次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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悩む日々

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動揺しつつ、何とか誤魔化そうとしたけど宮沢は更に覗き込もうとする。
会議中に小競り合いをしているのが見つかったらまずいし、もう隠しきれないと観念して手をのけた。

「ん?なんだこれ、犬か?」

複雑そうな表情を浮かべている。
どうせ私の絵は下手くそですよ!
一応、犬のつもりですけど何か?と言いたくなる。

「どうした、そこ!うるさいぞ」
「すみません」

結局、見つかってしまった。
高柳課長に注意され、私は謝罪し肩を竦めた。
企画部課長の高柳千尋さん。

高柳課長は立花さんの同期だ。
課長も立花さんに負けず劣らずのイケメンだ。
二人はうちの会社のツートップのイケメンといっても過言ではない。
銀フレームの眼鏡の奥の瞳は綺麗な二重で、真っ直ぐに通った鼻筋。
身長も立花さんよりも高いかも知れない。

この二人が並んでいると華があり、近寄りがたい雰囲気がある。
高柳課長には彼女がいるとの噂で、それを知って何人の人が涙をのんだか分からないという話しを聞いたことがある。

「すみません。でも高柳課長、この絵を見てください」

宮沢は私の手元の紙を抜き取り、あろうことか高柳課長に差し出した。
嘘でしょー!
止めて!という私の心の声は届くはずもなく。

「どれ……」

高柳課長は私の落書きを見ている。
そして、周りの人たちにも見せている。
穴があったら入りたいよ。

ホント余計なことして!!!
隣りの宮沢を睨みつけると、ニヤリと口角を上げて笑っている。
これ、嫌がらせをされているわけじゃないよねと疑いたくなる。
ムカつく。
バチバチと火花を散らすように睨み合っていると、高柳課長が口を開く。

「河野さん、これは犬?だよな」

ほら、高柳課長も疑問形で聞いてくるぐらいのレベルの絵なのに!

「……はい。一応、チワワをモチーフに描いたんですけど」

尻すぼみで小さくなる声。
ホントに落書きもいいところ。
こんなのを高柳課長たちに見られるとか最悪。

「いいじゃないか。これでいこう」
「えっ?」

まさかの一言に私は自分の耳を疑った。
高柳課長は何を思ったのか、決定だとばかりに私の描いた犬の絵を赤丸で囲ってしまった。

「野中、この犬をもうちょっと可愛く描いて、もふりんの友達として並べてもおかしくないようにしてみてくれ」

野中さんというのはやり手の男性デザイナーで、いくつものヒット商品を手掛けている。
確か二十九歳で、茶色がかった柔らかそうな髪の毛。
スーツを着ている企画部や営業とは違い、いつもラフな服装をしている。

「分かりました。次の打ち合わせまでに考えておきます」

そんなこんなで、私が描いたある意味"画伯”並みの犬の絵が野中さん手により可愛い犬に変身することになったんだ。

***

私が考えたキャラがいろいろな文房具に描かれることになったきっかけを与えてくれた点だけは宮沢に感謝している。

「サンプルが出来上がったよ」

高柳課長が段ボールを会議室のテーブルの上に置いた。
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