雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

文字の大きさ
上 下
127 / 222
血に染まる白き冠

血に染まる白冠1

しおりを挟む
時間は更に、少し巻き戻る…………

航太達の部隊がバロールの先鋒部隊と遭遇した頃、ホワイト・ティアラ隊は負傷者の受け入れ準備のピークを迎えていた。

そんな中を、1人の女の子が走り回っている。

ルナ・ハートリィ

レンヴァル村がスリヴァルディに襲われた時、凰の目の男の戦いを唯一見ていた女の子……………そして、何故か一真から離れようとしない。

ルナの母も回復の魔法を少し使えるという事もあり、ホワイト・ティアラ隊と行動を共にしていた。

「カズ兄ちゃん、ちょっと遊ぼうよ!!遊んでくれなきゃ、靴返してあげないよー!!」

「勘弁してよー。今は皆、必死に戦ってる最中なんだから~~」

一真の靴を持って外に出たルナに、一真が情けない声をあげる。

「チョット一真!!子供を甘やかし過ぎだよ!!ビシっと言わなきゃダメ!!ルナも、これから忙しくなるんだから、大人しくしてなさい!!」

ティアが目を吊り上げながら、一真の背後からルナを睨んで声を荒げた。

「ちょっと~~、オバさんに用ないんだけど…………私は、カズ兄ちゃんと遊びたいの!!」

ティアに向かってアッカンベーをすると、一真の靴を抱えて再び走り出す。

「も~~~、誰がオバさんよ!!一真がシャキッとしないから、あんな風になっちゃうのよ!!しっかりしてよね!!」

(やれやれ…………そういえば、小児の実習の時も何故か子供に懐かれたなぁ……………)

一真は看護学校で行った小児実習で行った保育園での出来事を思い出しながら、元気に走るルナを目で追う。

ルナが一真に懐く理由……………それは、自分と母をヨトゥン兵から救ってくれたのは一真だからだと言う。

皆が「航太が救ってくれたんだよ」って言っても、一真は強くないと言われても、頑なに信じている。

天使のように見えた雰囲気が、一真から感じると言い張って譲らない。

更には、傷ついたレンヴァル村の人達を優しく看病して回っていた一真の姿に、言いようのない感情が湧いていた。

一真の意識を自分に向けさせたい為に、ついつい悪戯をしてしまう。

「一真はチキンだから追って来れないでしゅ~~~。じゃんねんながら、靴はポイってするでしゅ~~。ルナ、ポイってするでしゅよ~」

ルナの首からぶら下がってるガーゴが、その場の状況を煽る。

「ガーゴ……………チキンって、自分の事だろ……………」

「ざざざざ残念~~~~~~~~でしゅ。ぷぷ。ガーゴはヌイグルミなんでしゅよ~~~だ」

一真の呟きに、ガーゴは勝ち誇ったポーズをしながら笑ったフリをする。

「ガーゴ、相変わらず面白ろ~~~い♪♪」

ルナはキャッキャッと笑いながら、一真の靴とガーゴを交互に空に投げて遊び始めた。

(……………………)

一真はティアのプレッシャーを背後から感じ、この状況をどうにか収拾しようかと思案していると…………

ボコーーーーーン!!

気持ちいぐらいイイ音がして、ガーゴが地面に転がった。

そのガーゴを見下ろすように、手にバケツを持ったエリサが怒りの表情を浮かべて立っている。

恐らく、空中に投げられたガーゴを、そのバケツで叩き落としたのだろう。

「そ…………そんなんで叩いたら駄目でしゅ~~。ガーゴは、お笑い芸人ぢゃないんでしゅよ(TωT)ウルウル」

ガーゴは地面を這いながら、エリサにしがみつく。

「今は大事な時なんだから、ルナもガーゴも、遊ぶなら向こうでやりなさい!!一真も、シャキっとして!!」

「す…………すいません…………」

普段は優しく、どちらかと言えば可愛いエリサに言われ、一真は思わず背筋を伸ばす。

可愛い女性程、怒った時は恐いものだな…………一真は今後は注意しようと心に決めた。

(はぁ……………私、本当にこの人に助けられたのかな??でも、命の恩人なんだよねー…………人を救う時に見せる真剣な表情とのギャップがいいのかしら??)

無意識に一真を見つめていたティアは、ハッと我に返り顔を紅くする。

「わーっ、ティア姉さん、カズ兄ちゃん見て顔紅くしてるー!!やらしー!!」 

「うぷぷー、ホントでしゅ~。ティアは一真の事が好きなんでしゅね~!!メモするでしゅ、ルナ、ガーゴの背中にメモするでしゅよ~~」

ルナとガーゴが、今度はティアに照準を定めて遊び始めた。

「は……………はぁ!!な……………何言ってんの!!ほら、エリサにも怒られたでしょ!!子供は向こう行ってなさいよ…………もぅ…………」

「ってか、いい加減にしなさいっ!!ティアも、子供の言う事にイチイチ反応しない!!」

ルナ達の言葉に、更に顔を紅く染めるティアを見て、エリサの怒りが爆発する。

そんなやり取りを余所に、一真の表情が険しくなった。

「エリサさん……………なんか、人の気配しません??」

一真は林の奥に、人の気配を感じる。

「んー…………そう??私には分からないケド…………」

一真の雰囲気が変わっている事で、エリサも顔を引き締めて辺りを見渡すが、特に異常なく感じた。

「そうですか…………何事も無ければいいですケド…………ルナ、一応テントに入っといて」

一真のただならぬ雰囲気に、今回はルナも「はい」と言って従う。

(嫌な予感がするな…………林を使えば、バロールの部隊がココまで回り込むぐらいは出来そうだし………………)

一真は周囲を警戒しながら、ルナをテントに招き入れる。

外の緊張した様子を感じとったのか、テントの中で作業していたネイアが外に出てきた。

「一真、どうしたの??」

緊張した面持ちの一真を見て、ネイアも何かあると感じとる。

「林の奥に、何か潜んでるかもしれません。まだ気配がする程度で、何とも言えませんが…………」

一真は立て掛けてあるバスタード・ソード…………グラムに、無意識に手を伸ばす。

その様子を見ていたネイアが、グラムを掴む為に伸ばした一真の手に自分の手を重ね合わせ、首を振る。

「一真………ちょっと…………いい??」

ネイアはそう言うと、一真の手を握ったままテントの裏手まで連れ出した。

「ネイアさん、どうしたんですか??」

ネイアは真剣な瞳で、一真の瞳を見つめながら口を開く。

「私…………アルパスター将軍………アルから、全て話を聞いてるの…………」

「アル??そうか………だから将軍は、ネイアさんを信用して…………」

部隊の総隊長を、あだ名で呼ぶ………

アルパスターとネイアは特別な関係なんだと、一真は気付く。

自分の所属している部隊の隊長だから秘密を話したと思ったが、それ以上に信用があったんだな…………一真は妙に納得出来た。

「一真…………貴方は、私が命を懸けて護るわ…………だから、グラムは使わないで…………」

ネイアの真剣な眼差しは、懇願するような瞳に変わっている。

「いや…………でも、もし敵がいたら…………男のオレが戦わないと!!皆を護らなきゃ!!」

これまでも、部隊の窮地に飛び出しそうになった事は何度もあった。

しかし………今回ばかりは、自分が戦わなくては、どれだけの被害が出るか分からない。

ホワイト・ティアラ隊は医療班の為、普段は護衛を付けるか、敵から分からないようにカモフラージュしている。

敵に見つからないように、現在もカモフラージュの魔法と林の中という見つからない工夫はされていた。

バロールの部隊との戦闘と言う事もあり、護衛の戦力も前方に出ている。

普通に考えたら、見つかる筈はない…………しかし見つかった場合、護衛の戦力が整っていない分、かなり危険だ。

だからこそ、一真は戦う覚悟をした…………秘密を漏らさない為に、襲ってきた敵兵を皆殺しにする覚悟を…………それでもネイアは首を振る。

「絶対に駄目!!もし戦うなら、この剣を使って!!あと少し…………あと少しで、私達の希望の剣がバロールに届く…………お願い…………」

ネイアはそう言うと、自分が帯刀していた細身の剣を一真に差し出す。

「…………分かった…………出来るだけ、戦わないで済むようにします。将軍とも約束したしね…………でも、命を懸けるなんて言わないで下さい。何があっても、皆が助かる努力をしましょう!!」

一真はそう言うと、ネイアから細身の剣を受け取る。

「ありがとう、一真………いつも辛い思いさせて、ゴメンね………」

ネイアは、綺麗な長い髪が地面に付きそうなぐらい、深々と頭を下げた。

「なんでネイアさんが謝るのさ!!もし敵がいたら、逃げ最優先で行きましょう!!大丈夫、少し離れてはいるけど、全力で逃げれば将軍の部隊にも合流できますよ!!」

一真はネイアに頭を上げるように促し、テントの正面に戻る。

「一真、間違いなく何かいる!!どうしよう!!」

テントの前で林をジッと見つめていたティアが、戻ってきた一真に告げる。

確かに…………明らかに木々が揺れており、複数の足音も微かに聞こえてきた。

確実に、ホワイト・ティアラ隊に向かって足跡が迫っている。

「なんで、私達の場所が分かるの………今まで、バレた事なんて1度も無かったのに…………」

エリサも動揺を隠しきれず、声が震えていた。

「ガヌロンが消えた時から、嫌な予感がしていたんだ…………くそっ、まずいな……………皆!!逃げる準備を!!アルパスター隊の場所まで急ぐんだ!!」

近付いて来る足跡に危機感を感じながら、一真は叫ぶ。

ホワイト・ティアラ隊に、確実に危機が迫っていた…………
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

処理中です...