次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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悩む日々

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エレベーターで玲奈と別れ、企画部のフロアへ戻る途中で休憩スペースに寄った。
そこには自動販売機やテーブルや椅子などが設置されていて、観葉植物も置いてある。
ちょうど観葉植物の手入れをしている作業服を着ている清掃員のおじいさんがいた。
年齢的には七十代ぐらいで、その辺のおじいさんよりは若い感じがして物腰も柔らかく話しやすい人だ。

「お疲れさまです」

声をかけると、おじいさんが作業していた手を止め笑いかけてくれた。

「お疲れさん」
「しげさん、いつも綺麗なお花をありがとうございます」

敷地内の花壇などは清掃員のおじいさんが世話をしている姿を何度も目にしていた。
会社と倉庫を行ったり来たりしていると自然と花壇が視界入る。
色とりどりの花は私の心を癒やしてくれていた。
だから、会った時にお礼を言いたくなるんだ。

「いや、花の手入れはわしの趣味みたいなもんだからな。でも、いつも礼を言ってくれるのは梨音ちゃんぐらいだよ」

しげさんは嬉しそうに目を細めて言う。
初めて会った時、自分の名前を名乗ってから、私のことは"梨音ちゃん”と呼んでくれるようになった。
おじいさんの名前を聞くと「みんなからは、しげさんと呼ばれているから梨音ちゃんもそう呼んでくれ」と。

それからは"しげさん”、"梨音ちゃん”の仲だ。

「梨音ちゃんはどんな花が好きなんだい?」
「私ですか?えっと、カスミ草とかガーベラが好きです」

突然、好きな花を聞かれて頭に思い浮かんだ花の名前を言った。
学生の頃、ピアノを習っていてこの組み合わせで花束をもらったことがあるのを思い出した。
ピアノ演奏が終わり、両手いっぱいの花束をもらった時は本当に感動した。
ピンクやオレンジのガーベラに白のカスミ草の組み合わせが今でも大好きだ。

そういえば、高校の卒業式にもこの組み合わせで両親から花束をもらったなぁ。
妹の柚音は「花は枯れるから、私はケーキとか食べ物の方がいい」とか言ってたっけ。
自分で花を買うことは滅多にないけど、花を見ると癒されるんだよね。

「そうかい。覚えておくよ。それじゃ、草むしりしてくるか」

しげさんは腰をトントンと叩く。

「あまり無理はしないでくださいね」
「ありがとさん。ボチボチやるよ」

そう言うと、しげさんは休憩スペースを後にした。

しげさんと話すとホッと和むと同時に、自分の祖父母のことを思い出す。
そういえば、うちのおじいちゃんやおばあちゃんにしばらく会ってない。
たまには顔を見せに行かないといけないなぁ。
また、おじいちゃんたちが好きないちご大福でも買って行こうかな。
そんなことを思いながらICカードを自動販売機にかざし、レモンティーを買って企画部のフロアへ向かった。
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