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強引な優しさ
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「それでおばさんに相談して。あ、おばさんていうのは私のお母さんの妹で、あの店の店長の奥さんなの。おばさんからしばらくの間、仕事を休むことを提案されたの。でもね、しばらくの間って言ってもそのサラリーマンがいつまでお店に通うか分からないでしょ。休んでいる間、仕事ができないから一旦、退職という形をとったの」
「そうだったのか」
私の話を黙って聞いていたテツが小さく息を吐く。
そして決意のこもった強い眼差しを向けてきた。
「美桜、俺の所へ来い」
「えっ、どういうこと?」
「そのストーカー、勘違いとかじゃないと思う。もし、そいつが粘着質だったら美桜の住んでいる場所とか突き止めるかも知れないぞ。少し前から店に通ってたんだろ。通勤しているところを見られていたら駅もバレてるかもしれない。美桜が辞めたことを知って家まで押しかけたり、美桜の行くところ全てで遭遇したらどうするんだ?」
テツに言われたことを想像したらゾッとした。
いくらお店を辞めたからといって、斉藤さんと会わないという保証はない。
きっと、明日も弁当を買いに来るだろう。
その時、お店で私が辞めたことを聞いてどう思うのかな。
それで諦めてくれたらいいけど、こればかりは分からない。
もし、斉藤さんの行動がエスカレートしたら私はどうしたらいいんだろうと不安に駆られた。
キャパオーバーで黙りこんでしまった私にテツは更に言葉を紡ぐ。
「俺の知らないところで美桜が危険な目に遭うのだけはマジで嫌なんだ。だから、俺の家に来て欲しい。美桜のこと、そばで守らせてくれ」
テツの想いがじわりと胸に響く。
でも、甘えてもいいんだろうか。
そんな気持ちで目の前のテツを見ると、フッと表情を緩めて笑う。
「俺は美桜のことが好きだと言っただろ。好きな子を自分の手で守りたいと思うのは当然のことだ。美桜は俺を利用すればいい」
「利用だなんてそんな……」
失礼なことは出来ない。
十数年振りに偶然会ったテツにそこまで頼れない。
かといって、この状態で一人でいるよりテツがいてくれた方が心強いのは確かだ。
だけど、テツの家に行くのはハードルが高すぎる。
それって、テツと同居ってことでしょ。
脳内で葛藤していたら、テツがニヤリと意味深な笑みを浮かべて口を開いた。
「俺たちは深い関係になってるのに、今さら何を遠慮してるんだよ」
それって……!
あの時のことを思いだし、顔が赤くなる。
「俺だって美桜と一緒にいれるのは願ったり叶ったりだし、ウィンウィンだと思うけど」
「でも……」
「あー、もう!ごちゃごちゃうるせぇな。俺と一緒に住むのは決定事項だから。はい、この話は終わり」
テツは強引に話を切り上げ、目の前のウーロン茶を一気に飲み干した。
「そうだったのか」
私の話を黙って聞いていたテツが小さく息を吐く。
そして決意のこもった強い眼差しを向けてきた。
「美桜、俺の所へ来い」
「えっ、どういうこと?」
「そのストーカー、勘違いとかじゃないと思う。もし、そいつが粘着質だったら美桜の住んでいる場所とか突き止めるかも知れないぞ。少し前から店に通ってたんだろ。通勤しているところを見られていたら駅もバレてるかもしれない。美桜が辞めたことを知って家まで押しかけたり、美桜の行くところ全てで遭遇したらどうするんだ?」
テツに言われたことを想像したらゾッとした。
いくらお店を辞めたからといって、斉藤さんと会わないという保証はない。
きっと、明日も弁当を買いに来るだろう。
その時、お店で私が辞めたことを聞いてどう思うのかな。
それで諦めてくれたらいいけど、こればかりは分からない。
もし、斉藤さんの行動がエスカレートしたら私はどうしたらいいんだろうと不安に駆られた。
キャパオーバーで黙りこんでしまった私にテツは更に言葉を紡ぐ。
「俺の知らないところで美桜が危険な目に遭うのだけはマジで嫌なんだ。だから、俺の家に来て欲しい。美桜のこと、そばで守らせてくれ」
テツの想いがじわりと胸に響く。
でも、甘えてもいいんだろうか。
そんな気持ちで目の前のテツを見ると、フッと表情を緩めて笑う。
「俺は美桜のことが好きだと言っただろ。好きな子を自分の手で守りたいと思うのは当然のことだ。美桜は俺を利用すればいい」
「利用だなんてそんな……」
失礼なことは出来ない。
十数年振りに偶然会ったテツにそこまで頼れない。
かといって、この状態で一人でいるよりテツがいてくれた方が心強いのは確かだ。
だけど、テツの家に行くのはハードルが高すぎる。
それって、テツと同居ってことでしょ。
脳内で葛藤していたら、テツがニヤリと意味深な笑みを浮かべて口を開いた。
「俺たちは深い関係になってるのに、今さら何を遠慮してるんだよ」
それって……!
あの時のことを思いだし、顔が赤くなる。
「俺だって美桜と一緒にいれるのは願ったり叶ったりだし、ウィンウィンだと思うけど」
「でも……」
「あー、もう!ごちゃごちゃうるせぇな。俺と一緒に住むのは決定事項だから。はい、この話は終わり」
テツは強引に話を切り上げ、目の前のウーロン茶を一気に飲み干した。
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