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悩む日々
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仕事を終え、歩いて駅に向かう。
改札を抜け、電車に乗り込むと帰宅ラッシュで電車内は込み合っていた。
座席に座ることも出来ず、手摺りにつかまって電車の揺れに耐える。
毎日のこととはいえ、人の多さにウンザリする。
車通勤をしている人もいるけど、運転が得意ではないので私はしないというか怖くて出来ない。
残業したり電車を何本か遅らせたら比較的、人は多くないんだけど。
駅に電車が着き、扉が開くとようやく息苦しさから解放された。
改札を出たところで私の名前を呼ぶ声が耳に届いた。
「梨音、待って」
振り返ると、私のいとこの小林音波が駆け寄ってきた。
大きな瞳に長い睫毛、黒色の髪の毛が肩で揺れている。
音波ちゃんは私の母親の兄の子供で、私より二歳上。
子供の頃は、親戚が集まった時に遊んでもらっていた。
住んでいる場所の駅が同じだから、最近はこんな風に偶然会うことも少なくない。
「音波ちゃんも今帰り?」
「そうなの。満員電車で疲れたわ。ねぇ、もうご飯食べた?」
「ううん、まだ。お腹ペコペコだよ」
「だったら一緒に食べない?」
「いいよ」
音波ちゃんに誘われ、駅近くの居酒屋に向かった。
着いたのは和風モダンなお洒落な居酒屋『和紗美』。
店内は木のぬくもりを感じる内装で、照明はやや落としている。
空いていたテーブル席に座りメニューを決めると、しばらくして飲み物や料理が運ばれてきた。
「まだお兄ちゃんのバーには行かないの?」
唐突に音波ちゃんがタコの唐揚げを食べながら聞いてくる。
私は苦笑いしながら口を開いた。
「あー、なんか気まずくて」
ビールの入ったグラスをじっと見つめる。
音波ちゃんのお兄さんの小林朔斗はバー『ダークムーン』で働いている。
オーナー兼バーテンダーで、私は彼のことを朔ちゃんと呼んでいる。
私がバーに行かないのにはいろいろ理由がある。
「あれから五年でしょ?お兄ちゃんも心配しているし顔見せてあげたら?絶対に喜ぶよ」
「うん、そのうちね……」
曖昧に誤魔化すことしか出来ない。
音波ちゃんも私が朔ちゃんのバーに行かなくなった理由を知っている。
私の二十歳の誕生日にバーであることをやらかして以来、足が遠のいている。
朔ちゃんには失態を見られているし、今さらどの面下げて行けばいいのやらって感じなんだ。
そろそろ行ってみようかなとは思うけど、一歩踏み出す勇気が出ない。
「ねぇ、梨音がバーに行かないのはあのことを引きずっているから?」
「ううん、引きずってはいないよ。もう吹っ切れてるし、今は何とも思ってないから」
「じゃあ、好きな人とか出来た?」
いきなりそんなことを言われ、音波ちゃんをガン見した。
「え、もしかして出来たの?」
私の様子に音波ちゃんが目を輝かせて聞いてくる。
「いや、好きな人は出来てないんだけど……」
「出来てないけど、どうしたのよ?」
「偽装彼氏の提案をされてて」
音波ちゃんなら話してもいいかと思い、打ち明けることにした。
「はぁ?偽装彼氏って誰からよ」
音波ちゃんが素っ頓狂な声を出す。
そりゃそうだよね。
私は音波ちゃんに事の成り行きを全て話した。
本当に偽装彼氏とかいいんだろうかという不安も含めて全部。
だけど、立花さんが会社の御曹司であることは黙っておいた。
身分不相応なのは理解しているし、大ぴらにはしたくないと思ったんだ。
改札を抜け、電車に乗り込むと帰宅ラッシュで電車内は込み合っていた。
座席に座ることも出来ず、手摺りにつかまって電車の揺れに耐える。
毎日のこととはいえ、人の多さにウンザリする。
車通勤をしている人もいるけど、運転が得意ではないので私はしないというか怖くて出来ない。
残業したり電車を何本か遅らせたら比較的、人は多くないんだけど。
駅に電車が着き、扉が開くとようやく息苦しさから解放された。
改札を出たところで私の名前を呼ぶ声が耳に届いた。
「梨音、待って」
振り返ると、私のいとこの小林音波が駆け寄ってきた。
大きな瞳に長い睫毛、黒色の髪の毛が肩で揺れている。
音波ちゃんは私の母親の兄の子供で、私より二歳上。
子供の頃は、親戚が集まった時に遊んでもらっていた。
住んでいる場所の駅が同じだから、最近はこんな風に偶然会うことも少なくない。
「音波ちゃんも今帰り?」
「そうなの。満員電車で疲れたわ。ねぇ、もうご飯食べた?」
「ううん、まだ。お腹ペコペコだよ」
「だったら一緒に食べない?」
「いいよ」
音波ちゃんに誘われ、駅近くの居酒屋に向かった。
着いたのは和風モダンなお洒落な居酒屋『和紗美』。
店内は木のぬくもりを感じる内装で、照明はやや落としている。
空いていたテーブル席に座りメニューを決めると、しばらくして飲み物や料理が運ばれてきた。
「まだお兄ちゃんのバーには行かないの?」
唐突に音波ちゃんがタコの唐揚げを食べながら聞いてくる。
私は苦笑いしながら口を開いた。
「あー、なんか気まずくて」
ビールの入ったグラスをじっと見つめる。
音波ちゃんのお兄さんの小林朔斗はバー『ダークムーン』で働いている。
オーナー兼バーテンダーで、私は彼のことを朔ちゃんと呼んでいる。
私がバーに行かないのにはいろいろ理由がある。
「あれから五年でしょ?お兄ちゃんも心配しているし顔見せてあげたら?絶対に喜ぶよ」
「うん、そのうちね……」
曖昧に誤魔化すことしか出来ない。
音波ちゃんも私が朔ちゃんのバーに行かなくなった理由を知っている。
私の二十歳の誕生日にバーであることをやらかして以来、足が遠のいている。
朔ちゃんには失態を見られているし、今さらどの面下げて行けばいいのやらって感じなんだ。
そろそろ行ってみようかなとは思うけど、一歩踏み出す勇気が出ない。
「ねぇ、梨音がバーに行かないのはあのことを引きずっているから?」
「ううん、引きずってはいないよ。もう吹っ切れてるし、今は何とも思ってないから」
「じゃあ、好きな人とか出来た?」
いきなりそんなことを言われ、音波ちゃんをガン見した。
「え、もしかして出来たの?」
私の様子に音波ちゃんが目を輝かせて聞いてくる。
「いや、好きな人は出来てないんだけど……」
「出来てないけど、どうしたのよ?」
「偽装彼氏の提案をされてて」
音波ちゃんなら話してもいいかと思い、打ち明けることにした。
「はぁ?偽装彼氏って誰からよ」
音波ちゃんが素っ頓狂な声を出す。
そりゃそうだよね。
私は音波ちゃんに事の成り行きを全て話した。
本当に偽装彼氏とかいいんだろうかという不安も含めて全部。
だけど、立花さんが会社の御曹司であることは黙っておいた。
身分不相応なのは理解しているし、大ぴらにはしたくないと思ったんだ。
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