次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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悩む日々

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「梨音、最近どうよ?」

社員食堂でカボチャのてんぷらを食べようとした時、同期の中村玲奈が口を開く。
玲奈は中学の時の同級生で、高校大学は別だったけど偶然にも同じ会社に入社し、久々の再会を果たした。
玲奈は広報部で働き、いろいろと情報通で絶賛彼氏募集中だ。
いつ見てもメイクは完璧だし、指先は綺麗にネイルを施していて隅々まで抜かりがない。
小柄でブラウンのショートボブ、美人というより可愛いといった印象を受ける。

玲奈とは時間が合えば、こうして社員食堂や外にランチを食べに行ったりしている。
でも、そんなことばかりしていたら食事代がかかるので、自分で作ったお弁当を持ってくることもあるけど。

それより、その最近どうよっていうザックリとした質問は何よ。
玲奈のことだから恋愛絡みだと思うけど。

「特に何もないよ」
「えー、つまんない」

私の答えが気に入らなかったのか、玲奈は頬を膨らませる。
一体、どんな返事を期待していたんだか。

「つまんないって失礼なんだけど」
「ごめんごめん。でもさぁ、梨音は彼氏とか欲しくないの?」

"彼氏"という言葉にあることを思い出してむせてしまい、食べていたものを口から吐きそうになった。

この前、立花さんは私にとんでもないことを提案してきた。
『だったら俺と恋、してみない?』だなんて、最初は言われた意味を理解するのに時間がかかった。

返事は少し待ってくれるという言葉に甘えて、いまも悩み中で返事が出来ないでいる。

「ちょっと大丈夫?」

むせている私に玲奈が心配そうに声をかける。

「あ、うん。大丈夫。ごめん」

水の入ったグラスを持ち、喉を潤して一息ついた。
あまりにもタイムリーな話で動揺が隠せない。

「で、彼氏は欲しくないの?」
「あー、時が来たらって感じかな」

しつこく聞かれ、私は曖昧に誤魔化した。
立花さんに偽装彼氏の話を持ちかけられていることは内緒にした方がいいと判断したからだ。
流石に同じ会社の社員の玲奈には相談できない。
第一、うちの会社の御曹司なので立花さんの立場だってある。

玲奈のことは信用しているけど、どこから話が漏れるか分からない。
もし、そんなことにでもなったら立花さんに迷惑をかけてしまうから、用心するに越したことはない。
「ごめんね、玲奈」と脳内で謝罪した。

「時が来たらって何よ。」
「まぁ、私のことはおいといて、そういう玲奈はどうなの?」

呆れたように言われたけど、これ以上、突っ込まれたくなくて話題を変える。

「来月ぐらいに合コンする予定なんだ。前から気になっている人がいて、その人に来てもらうように頼んでいるから超楽しみ!」
「そっか、上手くいくといいね」

玲奈は本当に嬉しそうな表情をしている。
"恋のリハビリか……"と小さく呟き、残りのご飯を頬張った。

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