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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校21
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「航ちゃん……しっかり門を守って、これ以上の敵の侵入を防いでよ……ヨトゥン兵1体だけでも、学生さん達じゃ厳しいわ」
全力疾走で食堂から西門へ向かって走って行く航太の背中に、智美は希うように呟く。
騎士団に所属する騎士ですら、ヨトゥン兵1体相手に3人がかりが基本である。
騎士見習いですらない学生が、ヨトゥン兵を倒す事は不可能に近い。
ましてや集団戦闘は、高度な情報判断と信頼関係が必要になってくる。
食堂に入り込んだヨトゥン兵は残り2体……航太と特訓を積んで、一足飛びで騎士見習いになろうとしているイングリス達ですら厳しい戦いだ。
数名の生徒が食堂を飛び出し、校舎に先生を呼びに走って行くのが見えたが、援護が来るまで持ち堪えられるかすら分からない。
「弱気になるな! 私達は、ベルヘイムの誇り高き騎士になる! ヨトゥン兵と戦う為に、騎士になるんだろ? ベルヘイムを……大切な家族や友人をヨトゥンの侵攻から守る為に騎士になるんだろ!」
イングリスは叫び……食堂の床を強く蹴り、ヨトゥン兵の懐に飛び込んだ。
無駄のない動きから、払うように繰り出されたイングリスの剣は、しかし容易く躱される。
「イングリス! 迂闊に飛び込んじゃダメ!」
剣を振ったイングリスの真横から、別のヨトゥン兵が巨大な斧の様な大剣を振り下ろした。
ガァキキキキィィィィィン!
イングリスの頭部を目掛けて振り下ろされた大剣は、アンジェル家の宝剣と擦れ合い、激しい金属音を奏でる。
が……ヨトゥンの力は巨大だ。
アンジェル家の宝剣を破壊するかの勢いで、そのまま振り下ろされる。
ジルが咄嗟に後方へ跳んでいなければ、身体を真っ二つにされていたかもしれない。
後方に跳んで大剣の一撃は食らわなかったが、その衝撃は殺しきれずに、イングリスを巻き込んだジルの身体は食堂の机を豪快に倒していく。
「くそっ! 早いし強ぇ! どうすりゃいいんだ?」
バスタード・ソードを構えたザハールの身体は固まっている。
無理もない……強くなったと実感していたのに、共に励んでいた仲間がヨトゥン兵1体に手も足も出ない。
「ザハールくん……大丈夫、私が守るから! 今は、2人を助ける事に集中しましょう! このままじゃ無防備のところを襲われる。そうしたら2人ともやられちゃうわ!」
「ああ……分かってる! 智美さんは、サポートと2人の救出を頼む! オレが仕掛ける!」
ザハールは震える膝を右の拳で強く殴ると、ヨトゥン兵と倒れているジル達の間に割って入る。
「オレの仲間に……手ぇ出すんじゃねぇ!」
ヨトゥン兵相手に、不用意にバスタード・ソードを突き出したザハール……
その剣はいとも簡単に避けられ、更に潜り込んだヨトゥン兵の大剣が下から上に振り上げられた事で、ザハールの剣は上方向に弾かれる。
万歳をするような姿になり、がら空きになったザハールの胴体目掛けてヨトゥン兵の大剣が襲いかかった。
が……ザハールの身体が2つに分断される前に、智美が作り出した水球がザハールとヨトゥンの大剣の間に入り込み、その殺傷力を軽減させる。
それでも、凄まじい程の衝撃がザハールを襲い、その身体は食堂の入口まで吹き飛ばされた。
「ぐはぁ!」
3回、4回と食堂の床を転がったザハールの身体は、入口付近の壁にぶつかり止まる。
「ザハールくん!」
ヨトゥン兵の1体が、ザハールに向かって突進していく。
しかし智美は、その場を動けなかった。
智美の後ろには、倒れたジルとイングリスがいる。
そして……イングリスの呼び掛けに勇気を奮い起こし、ザハールを守る為にヨトゥン兵の前に踊り出た学生は、一振りでグチャと嫌な音を立てて、まるで潰れた豆腐の様な姿で壁に叩きつけられた。
その光景は、まるでスローモーションの如く、智美の頭に入っていく。
パリン……
頭の中で、何かが弾ける音がする。
次の瞬間だった……波紋の様に円を描いた刃が、ヨトゥン兵の身体を真っ二つに斬り裂いていた。
蒼き瞳が、倒れているザハールを視界に捉える。
食堂の床が軋む程に足に力を入れ、智美は自らの身体を前に出す。
今まで体感した事のない程のスピードで、ザハールとの距離を詰める智美。
そのスピードを持ってしても、間に合わない……
それでも……智美の力が刀身に流れ、草薙の剣が青く光る。
草薙の剣が青く光り、ヨトゥン兵の大剣がザハールに向かって振り下ろされ、食堂の入口から人影が入って来て、食堂の裏口の扉が破壊され……
食堂の中では、4つの事が同時に起きた。
だが、その内の3つは直ぐに終わる。
ヨトゥン兵の刃はティルフィングによって防がれ、その身体は水の刃によって斬り裂かれた。
「良い腕です。女性なのが、ちょっと残念。そちらの殿方は……あまり好みではありませんわね……」
食堂の裏口を破壊した女性は、値踏みをするように智美とイヴァンを交互に見る。
レイピアの様に細く長く鋭い剣を床に刺し、その剣に体重を預けるように立つ女性……その後方には、10体以上のヨトゥン兵が控えていた……
全力疾走で食堂から西門へ向かって走って行く航太の背中に、智美は希うように呟く。
騎士団に所属する騎士ですら、ヨトゥン兵1体相手に3人がかりが基本である。
騎士見習いですらない学生が、ヨトゥン兵を倒す事は不可能に近い。
ましてや集団戦闘は、高度な情報判断と信頼関係が必要になってくる。
食堂に入り込んだヨトゥン兵は残り2体……航太と特訓を積んで、一足飛びで騎士見習いになろうとしているイングリス達ですら厳しい戦いだ。
数名の生徒が食堂を飛び出し、校舎に先生を呼びに走って行くのが見えたが、援護が来るまで持ち堪えられるかすら分からない。
「弱気になるな! 私達は、ベルヘイムの誇り高き騎士になる! ヨトゥン兵と戦う為に、騎士になるんだろ? ベルヘイムを……大切な家族や友人をヨトゥンの侵攻から守る為に騎士になるんだろ!」
イングリスは叫び……食堂の床を強く蹴り、ヨトゥン兵の懐に飛び込んだ。
無駄のない動きから、払うように繰り出されたイングリスの剣は、しかし容易く躱される。
「イングリス! 迂闊に飛び込んじゃダメ!」
剣を振ったイングリスの真横から、別のヨトゥン兵が巨大な斧の様な大剣を振り下ろした。
ガァキキキキィィィィィン!
イングリスの頭部を目掛けて振り下ろされた大剣は、アンジェル家の宝剣と擦れ合い、激しい金属音を奏でる。
が……ヨトゥンの力は巨大だ。
アンジェル家の宝剣を破壊するかの勢いで、そのまま振り下ろされる。
ジルが咄嗟に後方へ跳んでいなければ、身体を真っ二つにされていたかもしれない。
後方に跳んで大剣の一撃は食らわなかったが、その衝撃は殺しきれずに、イングリスを巻き込んだジルの身体は食堂の机を豪快に倒していく。
「くそっ! 早いし強ぇ! どうすりゃいいんだ?」
バスタード・ソードを構えたザハールの身体は固まっている。
無理もない……強くなったと実感していたのに、共に励んでいた仲間がヨトゥン兵1体に手も足も出ない。
「ザハールくん……大丈夫、私が守るから! 今は、2人を助ける事に集中しましょう! このままじゃ無防備のところを襲われる。そうしたら2人ともやられちゃうわ!」
「ああ……分かってる! 智美さんは、サポートと2人の救出を頼む! オレが仕掛ける!」
ザハールは震える膝を右の拳で強く殴ると、ヨトゥン兵と倒れているジル達の間に割って入る。
「オレの仲間に……手ぇ出すんじゃねぇ!」
ヨトゥン兵相手に、不用意にバスタード・ソードを突き出したザハール……
その剣はいとも簡単に避けられ、更に潜り込んだヨトゥン兵の大剣が下から上に振り上げられた事で、ザハールの剣は上方向に弾かれる。
万歳をするような姿になり、がら空きになったザハールの胴体目掛けてヨトゥン兵の大剣が襲いかかった。
が……ザハールの身体が2つに分断される前に、智美が作り出した水球がザハールとヨトゥンの大剣の間に入り込み、その殺傷力を軽減させる。
それでも、凄まじい程の衝撃がザハールを襲い、その身体は食堂の入口まで吹き飛ばされた。
「ぐはぁ!」
3回、4回と食堂の床を転がったザハールの身体は、入口付近の壁にぶつかり止まる。
「ザハールくん!」
ヨトゥン兵の1体が、ザハールに向かって突進していく。
しかし智美は、その場を動けなかった。
智美の後ろには、倒れたジルとイングリスがいる。
そして……イングリスの呼び掛けに勇気を奮い起こし、ザハールを守る為にヨトゥン兵の前に踊り出た学生は、一振りでグチャと嫌な音を立てて、まるで潰れた豆腐の様な姿で壁に叩きつけられた。
その光景は、まるでスローモーションの如く、智美の頭に入っていく。
パリン……
頭の中で、何かが弾ける音がする。
次の瞬間だった……波紋の様に円を描いた刃が、ヨトゥン兵の身体を真っ二つに斬り裂いていた。
蒼き瞳が、倒れているザハールを視界に捉える。
食堂の床が軋む程に足に力を入れ、智美は自らの身体を前に出す。
今まで体感した事のない程のスピードで、ザハールとの距離を詰める智美。
そのスピードを持ってしても、間に合わない……
それでも……智美の力が刀身に流れ、草薙の剣が青く光る。
草薙の剣が青く光り、ヨトゥン兵の大剣がザハールに向かって振り下ろされ、食堂の入口から人影が入って来て、食堂の裏口の扉が破壊され……
食堂の中では、4つの事が同時に起きた。
だが、その内の3つは直ぐに終わる。
ヨトゥン兵の刃はティルフィングによって防がれ、その身体は水の刃によって斬り裂かれた。
「良い腕です。女性なのが、ちょっと残念。そちらの殿方は……あまり好みではありませんわね……」
食堂の裏口を破壊した女性は、値踏みをするように智美とイヴァンを交互に見る。
レイピアの様に細く長く鋭い剣を床に刺し、その剣に体重を預けるように立つ女性……その後方には、10体以上のヨトゥン兵が控えていた……
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