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愛を確かめ合う

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「よくお似合いですね。それでは、こちらが二十四センチのパンプスになります。どうぞ、お履きください」

足元に置かれたのは五センチぐらいのヒールのあるアイボリーのパンプスだ。
私は言われるままにそれを履いた。

「夏木様の履いていた靴はビニール袋に、着ていた服はこちらの紙袋に入れてください」

言われた通り、履いていたサンダルをビニール袋に入れ、ハンガーに掛けていた服をビニール袋と共に紙袋にしまった。

「あの、これはどういうことなんでしょうか?」

「すみません、鳴海さまの依頼通りにやらせていただいているだけなので」

店員の人は申し訳なさそうに言う。

「あと、メイク直しと髪の毛の方も整えさせていただいてもよろしいでしょうか?」

ここでなにか言ったら店員さんを困らせてしまいそうなので、私は素直に頷いた。

店員に促されるまま、『ラッシュ』の隣のヘアメイクサロン『イルミナイス』に移動した。
鏡の前に座らされ、まずは崩れたメイクを手早く直してくれた。
そのあと、ひとつに纏めていたゴムを外して丁寧に櫛でブラッシングし、アップヘアにスタイルチェンジされた。
鏡に映る自分の姿を見て、ここへ来たときと別人になっていた。

「このあとはロビーでお待ちください。本日はご利用ありがとうございました」

支払いはもう済ませているみたいで、私は店員に笑顔で送り出され、バッグと紙袋を手にロビーに向かった。
ロビーの空いている椅子に座り、テツが来るのを待つ。
何気なく時計を見ると十八時五十五分だった。
私はスマホを出して、テツにメッセージを送る。

【お疲れさま。テツに言われたお店に行ったら、ワンピースとパンプスを渡されたんだけど。どういうこと?】

送ってみたものの、全然既読にならなかった。
私は仕方なく、ホテルのエントランスをボーッと眺めていた。
宿泊やホテル内のレストランなどを利用する人が、ガラス張りのドアから出入りしている。
サラリーマンやカップル、年配の夫婦など様々だ。

ふと、エントランスの外を歩いているスーツ姿のスラリとした長身の男性が視界に入る。
テツだ。

反対側から歩いてきた二人組の女性がすれ違いざまに振り返り、テツを目線で追いながらコソコソと話している。
それだけ周囲の目を惹く容姿をしているんだと再認識する。

あっ、さっきの女性がテツを追いかけてきて話しかけている。
テツは表情を変えることなく、なにか一言喋り、エントランスからひとり入ってきた。
ロビーを見回すように視線を動かしているテツと目が合うと、フッと表情を緩め笑顔で私の方に歩いてきた。
私はその表情を見た瞬間、胸がキュンとなった。

「美桜、お待たせ」

椅子に座ったテツに、私は疑問に思っていることを聞いた。

「テツ、これはどういうこと?言われたお店に行ったら服を着替える様に言われたんだけど」

「あー、よく似合ってて可愛い」

目を細めて笑うテツにドキドキする。
ここが高級ホテルという、いつもと違う空間だからかもしれないけど、テツが眩しく見えた。

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