雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

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騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校33

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「アーサー王、お帰りなさいませ。お疲れ様でしたね」

「ニーズヘッグなる者を捕えに行っただけだ。大した事はしていない。まぁ……最初の読みを外してくれたおかげで、もう一人捕らえる事にはなったがな」

建築中の城の前で出迎えたティアの顔も見ずに、アーサーは素気なく言うと、その前を通り過ぎる。

「ちょ……カズちゃん! ティアさんに、その態度は何? 謝れ! 今すぐ謝れ!」

「絵美さん! アーサー様は、もう一真じゃないんですよ! 仮に一真が心を取り戻しても、一国の王様なんだから……いくら絵美さんでも、王様に危害を加えそうになったら、流石に捕まります……」

アーサーに突っ掛かる寸前でティアに後襟を掴まれ、絵美の振り上げた手がアーサーの頭に直撃する前に、後ろに引き戻された。

「てへへ! またやっちった。いやぁ、顔見ると王様って事を忘れちゃうのよねぇ……カズちゃんでしかないし、偉そうな態度を見せられると、なんかムカつくし!」

ティアに向かって舌を出した絵美は自分の頭をコツンと叩いた後、直ぐに怒りの表情になる。

「まったく……あなたは、いつ見ても飽きないわね。でもティアの言う通り、バルドル様は王であられる。元ベルヘイム組は、あなたとバルドル様の関係を知っているけど、他の者は違う。下手したら、その場で抑えつけられるわよ」

アーサーの後ろから歩いて来たフレイヤにも突っ込まれ、絵美は頬に空気を入れて膨らます。

「ぶーぶー! まったく、面倒くさい! でも、それを言うならフレイヤさんだって元神な訳だし、私が捕まりそうになったら助けてくれれば良くないですか?」

「元神と言っても、この国では騎士の一人に過ぎないからね……王に危害を加えた者を助けてあげる程の権力は無いわ。それにしても、そろそろ聖凰の羽織を着てみない? あなたの実力ならば、聖凰騎士を名乗っても問題ないわ」

フレイヤの言葉に少し考える素振りを見せた絵美だが、直ぐに答えを口にする。

「騎士団に入ったら、カズちゃ……王様の命令には絶対な訳でしょ? 航ちゃんや智ちんに刃を向けたくないし、とは言えカズちゃんも心配だから、今の状態が一番楽かなぁー……みたいな?」

「みたいな? じゃ、ないわよ。まぁいいわ。ベルヘイム側と共闘する時だけでも協力してくれれば、それはそれで助かるわ。それに素性も知れてるから、安心は安心だしね」

フレイヤはそう言うと、ティアに絵美の事を頼むと城内に入って行く。

「しっかし……国としては小さいけど、この国の騎士達は強すぎない? カズちゃんにフレイヤさん、それにマーリンさんにガラードくん、更に巨人さん達を束ねてるアレン・マックミーナさん……鍛えてきた航ちゃんと互角ぐらいの力があるガラードくんが一番弱いまであるしねぇ……」

「そのガラードさんと一緒にいる魔法使い……ニミュエさんもかなりの実力者だし、禁術で大人になったルナちゃんもいる。それだけの実力者達がいても、今回の戦いでも一真は鳳凰転身を使ったって話しだし……」

今にも泣きだしそうなティアの横顔を横目で見た絵美は、少しバツの悪そうな表情をする。

「あはは……その、ゴメンね? フレイヤさんの誘い断っちゃって。でも……こんな事言いたくないけど、カズちゃんの心は壊れちゃってるんでしょ? 今更、いくら鳳凰転身を使っても関係ないんじゃ……」

「絵美さん、本気で言ってるんですか? 昔の記憶は消えてしまっていても、今の……このお城での生活の事や、私達や聖凰騎士達の事は覚えているわ。その新しい記憶だって、鳳凰転身を使えば消えていってしまう。それじゃあ、いつになっても……」

ティアの頬に一筋の涙が流れ、絵美の前髪から一雫の汗が零れた……


「で……私達を捕らえてどうするつもりかしら? 殺すなら、さっさと殺して下さいな」

キャメロット城の一室に、縄で捕われたメイヴと、縄を解かれたニーズヘッグが入ってきた。

その後方からアーサーとマーリン、そしてフレイヤも同じ部屋に入ってくる。

拘束を解かれたニーズヘッグを睨みながらも、メイヴは抵抗を諦めているようであった。

「さて、どうしたものですかね……メイヴを捕えて来る事は、想定外だったのですが……」

「へぇ……なら、ニーズヘッグを捕まえる事は想定内だったみたいね。いえ……最初から聖凰のお仲間だったのかしら?」

マーリンの独り言を聞いたメイヴは、更に眼光鋭くニーズヘッグを睨む。

「黒き龍は降伏を受け入れただけだ。お前は……どうする? 真の主ではない者に仕えて、その者の為に死ぬと言うなら止めはしないが……」

「バロールだって、あなたの主ではないでしょう? 共に戦った戦友ってだけ……ここで命を落とす事はないわ」

アーサーとフレイヤの説得に、メイヴは呆れると共に笑いが零れる。

「甘いわね……あなた達。私が剣の力だけで、今の地位に上り詰めたと思っているのかしら? ここで私を自由にしたら、聖凰の男共を全て私の虜にしてしまいますわよ」

「そう……確か、クラン・カラティンと言ったかしら? 数多くの男を虜にした貴女が、更に猛者として讃えた28人の騎士……あのクー・フーリンですら苦戦した相手。私達は、それ程の男達ですら虜にする貴女の力が欲しいのよ。具体的に言えば、聖印トリスケリオンがね……」

フレイヤの言葉に、メイヴはトリスケリオンが刻まれている胸元を思わず隠す。

「フレイヤ様、ニーズヘッグの説得プランは用意していたので問題ないのですが……聖印なんて危険な代物を、考え無しに我が陣営に取り込むのは危険です。一度、牢に入れて対策を考えるべきでは?」

「そうか? おいメイヴとやら、縛られている状態でトリスケリオンとやらは発動出来るのか?」

マーリンの言葉を返したアーサーは、メイヴの前に歩み寄った。

まるで、自分自身にトリスケリオンの力を使ってみろと言わんばかりに……

「くっ……」

アーサーの圧力にメイヴは身体を強張らせると、一歩後退る。

「アーサー様、私に説得させて下さい。彼女は、この場所も……そして、この城の事も知っている筈なのです。ここは、元々バロールが暮らしていた場所なのだから……」

フレイヤの言葉に、今度は瞳を大きく開き……メイヴの身体から力が抜けた……

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