夢魔

木野恵

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はじまりの夢

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 夢の中でまで一人遊びをしている子がいた。

 夢なのだから、気になる子や好きなキャラクター、いろいろなものを自由に思い浮かべて一緒に遊ぶことだってできるのに、どういうわけか一人で草むしりをしている。

 最初はとても遠くからなにもしないで観察するだけにしていたが、これが非常にもどかしい。もどかしすぎてたまらない。

 なにがもどかしいって? だって、夢だぞ? なんでも好きなことを思い描ける夢の中でだぞ? 一人で草むしりをしてるとか、何がどうしてそんな寂しいことを夢の中でまでしているんだ。一周回って腹立たしい。

 見ていて腹立たしいのであれば見なければいい。

 しかし、妙に気になって目を離すことができないのだった。

 そうやって見続けていると、虫を捕まえたり、探検に出たり、起きている間でもできるような一人遊びを次々とやり始めた。見ているだけで思わず笑ってしまう。



 次第に、この子の世界は非常に狭く、手を差し伸べても自分の世界へと閉じこもりがちであることに気づけた。

 どうやってわかったかって? だってここは夢の中だから。

 夢では人の心も魂も丸裸で無防備だからこそ、自由で正直でわかりやすいのだ。

 人の姿を――背格好の近い子供の姿を模倣している自分に気がついた頃には、すでにあの子へと手を振っていた。

 こちらをちらりと見た!

 嬉しくて嬉しくて、声を掛けようとしたけれど、すぐまた一人遊びに興じるのを目の当たりにしてしまい、思わずムキになってしまう自分を抑えることができなくなった。

 なんでだよ!

 遊びに誘おうと思っていたが、声をかけさせてやるぞと意固地になってしまう自分をどうにも止められなかった。



 次の夜も夢の中へとあの子を誘い込む。リベンジだ。

 いつものように一人遊びを始めてしまう前に、目の前でこれでもかといわんばかりに、楽しそうに遊んでいる姿を見せつけた、見せつけてやったぞ!

 するとどうだろう、じーっと興味津々な様子でこちらを見てくれているではないか!

 やった! さあ、いつしか保育園の先生が教えてくれた魔法の言葉を言うんだ!

 期待に胸を弾ませながら遊んで待っていると、なんと、声を掛ける様子もなく、一人遊びすらせずにこちらを楽しそうな面持ちで、花が咲いているかのような笑顔で見ているだけ。見ているだけだ……。

 そしてそのままその日の夢は終わりを迎えた。

 なんでだよおおお! なんでだ! どうして!? どうして! 訳がわからない!


 
 しばらくしてから冷静さを取り戻し、ゆっくりと思い返す。

 見ているだけでとても楽しそうにしてくれていた、あの可愛い笑顔が真っ先に頭に浮かぶ。

 つまり、それだけで満足していたと……?

 く、悔しい。悔しいからこそ燃え上がってくる。

 こいつは一筋縄じゃいかないな。見てろよ。

 声をかけさせるのはやめにして、次の計画を立てることにした。



 次の日の夜。

 誘いたいと思った最初の想いに従順に、一人遊びを始めようとしているあの子の手をそっと取る。

「あそぼ!」

 これで駄目だったらどうしようという不安に包み込まれる。鼓動が強すぎてとても苦しい。

 手を取る力が強くなってしまわないよう、気持ちと思考を切り離し、今触れているのは赤ちゃんのお尻、熟れてとても柔らかい桃だと思い込むことにした。

 どちらも似たような形状だと心の中で笑ってしまう。それ以上にデリケートななにかが頭に浮かんでこなかったのだ。

 固唾を呑んで見守っていると、頬を赤らめ、目を微かにうるませながらゆっくりと頷いてくれたではないか! それはもう、飛び跳ねてしまいそうなくらい嬉しかった!



 さて、何から遊ぼうか!

 張り切っていると、あの遊びがしたいこの遊びがしたいと、次々とアイディアが浮かんできて困ってしまった。

 そうこうしているうちに閃いたのがおいかけっこ!

 自分でも理由が分からない。

 ただひたすら無邪気に走り回り、追いかけあって、たくさんはしゃいだ。

 追いかけっこの後はだるまさんがころんだで遊び、シーソーに乗って遊んだり、二人以上じゃないと遊べないようなことをたくさんした。

 楽しんでもらうはずが楽しませてもらっちゃったな。

 この子も楽しんでくれたのだろうかと気にしていると夢の終わる時間が訪れた。

 あの子がゆっくりと消えていく。

 あの子にとっては浮き上がっている感覚なのだろうなあ。

「またね」

 またもう一度夢で逢おう。

 また来てもらえるように願いながら大きく手を振って再会のおまじないを唱えた。

 またいつか夢へ遊びにおいで。
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