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悩む日々
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「なるほど、会社の人がそんなことをね」
枝豆を摘みながら音波ちゃんが呟く。
「でも、梨音にはいい機会なんじゃない?恋がしたいって言ってもそう簡単にいい人なんて現れないと思うし、男の人に慣れておくのもいいかもね。ナンパとかで変な男に引っかかるより、会社の人なら多少は安心だし」
「そうかな」
「そうだよ!梨音は男の人と付き合ったことがない上に、あの失恋のダメージが梨音を消極的にしているのよ。一番楽しい時期に一人身なんて勿体ないわ。まだ二十代半ばだからって油断していたら、あっという間に三十路になるんだからね。私なんてあと三年で三十路だよ」
音波ちゃんはため息をつく。
「もっと軽い感じで考えてみたらいいんじゃない?だって偽装彼氏なんでしょ。付き合ってみて無理だと思うなら断ればいいし、何事も経験だよ」
「そんな軽い感じでいいのかな」
相手に失礼な気がする。
ましてや、会社の御曹司。
音波ちゃんはそれを知らないからあんな風に言えるんだよなぁ。
「あのね、誰も付き合った相手と必ず結婚しろなんて言ってないでしょ。それに、普通に付き合っててもすぐに別れたりするんだよ。相性もあるし、苦手だなと思っていた人が付き合ってみて意外にそんなことなかったりするし。梨音は深く考え過ぎ。だって、提案されているのは偽装恋愛でしょ。向こうだって軽い感じで言ってきたんじゃないの?」
「そうなのかな」
「そうだって。お互いにプラスになるんだから、前向きに考えなよ。それと、お兄ちゃんのバーに行くこともね!」
前向きか……。
立花さんも私が協力してくれたら助かるって言っていた。
もう少し、気楽に考えてもいいのかも。
気持ちが軽くなり、飲みかけのビールを一気に飲み干した。
音波ちゃんと別れて家に帰ると、私は初めて自分から立花さんに連絡を取った。
メッセージで済ますのはさすがに失礼だと思い、電話をかけることにした。
呼び出し音が数回鳴って、『もしもし』と立花さんが出た。
「夜分遅くにすみません。河野です。今、お時間大丈夫ですか?」
『時間は全然大丈夫だけど、どうしたの?』
穏やかな声が耳に響く。
「あの、この前の返事をしようと思って。長い間、お待たせしてしまってすみません」
緊張で心臓がバクバクと音を立てている。
本当にこの判断がいいのか分からない。
でも、何事も経験だと音波ちゃんに言われたし、やるだけやってみよう。
深呼吸して気持ちを落ち着ける。
「立花さんの提案の件ですけど、お受けします」
『それは、恋のリハビリの提案を受け入れてくれるってこと?』
「はい」
『よかった。じゃあ、今日から俺たちは彼氏彼女だね』
改めて彼氏、彼女という言葉を口に出されるとむず痒くなる。
偽装とはいえ、立花さんと付き合うなんて全く想像が出来ない。
でも、提案を受け入れてしまったのだから、あとは流れに身を任せるだけだ。
「いろいろと慣れてないのでご迷惑をおかけするかもしれませんけど、よろしくお願いします」
そう言いながら、向こうから見えていないのに頭を下げた。
『こちらこそよろしくね。だけど、そんなに畏まらなくていいよ。もっと気楽に考えてくれたらいいから』
立花さんはクスクス笑う。
そして、おやすみと言って電話を切った。
これから私はどうなってしまうんだろうという不安と、少しの期待が入り混じった複雑な感情が押し寄せ、その日の夜はあまり眠れなかった。
枝豆を摘みながら音波ちゃんが呟く。
「でも、梨音にはいい機会なんじゃない?恋がしたいって言ってもそう簡単にいい人なんて現れないと思うし、男の人に慣れておくのもいいかもね。ナンパとかで変な男に引っかかるより、会社の人なら多少は安心だし」
「そうかな」
「そうだよ!梨音は男の人と付き合ったことがない上に、あの失恋のダメージが梨音を消極的にしているのよ。一番楽しい時期に一人身なんて勿体ないわ。まだ二十代半ばだからって油断していたら、あっという間に三十路になるんだからね。私なんてあと三年で三十路だよ」
音波ちゃんはため息をつく。
「もっと軽い感じで考えてみたらいいんじゃない?だって偽装彼氏なんでしょ。付き合ってみて無理だと思うなら断ればいいし、何事も経験だよ」
「そんな軽い感じでいいのかな」
相手に失礼な気がする。
ましてや、会社の御曹司。
音波ちゃんはそれを知らないからあんな風に言えるんだよなぁ。
「あのね、誰も付き合った相手と必ず結婚しろなんて言ってないでしょ。それに、普通に付き合っててもすぐに別れたりするんだよ。相性もあるし、苦手だなと思っていた人が付き合ってみて意外にそんなことなかったりするし。梨音は深く考え過ぎ。だって、提案されているのは偽装恋愛でしょ。向こうだって軽い感じで言ってきたんじゃないの?」
「そうなのかな」
「そうだって。お互いにプラスになるんだから、前向きに考えなよ。それと、お兄ちゃんのバーに行くこともね!」
前向きか……。
立花さんも私が協力してくれたら助かるって言っていた。
もう少し、気楽に考えてもいいのかも。
気持ちが軽くなり、飲みかけのビールを一気に飲み干した。
音波ちゃんと別れて家に帰ると、私は初めて自分から立花さんに連絡を取った。
メッセージで済ますのはさすがに失礼だと思い、電話をかけることにした。
呼び出し音が数回鳴って、『もしもし』と立花さんが出た。
「夜分遅くにすみません。河野です。今、お時間大丈夫ですか?」
『時間は全然大丈夫だけど、どうしたの?』
穏やかな声が耳に響く。
「あの、この前の返事をしようと思って。長い間、お待たせしてしまってすみません」
緊張で心臓がバクバクと音を立てている。
本当にこの判断がいいのか分からない。
でも、何事も経験だと音波ちゃんに言われたし、やるだけやってみよう。
深呼吸して気持ちを落ち着ける。
「立花さんの提案の件ですけど、お受けします」
『それは、恋のリハビリの提案を受け入れてくれるってこと?』
「はい」
『よかった。じゃあ、今日から俺たちは彼氏彼女だね』
改めて彼氏、彼女という言葉を口に出されるとむず痒くなる。
偽装とはいえ、立花さんと付き合うなんて全く想像が出来ない。
でも、提案を受け入れてしまったのだから、あとは流れに身を任せるだけだ。
「いろいろと慣れてないのでご迷惑をおかけするかもしれませんけど、よろしくお願いします」
そう言いながら、向こうから見えていないのに頭を下げた。
『こちらこそよろしくね。だけど、そんなに畏まらなくていいよ。もっと気楽に考えてくれたらいいから』
立花さんはクスクス笑う。
そして、おやすみと言って電話を切った。
これから私はどうなってしまうんだろうという不安と、少しの期待が入り混じった複雑な感情が押し寄せ、その日の夜はあまり眠れなかった。
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