもらうのは身内以外で初めてだから、つい気になって見てしまっていた。
確かに食事をしているところを見られるのは嫌だよね。

「河野さん、料理上手なんだな。どれもすごく美味しいよ」
「本当ですか?お口に合ってよかったです」

その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす。
立花さんはよっぽどお腹が空いていたのか、ご飯なんてお代わりまでして全部平げてくれた。
そんな姿を見たら、もっといろんなものを作ってあげたくなる。

「ごちそうさま」

立花さんは箸を置いて手を合わせる。

「お粗末様でした」

食べ終わった食器をシンクに運び、スポンジを手にして洗おうとしたら立花さんが私の側に来た。

「ご馳走してもらったお礼に俺が洗うよ」

そう言って私の手からスポンジを取ろうとする。
(やめてー!)
御曹司さまがとんでもないことを仰ってるんですけど!

「いえ、大丈夫です。立花さんは座っていてください」
「俺に洗わせてよ。洗い物ぐらい出来るよ」

いやいや、出来るとか出来ないとかそんなことはどうでもいい。
お客様に洗い物をしてもらうなんてとんでもない。

「ホントに大丈夫ですから」

スポンジを取られないように死守していたら、立花さんは諦めたのか引き下がってくれた。
私はスポンジを泡立ててお皿を洗い始めたけど、すぐに違和感に気づく。
(あれ?)
座っていてくださいって言ったはずなのに、なぜか私が食器を洗っているのを隣で見ている。
どうしてまだ隣にいるんだろう。

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