雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

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騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校3

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「そして、航太の学生生活が始まるのだった……と」

「ん? ゼーク様、何を書いているのですか?」

小さな手帳にゼークはサラサラっとメモをすると、声を掛けて来たクスターの方を向く。

「これ? んー、日記みたいなモンかな? 前の戦いの時は正確な記録が無くて、間違って伝わっている話とかあるからね。これからの事、しっかり記録に留めておきたいの。それで、私が航太の事を戦友って言った意味、分かった?」

「ええ……何となくですが……正直、神剣を持った事で強くなったって勘違いしているだけの奴だと思っていました。力は人を変える……でも、彼は本当の強さを持っている。確か、彼がベルヘイム遠征軍に加入した時は、神剣を持った素人だったと聞いています。力に呑まれなかった……って事ですよね」

「そうね……いやいや、ちょっと天狗になっていた時期もあったかもしれないけど、でもね……彼らは私達と違う国の出身なのに、私達の為に必死になって戦ってくれたの。それこそ、寝る間も惜しんで修業してくれたわ。そして、自分を守る方法と人を護る術を吸収していってくれた……基礎を教えてあげる余裕は無かったけどね」

ゼークは難しそうな顔をして校舎の方を見る航太に視線を移し、そしてクスターに苦笑いを見せた。

「ちょっと……いや、だいぶ頭悪そうなのよね。そこだけが欠点だわ……」

そう呟くと、ゼークは腕を組んで頬を膨らませてる智美に声を掛ける。

「智美は、私達と一緒に来てくれる? お城で国王がお待ちなの。私達を救ってくれたお礼がしたいって。それに、聖凰騎士団の話も……」

「分かったわ。じゃあ航ちゃん、2ヶ月後に騎士見習いとして会いに来てね。私は、現状の整理とロキさんの陣営の話なんかをすればいいのよね? ロキさんに捕まってたから、必ず話を聞かれると思ってたし」

智美の言葉に、ゼークとオルフェが深く頷く。

「流石は智美だ。今すぐにでも、私や国王様の側で働いてもらいたいぐらいだよ。聖凰の動き……というより、一真の動向も気になるが、ヨトゥン軍で注意しなきゃいけないロキ軍の内状は知っておきたいからね。じゃあ航太、必ず騎士見習いを取得するんだぞ! 一真を助ける第一歩だからな!」

歩き始めるオルフェ達と、校舎と、天空の城……航太の視線は泳ぎまくり……そして、オルフェの背中目掛けて怒鳴り声をぶつける。

「おい、ちょっと待った! 智美は天空の城に行って国王と美味い飯を食って、オレは学校で勉強ってか? ありえねーぞ! 今日ぐらい、オレも城でゆっくりさせろ! 疲れてんだ! オレだって疲れてんだよ! 天空の城にだって行ってみたいし!」

「航太……なんかダサイよ……だいたい、美味しいご飯食べてる余裕なんて無いでしょ? 2ヶ月で騎士見習いになるって、かなり大変なんだから遊んでる暇無いって。私やテューネで2年、天才って言われてたオルフェ元帥でも1年かかってるんだから……航太が騎士見習いになれなかったら、私達の計画が全部破綻するんだから、頑張ってよ!」

呆れ顔で大きく溜息をついたゼークは、智美を促し歩き始めた。

「ちょ……ちょっと待ってクレープ……いや、違うんだ! 今のはオレが悪かった! 少しでも場を和ませようと……おーい!」

無言で去って行く四人の背中を見つめながら、航太は絶望で膝をついた……


「はぁ……なんでオレばっかり、貧乏クジを引いちまうんだろ……てか、智美も一緒に入学する流れだろ、普通……あー、クソ! イライラしてきた!」

セルマに案内された食堂で、航太は人参らしき野菜にフォークを突き刺して、がっつく様に口に放り込む。

「どうして異世界に来てまで、大学に通ってる時の様な生活をしなきゃいけないんかなー! カリキュラム表ったってなぁ……どうぜ全部受講して、この3週間に一回の試験を受けて合格すりゃいいんだろ……てか、3週間に一回の試験って何なんだよ。試験大好きかっての!」

航太は皿も見ずに肉の塊にフォークを突き刺し、そして口に頬張る。

「航太さん、学校に嫌な思い出でも?」

「んにゃ、学校ってトコが嫌い……もとい、勉強が嫌いなだけだ……って、うぉっ! なぜに目の前にいる?」

航太の独り言を目の前で聞いていたセルマは、パンを一切れ口に運んでからカリキュラム表を指差す。

「私は、自分の食事を取りに行ってただけなんですけど……勉強が嫌いでも、カリキュラム通りに授業を受けてもらいます。本来1年かけて勉強する所を、3週間で……最短で突破していくには、このカリキュラムしかありません。頑張って下さいね」

「ああ……すまん。完全に見えてなかったよ。しかし、このカリキュラム……地獄なんだが?」

「でしょうね。でも、このカリキュラムでしか2ヶ月で騎士見習いにはなれません。1学年に3週間しかいれないから、あまり学校生活を楽しんで……とは言えないけれど、良い思い出が作れるように祈っているわ。今は航太さんは私の後輩ですけど、卒業する頃には先輩ですね……何か複雑です」

眼鏡をかけ直したセルマは少し笑うと、更にパンをちぎって口に入れる。

セルマと話して少し落ち着いた航太は、食堂が人で満たされている事に気付く。

「混んで来たな……飯はここでしか食えないのか?」

「ええ……全寮制だから、食事はここで食べる事になるわ。時間帯は少し気にした方がいいかもね。混んでる時は、席が足りなくなるから」

それから暫く、航太はセルマに学校の事を色々と教わった。

寮での生活や、授業の受け方……必要な事を書き取りながら話を聞いていたら、外は暗くなり食堂で食事をしている人も疎らになり始める。

「セルマ、サンキューな! 学校の事、だいぶ分かったよ。明日から頑張らねーとな!」

食事を片付けようとした航太は、食堂から次々と人がいなくなる異様な光景を見た。

「なんだ? 急にワラワラと……感じ悪ぃな」

「いえ、航太さんが原因ではないわ。原因は彼女……イングリス・フォルシアン。人間とヨトゥンの混血よ」

褐色の女性……イングリス・フォルシアンは、航太達だけになった食堂に静かに入って来ると、食事の乗ったトレーを広いテーブルに置くと一人で食べ始める。

「航太さん、行きましょう。もう少しで、食堂も閉まるわ」

セルマに引きずられる様に外に出た航太は、寂しそうに……哀しげに食事をするイングリスの横顔が気になった。

人間とヨトゥンの混血……その言葉が、頭から離れなかった……
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