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冥界
異世界での夢
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夢のことを考えている間に二階にある寝室へ案内してもらった。
薄いレースのカーテンが窓にかかっていることが夜闇の中でもわかるほど、やわらかな月の光が差し込み部屋を明るく照らしている。
ベッドも部屋もひとつしかなかった。
ジニアはどこで寝るのか、自分がベッドを使うと寝れなくなってしまうのではないか。
気になって聞いてみると、今日はいろいろすることがあって眠れないから気にしないで使って欲しいとのことだった。
家を空ける用事なので、戸締まりをして出るとも伝えられた。
そういえば今まで家に一人っきりで眠ったことがなかった。それがいかに心細いことかをたった今初めて思い知らされている。
冷たい親でも、いてくれたら心強かったんだな……。
傍にいたら寂しくて胸が締め付けられるような孤独を覚えるけれど、傍にいてくれるだけでもありがたいんだ。
一人しかいない家の中、カーテン越しに見える月がこちらを温かく見つめてくれている気がした。
そっと月に向かって手を伸ばしてみる。なんとなくそうしようと思っただけだった。
不思議と、寂しい気持ちが和らぎ穏やかな眠気に誘われる。
精霊だけじゃなくて僕にも愛を受け取れてるような気がして、ほんのりと心が温かくなってきた。
もし次に目が覚めたら、一気にこの夢から覚めているのだろうか。
もしそうなってしまうのなら、せめてお礼の一言を伝えてから起きたいな。
心配事をよそに、水の中へゆっくりと沈みゆくかのように夢の中へと落ちていった。
#
あたりは真っ暗だが、自分が夢を見ているということだけははっきりとわかる。
「おい、お前……なにしやがった」
笹倉の声が途切れつつ暗闇に響き渡る。
心臓を掴まれたような感覚に加えて体が強ばるのを感じる。
「なにって……思って。……からさ」
これは……誰の声だっただろうか。
「俺は……絶対に…。古部!」
ということはさっきの誰かわからなかった声は古部で、笹倉と揉めているらしい。
「笹倉くん!」
最後に宮本の声が響き渡り、殴ったり蹴ったりの音が聞こえてきたあとはもう何も聞こえず、ただ真っ暗な空間に覆われているだけの夢に変わった。
怖い、怖い……。
闇の中で丸くなっていると、光が差し込んできた。
美しくやわらかな月の光。
照らし出された闇とともに、さきほどまでの恐怖はゆっくり消えていく。
光の方から懐かしい声が聞こえてくる。
ゆっくり見上げてみると手が差し伸べられた。
顔も頭も月の逆光でよく見えないが、おそらく……。
「裕樹……」
様々な思いを込めて手を伸ばしたが、手を取るとこのまま一気に目が覚めて現実に連れ戻されそうな気がしてきて引っこめてしまった。
すると、誰かわからない程度に顔が見え、悲しそうな目と怒りに満ちた表情でこちらを見ている。
ゆっくりと自分の意識が覚醒に向かっているのがわかり、夢にしがみついていたいと強く願うがそれも虚しく終わった。
いやだ、まだ目を覚ましたくない。
#
翌朝、目が覚めるとカーテン越しにうっすらと浮かぶ月が目に入り、ジニアの家にいることがわかった。
なにか恐ろしい夢を見た気がしたが、この世界の夢をまだ見ていたいという気持ちを抱えていたことしか思い出せなかった。
よかった、まだ目が覚めていない。
目が覚めたのに目が覚めてないなんてちょっとおかしな表現で、夢の中で眠りについて夢の中で目覚めるのもまた変な話だ。
なんてことを思いながら体を起こし、軽く伸びをする。
爽やかな朝を迎え、清々しい気持ちで空気を胸いっぱい吸い込む。
ベッドから出ようとしていると、下の階から上がってくる足音が聞こえてきた。
「お目覚めですか?」
寝ている間に帰ってきていたらしく、ジニアがひょっこりと階段から顔をのぞかせながら微笑みかけてくれていた。
ジニアの微笑みをみるとチクリと胸がいたんだが、どういうわけかこの上ない安心感に包まれ、今起きたところだと伝える。
不思議なことに、昨日まで抱いていた不安や恐怖などは微塵もなく、友達と仲良く遊んでいた時に戻ったような気分になれるほど幸せだった。
「よければ、昨日紹介できなかった植物を紹介させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
上目遣いでこちらを見つめながら聞いてくる仕草がとても人懐っこく感じられる。
他にやることも思い浮かばないし興味しかない。
「見てみたいな!」
どんな植物だろう。
期待に胸を膨らませ、一緒にいられるのが嬉しいと目を輝かせながら示す。
気持ちが伝わったからかとても嬉しそうに微笑み、案内してくれた。
ジニアの敷地は外から見ると小規模な森に見えていたが、実際に歩いて回ってみるととても広く感じた。
木漏れ日がとても美しく思える程度に生い茂っている木々はとても心地よく、日の当たる場所には小さくて綺麗な花が自然と生えている。
歩いているだけで心が洗われているようだった。童話の世界に入ってしまったのではないかと錯覚してしまうほどに。
森を抜けた先には広場があり、そこには小屋がいくつか並んでいた。
森に囲まれた広場から見上げる空は、別世界だと知った後の奇妙な感じをなくしてしまうほど美しく、思いを馳せることが、自由を感じることができた。
屋上から見上げた空を思い出せるほど。
ジニアがはにかみながら、小屋へ案内してくれる声にハッと我に返る。
ここから見上げる空は他の場所から見上げるよりも好きだと話すと、とても嬉しそうに微笑んでみせてくれた。
中に入ると、大きなユリの花、スズラン、アヤメ、水の中にはマリモなど、季節も温度もなにもかも関係なく、多くの植物がそこで育っていた。
「植物を集めることは、この領地の人々がよくやっています。他にも楽しめるようなことが領地の外にあるのですが、この世界にいる人は、ある事情があって自分たちの住む領地を出たがらないのです。その事情について、僕たちはあなたに話すことができません……」
話すことができない、教えることができないのは、そういう決まりかなにかがあるからなのだとなんとなくわかるのだが、それがなんであるか見当もつかない。
話すことができないと言ったジニアの笑顔が少し切なそうに見え、裕樹の好奇心が少し怯んだ。
どういう事情があるのか知りたいし、勝手に想像していってしまう。
でも、それを聞いてしまうことがとても怖い。
聞いてしまったら何かがある。
もしくは、聞くときに何かが起きてしまうという確信に似た予感が胸の中でぐるぐるしているのだ。
「でも、僕はもうこの領地にとどまっていたい理由がないんです。とどまっているのが嫌というわけではないのですけれど。もしよければ、女王様に精霊を見せてもらうお願いをした後、一緒に各地を回ってみませんか」
唐突な申し出に驚き、戸惑った。
この領地のことはもちろん、他の領地もすごく気になるし、精霊もみてみたい。
事情はまだ話すことができないだけで、いつかは話してくれるはずだ。
その時がくるまで一緒に旅をするのもいいかもしれない。
「うん! もしよければだけど、この領地を出る前に端までいって、地上を見てみたいな。実はずっと気になっていたんです」
照れくさくて顔を赤らめながら伝えると、ジニアは優しく微笑みながら了承してくれた。
「安心してください、出発するときには見られるので忘れることはないと思います。僕たちは気球にのって出発するはずなので」
「気球に乗って?」
少し驚いて聞き返すと、にんまり笑いながら説明してくれた。
「空中庭園は地上からかなり高い位置にあります。この領地について説明された時にきいていると思いますが、恐らく想像よりずっと高い位置です。どれくらいだと思います?」
どれくらい……。
うーんと考え、東京タワーくらいだろうかと答えると、ゆっくりと左右に首を振って微笑む。
どれくらいなのかと考えていると、今いる場所だけでもエベレスト以上の高さだと答えてくれた。
目を丸くしている様子を見て、ジニアはさらに笑みを浮かべるのだった。
「本当に木の上にあるのでしょうか。実は山の上にあるのでは?」
そうやって言うのを聞くやいなや、ついにジニアは声を上げて笑い出した。
「僕も最初はそう思いました。信じられないくらいの高さですよね。人伝にしか聞いたことがないので本当かどうか、僕もまだわかりません。出発するとき、この領地を振り返ってみたら本当に木の上にあるかどうかもはっきりするでしょうね」
旅立つ日がとても楽しみになってくる。
旅なんて、起きている時には想像したこともなかったな。
どこかに誰かと行ったことはもちろんないし、ましてや一人で旅に出たことすらない。
初めての旅には不思議と不安な気持ちは一つもなかった。
むしろワクワクする気持ちが止まらなくて楽しい。
どうやら、人が関わっていることには強い不安を覚えるようだ。
自分自身知らなかったことに気づけて、素直に感動した。夢の中で自分にとって都合のいい夢を見ているといえども。
同時に、夢から覚めたら真くんとどこか旅行に行ってみたいとも思うのだったが、果たして両親は許可を出してくれるのかどうか……。
バイトして自分で資金を貯めるのもいいかもしれない。
うちの高校は別に禁止してはなかったはずだ。学業に支障がでないのであればだけど。
まだ夢から覚めてもないのにそんなことを考えてしまう。
その続きは起きてから考えることにして、これからジニアと行く旅に思いを馳せよう。
生まれて初めての旅。それも、初めて乗る気球で。
現実世界にあるような気球なのだろうか、それともなんらかの植物でできた気球なのだろうか。
もし植物でできた気球なら、フウセンカズラや鬼灯のような植物が使われているかもしれない。
ひょっとすると、タンポポの綿毛に籠をつけて飛ぶのかな。
考えだすとどんどん楽しみが膨らんでいく。
考えることで膨らんでいくのは不安も同じことだが、楽しいことを考えるのがこんなにも幸せでワクワクしてくるなんて、僕はずっと忘れていた。
なぜ?
亡くなった友達に申し訳なく思っていたんだ、きっと。
幸せになってもいいのかって。
もしそう思ってなかったとしたら、どんな人生だっただろう。
恐らく、今と大差ない人生だったに違いない。
ただ、楽しみながら過ごせたかどうかが変わるだけだ。楽しめるかどうかは、自分次第だったんだ。
少し悟ったようなことを考えつつ、楽しめている今についても少し気づけたことがあった。
こんなダメな僕の傍にジニアがいてくれるから、今を楽しめているのかもしれない。
現実でもこんな風に楽しめたらどれだけいいだろう。
どれだけ望んだって友達はもう帰ってこないんだ。傷つけてしまった事実だって変わらない。だから……。
目の前にいるジニアを見つめ、少しずつ、前向きな考えが芽生え始めるのを感じる。
大事なのは過去を踏まえた今と、これから先の未来だ。
薄いレースのカーテンが窓にかかっていることが夜闇の中でもわかるほど、やわらかな月の光が差し込み部屋を明るく照らしている。
ベッドも部屋もひとつしかなかった。
ジニアはどこで寝るのか、自分がベッドを使うと寝れなくなってしまうのではないか。
気になって聞いてみると、今日はいろいろすることがあって眠れないから気にしないで使って欲しいとのことだった。
家を空ける用事なので、戸締まりをして出るとも伝えられた。
そういえば今まで家に一人っきりで眠ったことがなかった。それがいかに心細いことかをたった今初めて思い知らされている。
冷たい親でも、いてくれたら心強かったんだな……。
傍にいたら寂しくて胸が締め付けられるような孤独を覚えるけれど、傍にいてくれるだけでもありがたいんだ。
一人しかいない家の中、カーテン越しに見える月がこちらを温かく見つめてくれている気がした。
そっと月に向かって手を伸ばしてみる。なんとなくそうしようと思っただけだった。
不思議と、寂しい気持ちが和らぎ穏やかな眠気に誘われる。
精霊だけじゃなくて僕にも愛を受け取れてるような気がして、ほんのりと心が温かくなってきた。
もし次に目が覚めたら、一気にこの夢から覚めているのだろうか。
もしそうなってしまうのなら、せめてお礼の一言を伝えてから起きたいな。
心配事をよそに、水の中へゆっくりと沈みゆくかのように夢の中へと落ちていった。
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あたりは真っ暗だが、自分が夢を見ているということだけははっきりとわかる。
「おい、お前……なにしやがった」
笹倉の声が途切れつつ暗闇に響き渡る。
心臓を掴まれたような感覚に加えて体が強ばるのを感じる。
「なにって……思って。……からさ」
これは……誰の声だっただろうか。
「俺は……絶対に…。古部!」
ということはさっきの誰かわからなかった声は古部で、笹倉と揉めているらしい。
「笹倉くん!」
最後に宮本の声が響き渡り、殴ったり蹴ったりの音が聞こえてきたあとはもう何も聞こえず、ただ真っ暗な空間に覆われているだけの夢に変わった。
怖い、怖い……。
闇の中で丸くなっていると、光が差し込んできた。
美しくやわらかな月の光。
照らし出された闇とともに、さきほどまでの恐怖はゆっくり消えていく。
光の方から懐かしい声が聞こえてくる。
ゆっくり見上げてみると手が差し伸べられた。
顔も頭も月の逆光でよく見えないが、おそらく……。
「裕樹……」
様々な思いを込めて手を伸ばしたが、手を取るとこのまま一気に目が覚めて現実に連れ戻されそうな気がしてきて引っこめてしまった。
すると、誰かわからない程度に顔が見え、悲しそうな目と怒りに満ちた表情でこちらを見ている。
ゆっくりと自分の意識が覚醒に向かっているのがわかり、夢にしがみついていたいと強く願うがそれも虚しく終わった。
いやだ、まだ目を覚ましたくない。
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翌朝、目が覚めるとカーテン越しにうっすらと浮かぶ月が目に入り、ジニアの家にいることがわかった。
なにか恐ろしい夢を見た気がしたが、この世界の夢をまだ見ていたいという気持ちを抱えていたことしか思い出せなかった。
よかった、まだ目が覚めていない。
目が覚めたのに目が覚めてないなんてちょっとおかしな表現で、夢の中で眠りについて夢の中で目覚めるのもまた変な話だ。
なんてことを思いながら体を起こし、軽く伸びをする。
爽やかな朝を迎え、清々しい気持ちで空気を胸いっぱい吸い込む。
ベッドから出ようとしていると、下の階から上がってくる足音が聞こえてきた。
「お目覚めですか?」
寝ている間に帰ってきていたらしく、ジニアがひょっこりと階段から顔をのぞかせながら微笑みかけてくれていた。
ジニアの微笑みをみるとチクリと胸がいたんだが、どういうわけかこの上ない安心感に包まれ、今起きたところだと伝える。
不思議なことに、昨日まで抱いていた不安や恐怖などは微塵もなく、友達と仲良く遊んでいた時に戻ったような気分になれるほど幸せだった。
「よければ、昨日紹介できなかった植物を紹介させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
上目遣いでこちらを見つめながら聞いてくる仕草がとても人懐っこく感じられる。
他にやることも思い浮かばないし興味しかない。
「見てみたいな!」
どんな植物だろう。
期待に胸を膨らませ、一緒にいられるのが嬉しいと目を輝かせながら示す。
気持ちが伝わったからかとても嬉しそうに微笑み、案内してくれた。
ジニアの敷地は外から見ると小規模な森に見えていたが、実際に歩いて回ってみるととても広く感じた。
木漏れ日がとても美しく思える程度に生い茂っている木々はとても心地よく、日の当たる場所には小さくて綺麗な花が自然と生えている。
歩いているだけで心が洗われているようだった。童話の世界に入ってしまったのではないかと錯覚してしまうほどに。
森を抜けた先には広場があり、そこには小屋がいくつか並んでいた。
森に囲まれた広場から見上げる空は、別世界だと知った後の奇妙な感じをなくしてしまうほど美しく、思いを馳せることが、自由を感じることができた。
屋上から見上げた空を思い出せるほど。
ジニアがはにかみながら、小屋へ案内してくれる声にハッと我に返る。
ここから見上げる空は他の場所から見上げるよりも好きだと話すと、とても嬉しそうに微笑んでみせてくれた。
中に入ると、大きなユリの花、スズラン、アヤメ、水の中にはマリモなど、季節も温度もなにもかも関係なく、多くの植物がそこで育っていた。
「植物を集めることは、この領地の人々がよくやっています。他にも楽しめるようなことが領地の外にあるのですが、この世界にいる人は、ある事情があって自分たちの住む領地を出たがらないのです。その事情について、僕たちはあなたに話すことができません……」
話すことができない、教えることができないのは、そういう決まりかなにかがあるからなのだとなんとなくわかるのだが、それがなんであるか見当もつかない。
話すことができないと言ったジニアの笑顔が少し切なそうに見え、裕樹の好奇心が少し怯んだ。
どういう事情があるのか知りたいし、勝手に想像していってしまう。
でも、それを聞いてしまうことがとても怖い。
聞いてしまったら何かがある。
もしくは、聞くときに何かが起きてしまうという確信に似た予感が胸の中でぐるぐるしているのだ。
「でも、僕はもうこの領地にとどまっていたい理由がないんです。とどまっているのが嫌というわけではないのですけれど。もしよければ、女王様に精霊を見せてもらうお願いをした後、一緒に各地を回ってみませんか」
唐突な申し出に驚き、戸惑った。
この領地のことはもちろん、他の領地もすごく気になるし、精霊もみてみたい。
事情はまだ話すことができないだけで、いつかは話してくれるはずだ。
その時がくるまで一緒に旅をするのもいいかもしれない。
「うん! もしよければだけど、この領地を出る前に端までいって、地上を見てみたいな。実はずっと気になっていたんです」
照れくさくて顔を赤らめながら伝えると、ジニアは優しく微笑みながら了承してくれた。
「安心してください、出発するときには見られるので忘れることはないと思います。僕たちは気球にのって出発するはずなので」
「気球に乗って?」
少し驚いて聞き返すと、にんまり笑いながら説明してくれた。
「空中庭園は地上からかなり高い位置にあります。この領地について説明された時にきいていると思いますが、恐らく想像よりずっと高い位置です。どれくらいだと思います?」
どれくらい……。
うーんと考え、東京タワーくらいだろうかと答えると、ゆっくりと左右に首を振って微笑む。
どれくらいなのかと考えていると、今いる場所だけでもエベレスト以上の高さだと答えてくれた。
目を丸くしている様子を見て、ジニアはさらに笑みを浮かべるのだった。
「本当に木の上にあるのでしょうか。実は山の上にあるのでは?」
そうやって言うのを聞くやいなや、ついにジニアは声を上げて笑い出した。
「僕も最初はそう思いました。信じられないくらいの高さですよね。人伝にしか聞いたことがないので本当かどうか、僕もまだわかりません。出発するとき、この領地を振り返ってみたら本当に木の上にあるかどうかもはっきりするでしょうね」
旅立つ日がとても楽しみになってくる。
旅なんて、起きている時には想像したこともなかったな。
どこかに誰かと行ったことはもちろんないし、ましてや一人で旅に出たことすらない。
初めての旅には不思議と不安な気持ちは一つもなかった。
むしろワクワクする気持ちが止まらなくて楽しい。
どうやら、人が関わっていることには強い不安を覚えるようだ。
自分自身知らなかったことに気づけて、素直に感動した。夢の中で自分にとって都合のいい夢を見ているといえども。
同時に、夢から覚めたら真くんとどこか旅行に行ってみたいとも思うのだったが、果たして両親は許可を出してくれるのかどうか……。
バイトして自分で資金を貯めるのもいいかもしれない。
うちの高校は別に禁止してはなかったはずだ。学業に支障がでないのであればだけど。
まだ夢から覚めてもないのにそんなことを考えてしまう。
その続きは起きてから考えることにして、これからジニアと行く旅に思いを馳せよう。
生まれて初めての旅。それも、初めて乗る気球で。
現実世界にあるような気球なのだろうか、それともなんらかの植物でできた気球なのだろうか。
もし植物でできた気球なら、フウセンカズラや鬼灯のような植物が使われているかもしれない。
ひょっとすると、タンポポの綿毛に籠をつけて飛ぶのかな。
考えだすとどんどん楽しみが膨らんでいく。
考えることで膨らんでいくのは不安も同じことだが、楽しいことを考えるのがこんなにも幸せでワクワクしてくるなんて、僕はずっと忘れていた。
なぜ?
亡くなった友達に申し訳なく思っていたんだ、きっと。
幸せになってもいいのかって。
もしそう思ってなかったとしたら、どんな人生だっただろう。
恐らく、今と大差ない人生だったに違いない。
ただ、楽しみながら過ごせたかどうかが変わるだけだ。楽しめるかどうかは、自分次第だったんだ。
少し悟ったようなことを考えつつ、楽しめている今についても少し気づけたことがあった。
こんなダメな僕の傍にジニアがいてくれるから、今を楽しめているのかもしれない。
現実でもこんな風に楽しめたらどれだけいいだろう。
どれだけ望んだって友達はもう帰ってこないんだ。傷つけてしまった事実だって変わらない。だから……。
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