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孤独な旅立ち
そして温泉へ……2
しおりを挟む「懐かしい……………少し変わってしまっている所はあるけど、面影は残ってる…………」
先導していたティアが小走りに前に出て、村を見回して呟く。
その顔は、少し哀しみを感じられた。
「ティア…………記憶が戻ったから…………この村には、悲しい思い出が沢山あるよね??辛いなら、一緒に戻ろうか??」
エリサの優しい言葉に、ティアは勢いよく首を振る。
「以前の私なら、顔を背けてたかもしれない…………でも今は、皆さんに支えてもらってるから向き合える…………そんな気がするんです」
その言葉に、笑顔でエリサが頷く。
「本当にそれだけかぁ~~~??航ちゃんから聞いたケド、カズちゃんとイイ雰囲気だったって~~♪♪カズちゃんに支えてもらっちゃってんじゃないのぉ??」
「もー!!絵美、からかわないで!!」
絵美が面白半分に、肘でティアの腕を小突いた。
するとティアは、顔を苺のように赤くして絵美の肩を思いっ切り叩く。
「いったぁ~~~い!!本当の事言われたからって、強く叩きスギ!!」
「はいはい…………そもそも、絵美が揶揄ったのがいけないんでしょ!!ほら、温泉が見えてきたよ」
頬を膨らます絵美を宥めながら、智美が温泉の方へ皆を誘導する。
そんな智美と絵美を、マジマジと見つめている人物がいた。
テューネである。
「ふにゃ??テューネちゃん……………だっけ??同じ顔が2つあるのに驚いてるのかなぁ??同じ顔…………つまり、私達は双子…………いたっ!!」
相変わらずふざけた発言を繰り返す絵美に、智美の手刀がその後頭部を襲う。
「双子に決まってるでしょ!!誰だって分かるわ!!ゴメンね………テューネさん。我が妹ながら、オツムが弱くて…………それで、私達に聞きたい事でもあるの??」
後頭部を抑えて蹲る絵美の頭の上で踊る白いアヒルのヌイグルミのガーゴ…………その光景を見て、テューネは思わず吹き出す。
「いえ…………ごめんなさい。智美様の神剣と絵美様の神槍は、水の力を操ると聞いて…………私の先祖のミルティは、トライデントと言う水の力を操る三又の槍を使っていたんです…………それで気になって…………」
テューネは水の槍を使う者がいると聞いた時、トライデントを勝手に使っていると思い込んで、勝手に敵対心を剥き出しにしていた。
しかし実際に見ると、天沼矛はトライデントとは形状が違う。
そもそも三又では無いし、智美の持つ草薙の剣と天叢雲剣は槍ですらない。
そして、2人とも悪い人には見えない…………テューネは心の中で、勝手に敵対していた事を謝った。
「そっか…………そう言えば智ちゃん、私達の神社に纏わる話に、ミルティって人の事があったようなー……………って、いたぁ!!」
再び後頭部に手刀を受け、絵美は再び涙目になりながら蹲る。
「ちょっと絵美!!神社なんて言葉出したら、怪しまれるでしょ??馬鹿なの??」
「だからって同じ場所に…………酷くない??ねぇ、酷くない!!」
そんな漫才のような2人のやり取りに、皆の顔が笑顔に包まれた。
智美と絵美は、たまに不思議な言葉を使うが、2人の雰囲気自体が異質な為に、あまり気にならない。
殺伐とした世界の中で……………心が病んでいくこの世界で、2人の作り出す世界からは平和が感じられる。
「智姉ちゃんとミーちゃんは、見ているだけで楽しいね!!ねっ、ガーゴも温泉に入るんだよね??」
「うしししし、勿論ガーゴも入りましゅよ~~。た~~~のしみでしゅ」
いやらしい目をしたガーゴがルナの腕の中で飛び跳ねて、クルクル回り出す。
「ところで……………ガーゴって、女の子…………で、いいんだよね??」
ルナの発言に、全員固まった。
「えー…………どうなんだろう??私の魂の情報移したから、女の子かな??」
魂の情報を移した張本人であるエリサの方を向いて、後頭部を抑えたままの絵美が首を傾げる。
「…………女の子…………って事で……」
エリサが軽く冷や汗をかきながら、皆を見渡す。
「本当に大丈夫??ガーゴって男っポイけど…………」
自らの胸を隠すように腕を前で組み、ゼークがガーゴから離れていく。
「し…………失礼な…………でしゅ。胸ペタのゼークなんか襲わないから大丈夫でしゅよ~~~~~~だ!!」
ガーゴが羽(??)で両頬を潰し、ムンクの【叫び】のような顔を作る。
「胸ペタって…………失礼はどっちよ!!これでも、美少女剣士って言われてるんだからっ!!」
「自分で美少女とか言っちゃったでしゅ……………ぷぷぷぅ、恥ずかしくないんでしゅかね~~~。ぷぷぅ」
スパーン!!
顔を赤くしたゼークは、横を歩いていた絵美の頭を勢いよく叩いた。
「いったぁ~~!!いきなり何してくれてんのよ!!今日は何なの??厄日なのか??若しくは、何か呪われた装備品でも付けてるのか??」
当然、絵美が怒りの表情でゼークに噛み付くが、頭に3回も強い衝撃を受けたからか、叩かれた相手への怒りより自分の今日の運勢が気になりだす。
「絵美さんさぁ…………あの馬鹿アヒル何とかしてよ!!あなたの魂の情報が入ってんでしょ!! 」
「もー、ゼークまで!!子供じゃないんだから……………」
ルナとゼークを交互に見て、智美が溜息をつく。
「温泉の場所………………私が暮らしていた頃は、病院があった場所だ!!」
突然、温泉のマークがある建物に向かってティアが走り出した。
「ノディス先生!!いらっしゃいますか!!」
温泉のある建物に入るなり、ティアが大声を出す。
突然の来訪者の大声に、温泉で働いている村人達の視線がティアに集まる。
その中の1人が、ティアに歩み寄ってきた。
「ティアちゃんかい??無事だったのか…………それに、大きくなったなぁ!!良かった…………」
白髪と皴の多くなったその顔……………しかしティアには、ノディス先生の面影を感じる事ができる。
村唯一の医者であり、ティアが事件に巻き込まれていた時は、隣町に薬品の買い出しに行っていた為にヨトゥンの攻撃に晒されなかった。
「先生……………お久しぶりです!!」
ガイエン以外では村を離れてから始めて故郷の人との再開に、ティアは涙を流す。
そしてティアは、今までの経緯と仲間達をノディスに紹介した。
「ノディス先生は、今までどうしてたんですか??」
ティアは涙を拭きながら、温泉場と化した元病院を見渡す。
「あんな事件のあった後だから、精神や心のケアを中心の診療に切り替えてね。ちょうど温泉も出たから、温泉と診察で心の治療を行っているんだ。さぁ、ティアちゃんも皆さんも入って下さい」
ノディス先生はそう言うと、女性達を温泉へと誘っていく………
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