雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

文字の大きさ
上 下
7 / 64
それぞれの旅立ち

魔導師マーリン2

しおりを挟む
「これだけの力……旅を続けるにしても、色々と厄介でしょう。昨日の轟音の正体……あれは貴方が戦っていた音だと思いますが、あれだけの戦闘で目撃者がいない筈がない。その力を脅威に感じる国が、必ず部隊を差し向けてきましょう」

「だから、なんだ? どこの国の部隊だろうが、我が君と私に敵う訳がない!」

頭を垂れて話すマーリンを見下ろしながら、シェルクードが語気を強める。

「あなたはともかく……確かに、負ける要素は無いと思います。しかし、その赤き剣を汚したくないと言うのであれば、些か厄介でしょう。素手で大軍を相手にするのは骨が折れます」

「確かにな……そいつが、もう少し使えるなら話は別だが、口だけで実力が伴っていない」

シェルクードとは違い、紅の剣を携える騎士の声は静かで冷静だ。

「いや……我が君と比べられたら、誰もが雑魚扱いになります! 私とて、そこら辺の騎士より強い!」

「だ……そうだ。それで、貴様には何か良い案があるのかな? そこの雑魚より雑魚の連中が群がって来ない策が?」

地面に頭を付けている為マーリンの表情は読み取れないが、してやったり……そんな表情をしていたかもしれない。

「いえ……どうしても群がっては来るでしょう。なので、備えるしか方法はありません。この場所……暗き森ミュルクヴィズは、人間もヨトゥンも、あまり近寄りません。戦略的な要所でもなく、農作物が採れる訳でもない。そして、一つ目の巨人が住む危険な地域です。なので、この地に国を建国してしまうのです」

「なるほど、それは丁度いい! 我が君……この魔法使いの言う通り、国を創ってしまいましょう! 世界征服への第一歩です!」

国を創る……そんな突拍子のない策に乗せるにはどうするか……頭を回転させていたマーリンは、シェルクードの言葉に驚いて思わず頭を上げてしまった。

「我々は国を創ろうと思い、どうしようか考えていたところだったんだよ! 確かに、この地に国を創るのは悪くない!」

「世界征服を企んでるのは、貴様だけだろ。オレは安住の地があれば、それでいい。それで、貴様が国を創ってくれるのか?」

頭の悪そうに声を弾ませるシェルクードを睨むように横目で見た紅の剣を携える騎士は、マーリンに視線を移す。

「そろそろ、立ち上がっていいぞ。下を向いて喋るのも、少々疲れた」

「はっ……申し訳ありません!」

既に配下のように振る舞うマーリンは、立ち上がって一礼すると口を開く。

「国を創る為には、この地を平定する事が必要になります。その為には、一つ目の巨人を統べる王……アレン・マックミーナを殺さずに倒して欲しいのです。一つ目の巨人は、知能はあるが野蛮です。そして、強い者に従う習性があります。私はアレン・マックミーナと一度戦い、互角でした。だから一つ目の巨人は、私に手を出して来ないのです」

「他の国の部隊と戦う事は厄介だ……とか言いながら、我が君に化け物退治させようって魂胆か? それも充分厄介な気がするがな……自分の住む場所の安全の為に利用しようって腹か? コイツ、やはり殺しておきましょう!」

再びグングニールを構えるシェルクードを呆れた顔で睨んだ紅の剣を携える騎士は、大きな溜息をついた。

「無限に湧いてくる部隊を倒し続けるより、よっぽどマシだ。この魔法使いと互角と言うなら、さほど問題ない。だが、オレに仕事をさせている間、貴様はどうするんだ? 返答によっては、その案に乗ってやってもいい」

「アレン・マックミーナを倒し、一つ目の巨人を飼い馴らしたとしても、国としては脆弱です。そもそも不気味な巨人がいる国など、人は集まらないでしょう」

マーリンは一呼吸置くと、紅の剣を携える騎士の目の前の空間に映像を映し出す。

その映像には、小高い丘の地面に鞘に収まった黄金の剣が突き刺さっている様子が見える。

「これは聖剣エクスカリバー。何者にも抜けないと言われている、伝説の聖剣です。アレン・マックミーナを倒した後に、この聖剣を引き抜く事が出来れば、貴方は伝説の王として認められるでしょう。その為の下準備を行う時間を下さい」

「貴様、ふざけているのか! 何者にも抜けない剣なら、我が君でも抜けない可能性がある。そうなったら、我が君が笑い者になる。そうなった時、覚悟は出来てるんだろうな!」

マーリンの首元までグングニールの槍先を近付けて、シェルクードは怒りを露にした。

「なんて事ありません。私の魔法で抜けなくなっているだけですからね。エクスカリバーの鞘には、傷付いた身体を一瞬で治す力があります。私は、自らの主として認めた者に受け取って欲しかったのです。それが、正に今……私は各地を周り、聖剣エクスカリバーを抜ける者が現れたと噂を流して参ります」

「オレがアレン・マックミーナを倒し、一つ目の巨人を手馴づけたタイミングで貴様が戻って来てエクスカリバーを引き抜く……と言う筋書かきか……」

紅の剣を携える騎士の言葉に頷いたマーリンは、再び方膝を付いて頭を垂れる。

「その通りでございます。自分で言うのも何ですが、私の名はそこそこ有名です。私が見守る中でエクスカリバーを引き抜けば、世界中に良いアピールになります。そして人種や種族によって差別されない国として、建国を宣言するのです。そうすれば自然と人が集まり、他国も簡単に手出し出来なくなるでしょう」

「なるほど……な。ノープランで国を創ろうとしてた誰かよりも、遥かにマシな話だ。じゃあ、とっとと一つ目の巨人とやらを仲間にしに行くか。新たな剣が手に入るならば、それに越した事はない」

歩き出そうとする紅の剣を携える騎士に、マーリンは声をかけた。

「主よ……名はなんと申されるのですか?」

「さぁな……名など忘れてしまった」

自分の名前など興味ない……心も冷めているような口調に、マーリンはそう感じる。

「では……アーサー・ペンドラゴンと名乗られてはいかがでしょう。聖剣を持つ者として、私が啓示を受けた名前です」

「好きに呼んで構わん。名など、さほど興味ない」

そう言うと、アーサーは再び歩き出す。

「槍使い、アーサー様を頼むぞ。私は、弟子と共に下準備をする」

「魔法使い、偉そうにするなよ! 我が君の最初の配下が私だという事を忘れるな!」

シェルクードは、アーサーの後ろを歩き始めた……

そこまで思い出すと、マーリンは再びルナに視線を向ける。

奇妙なモノだ……アーサーを慕う者が、自らの弟子になりたいと尋ねて来た。

普段は弟子などとらないし、禁術を使うなど似ての外だ。

しかしマーリンはアーサーの為にルナを弟子にし、最愛の弟子であるガラードを旅に出す。

自らの主を探せ……聖剣エクスカリバーを抜ける者こそ、主君に相応しいと伝えて……

聖剣使いのガラードが、エクスカリバーを抜ける者を主とすると触れ回れば、自然と人が集まるだろう。

マーリンは、静かにその場を離れた……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...