拗らせ女の同期への秘めたる一途な想い

松本ユミ

文字の大きさ
上 下
7 / 8
拗らせ女の同期への秘めたる一途な想い

しおりを挟む
 ***

明日香に言われ、私はずっと考えていた。
巧と話し合った方がいいと言われても、どう切り出していいか分からなかった。

『好き』だと告白しても振られるだけで、今までの関係がギクシャクする未来しかみえない。
会って『セフレはやめる』と言えばいいのかな。
いくら考えても正解にたどり着けなくて、とりあえず会う約束だけしていた。

金曜の仕事終わり、いつものように巧の部屋に向かった。
今日は、まだお風呂には入っていないみたいで部屋着で出迎えられた。

「飯食う?」

「ううん。ちょっと話がしたくて」

晩御飯は食べていないけど、今はお腹が減ってなかった。
私はいつものようにラグの上に座る。

「なんか飲む?」

「大丈夫」

「えっ、いったいどうしたんだ?」

普段と違う私の様子に巧が怪訝な表情で隣に座った。
私と一緒にいるとき、巧は無愛想な仮面を外す。
気心が知れている私だけに見せる顔だ。

私が話を切り出したあとは、もうこの顔も見れなくなるのかな。
緊張して膝の上に置いていた手をギュッと握る。

「あのね、」

口を開いたときにスマホの着信音が鳴った。
私の好きなアーティストの曲が部屋に鳴り響いている。

「ちょっとごめん」

バッグの中に入っていたスマホを見ると、お母さんからだった。
今は出たくないかも、と無視をした。
けど、うるさく鳴り続く私の着信音。

「出ないのか?」

「あ、うん。お母さんからだし」

「俺のことは気にせず出ろよ」

そんなことを言われたら出ないわけにはいかない。
私は渋々、スマホの画面をタップした。

「……もしもし」

『もしもし、すみれ?あんた、お見合いの日は来週の土曜でいいんでしょ?』

「それはちょっと待って」

『どうしてよ。先方に連絡しないといけないんだから。すみれの都合を教えてもらわないと困るんだけど』

「こっちも今、お見合いの話なんてされたら困るから」

思わずそう叫んでいた。

「見合い?」

巧の低い声が耳に届く。
慌てて隣を見ると、不愉快そうにムッとした表情の巧と目が合った。
まずい、とりあえず電話を終わらせよう。

「お母さん、用事があるからまたかける。じゃあね」

『ちょっと待ちなさっ……』

話を遮って電話を切ると、電源を落とした。
スマホをバッグの中にしまっていたら、隣からの視線が突き刺さる。

「すみれ、見合いってなに?」

巧が怒っている気がする。
こんな巧は初めて見るかもしれない。
私はビクビクしながら口を開いた。

「お、お母さんが彼氏もいないし結婚の予定がない私に見合いの話を持ってきて」

「は?彼氏はいるだろ」

間髪入れずに言われた言葉に反論した。

「いないよ、彼氏なんて」

「ふざけんなよ、マジで」
 
巧が不機嫌丸出しで私を睨んだ。
なんで巧がそんなことを言うのか理解できなかった。
どこに私の彼氏がいるというんだろう。
もし、他に私の彼氏がいたとしたら、巧とセフレなんかになるわけない。

「ふざけてないよ。私に彼氏なんていない!」

「いるだろうが、俺が」

「えっ?」

「えってなんだよ」

「なんだよって、巧こそなにを言ってるの?」

私の耳はおかしくなったんだろうか。
巧が彼氏?
 
「すみれこそ、なに言っているんだ。俺とお前は付き合っているだろ」

「えっ?は?なに、それ……」

聞き間違いだろうか。
巧は当たり前のように、私と付き合っていると言っている。
本当に意味がわからない。
疲れすぎて私の脳がバグってるのかな。

「おい、ちょっと待て。俺はずっとすみれと付き合っていると思っていたんだけど」

「嘘だっ」

「嘘じゃねえよ。俺が好きじゃねえ奴なんて抱くわけないだろ」

「えっ?」

それって、好きな人なら抱くということなのかな。

「じゃあ、すみれは俺のことどう思っていたんだ?」

改めて聞かれ、私は小さな声で「セフレ……」と答えた。

「バッカ!お前クソだろ」

巧は盛大に暴言を吐いた挙句、私の両頬を抓ってきた。

「いひゃい」

「なんでそんなとんでもない発想になるんだよ」

巧は呆れたように言い、手を離した。

「だって、酔った勢いでエッチしたでしょ」

「あの時か。確かにお前はベロベロに酔ってたよな」

「巧だって酔ってたじゃん」

「あんなの酔ったうちに入らない。だから、俺は酔った勢いで抱いたわけじゃない。それに、すみれは俺のこと好きって言ったじゃん」

眩暈がした。
私が巧のことを好きと言った?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

ストーカーはもうしません!

エヌ
恋愛
ス、トー...カー? 自分の行為がストーカーかもしれないと気づき自重する令嬢と無表情無反応されるがままとみせかけたヤンデレ令息のお話。

見栄を張る女

詩織
恋愛
付き合って4年の恋人がいる。このままだと結婚?とも思ってた。 そんな時にある女が割り込んでくる。

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

完結)余りもの同士、仲よくしましょう

オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。 「運命の人」に出会ってしまったのだと。 正式な書状により婚約は解消された…。 婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。 ◇ ◇ ◇ (ほとんど本編に出てこない)登場人物名 ミシュリア(ミシュ): 主人公 ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

処理中です...