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現
はじまりの夢
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遊んでいるみんなを見て、楽しそうだなんてぼんやりと思いながら眺めていた。
そんな私の様子を見兼ねたのか、保育園の先生が声を掛けてくれた。
「『いーれーて』って言おー」
輪に入って遊ぶ魔法の言葉を一緒に言うと、みんなは一緒に遊んでくれた。
そうやって、仲間に入り方を教えてもらえても、結局身に付けることができないまま過ごしていた。なんだか照れ臭かったからだろうか、理由は今でもわからない。
絵を描いたり、色々な落ち葉を集めたりと、一人遊びに興じていたある日の夜だ。
夢を見た。今思えばこれがはじまりの夢だった。
夢の中でも私は一人で草むしりをしたり、虫を捕まえたり探検したり、一人で遊んでいた。
そんなある夢のできごと。
遠くから手を振ってくれている人が登場した。
姿も声もわからず、人の形をしている誰かが手を振ってくれていると認識して気になりはしたけれど、声を掛けに行かずいつものように一人で遊び続けた。
次の日夢を見たとき、手を振っていた誰かは前よりも近い場所で楽しそうに遊んでいた。なんだかちょっぴりこれ見よがしに。
あまりに楽しそうだったので、いつものような一人遊びに熱中せず、その子が遊んでいる様子を見たいと思わされた。見ているだけでこちらも楽しくてたまらない気持ちになれたからだ。
起きている間のように、様子を見ているだけで加わろうとはしなかったけれど、羨ましいとか、一緒に遊びたいという感情よりも、この子はいったいどんな子なのかが知りたくてたまらなくなった。
見ているだけでこちらも同じように楽しくなれて、心が満たされたからかもしれない。
そのまた次に夢で会ったときのこと。
「あそぼ!」
声も顔も体も相変わらずぼやけていてわからなかったけれど、手を優しく取ってくれているのはわかった。
握られている手だけがひんやりとしており、ぞわぞわと、軽く痺れたようになっていたが不快感はなかった。
冷たい感触でも、ちょっぴりビリビリ感じていても、そこに込められた優しい気持ちに嘘偽りなどはなく、素直に受け取ることができた。
少しだけ怖かったけれど、ゆっくりと、抵抗なくうなずくことができた。
不思議で仕方がないのだけれど、照れ臭さも抵抗もなにもなかった。いや、なにもないといえば嘘になってしまう。そこには微かにときめきがあった。
ちょっとずつ、ゆっくりと距離を縮めてくれたからだろうか? きっとそう。
夢の中にいると魂が剥き出しで、ありのままの自分、素直な自分でいられるから? これもきっとそうだ。
私の手をそっと取った、あなたの手に込められた優しさが伝わったからだろうか? 間違いなくそうだと言える。
おいかけっこしたり、だるまさんが転んだをしたり、シーソーに乗ったり、一人じゃ遊べなかった遊びをたくさんした。
たくさん遊んで満足をしていると、夢から一気に引き戻される感覚に見舞われた。
夢の深海から現実の陸へ、瞬く間に浮き上がっていっているよう。
そのほんの一瞬の間のこと。
「またね」
大きく手を振りながら見送ってくれていた。
嬉しくて手を振り返したかったのに、そんな猶予はなかった。
冷たいけれど、とても温かいあなたからの、再会を望む別れの挨拶を大事に胸に抱えながら目を覚ました。
それ以来、夜寝ることが、次に見る夢が、夢を見られる日がとても楽しみになった。
そんな私の様子を見兼ねたのか、保育園の先生が声を掛けてくれた。
「『いーれーて』って言おー」
輪に入って遊ぶ魔法の言葉を一緒に言うと、みんなは一緒に遊んでくれた。
そうやって、仲間に入り方を教えてもらえても、結局身に付けることができないまま過ごしていた。なんだか照れ臭かったからだろうか、理由は今でもわからない。
絵を描いたり、色々な落ち葉を集めたりと、一人遊びに興じていたある日の夜だ。
夢を見た。今思えばこれがはじまりの夢だった。
夢の中でも私は一人で草むしりをしたり、虫を捕まえたり探検したり、一人で遊んでいた。
そんなある夢のできごと。
遠くから手を振ってくれている人が登場した。
姿も声もわからず、人の形をしている誰かが手を振ってくれていると認識して気になりはしたけれど、声を掛けに行かずいつものように一人で遊び続けた。
次の日夢を見たとき、手を振っていた誰かは前よりも近い場所で楽しそうに遊んでいた。なんだかちょっぴりこれ見よがしに。
あまりに楽しそうだったので、いつものような一人遊びに熱中せず、その子が遊んでいる様子を見たいと思わされた。見ているだけでこちらも楽しくてたまらない気持ちになれたからだ。
起きている間のように、様子を見ているだけで加わろうとはしなかったけれど、羨ましいとか、一緒に遊びたいという感情よりも、この子はいったいどんな子なのかが知りたくてたまらなくなった。
見ているだけでこちらも同じように楽しくなれて、心が満たされたからかもしれない。
そのまた次に夢で会ったときのこと。
「あそぼ!」
声も顔も体も相変わらずぼやけていてわからなかったけれど、手を優しく取ってくれているのはわかった。
握られている手だけがひんやりとしており、ぞわぞわと、軽く痺れたようになっていたが不快感はなかった。
冷たい感触でも、ちょっぴりビリビリ感じていても、そこに込められた優しい気持ちに嘘偽りなどはなく、素直に受け取ることができた。
少しだけ怖かったけれど、ゆっくりと、抵抗なくうなずくことができた。
不思議で仕方がないのだけれど、照れ臭さも抵抗もなにもなかった。いや、なにもないといえば嘘になってしまう。そこには微かにときめきがあった。
ちょっとずつ、ゆっくりと距離を縮めてくれたからだろうか? きっとそう。
夢の中にいると魂が剥き出しで、ありのままの自分、素直な自分でいられるから? これもきっとそうだ。
私の手をそっと取った、あなたの手に込められた優しさが伝わったからだろうか? 間違いなくそうだと言える。
おいかけっこしたり、だるまさんが転んだをしたり、シーソーに乗ったり、一人じゃ遊べなかった遊びをたくさんした。
たくさん遊んで満足をしていると、夢から一気に引き戻される感覚に見舞われた。
夢の深海から現実の陸へ、瞬く間に浮き上がっていっているよう。
そのほんの一瞬の間のこと。
「またね」
大きく手を振りながら見送ってくれていた。
嬉しくて手を振り返したかったのに、そんな猶予はなかった。
冷たいけれど、とても温かいあなたからの、再会を望む別れの挨拶を大事に胸に抱えながら目を覚ました。
それ以来、夜寝ることが、次に見る夢が、夢を見られる日がとても楽しみになった。
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