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血に染まる白き冠
バロールとの戦い6
しおりを挟む青白く光った魔眼の視線の先で、炎が吹き出す。
魔眼の視線の先には、フレイがいる。
フレイは自分を中心に突然燃え上がった炎に動じる事も無く、まるで予測したかのように瞬時に後ろに跳ぶと、バロール目掛けてゲイボルグを投げた。
30本に分離したゲイボルグが、円を描くようにバロールを取り囲む。
「これで…………どうだっ!!」
ゲイボルグが囲む円の中心…………バロール目掛けて、30本の槍が突き刺さる!!
いや……………ゲイボルグが突き刺さる直前に魔眼が光り、バロールの足元の土が瞬時に盛り上がった。
まるで壁のように盛り上がった土に、次々とゲイボルグが突き刺さる。
「ちっ!!ならばっ!!」
フレイが土の壁に突き刺さったゲイボルグを1本引き抜き、ジャンプ!!
バロールの頭上から、ゲイボルグを振り下ろす!!
土の壁に囲まれていたバロールだったが、速効で土を地面に還して逃げ道を作り出し、頭上からの一撃を間一髪かわす。
攻撃を避けられた事により隙の出来たフレイに向かって剣を振るバロールだが、今度は30本のゲイボルグが盾の様に重なりフレイを護った。
「なかなか……………クー・フーリン程では無いが、戦神の名は伊達じゃないと言う事かのぅ……………」
距離をとり呼吸を整えるフレイを見ながら、バロールは余裕の顔で、その姿を見る。
(正直、かなり手強い…………7国の騎士、このバロール相手に魔眼の1つを奪うまで追い詰めた程の勇者達か…………確かに、クー・フーリンのようにゲイボルグを扱うのは難しいな…………)
フレイはかつての戦友、7国の騎士達を思い出していた。
7国の騎士の1人、クー・フーリンがゲイボルグを操っていた時代…………バロールと女騎士メイヴの呪いによって、男の力が失われるという事件が起きる。
為す術も無くヨトゥン軍に倒される騎士達を見かねて、光の加護を受けて呪いの効かなかったクー・フーリンは、ただ1人戦場に赴いた。
そして、クー・フーリンが消息を絶ったと同時に呪いは解ける。
バロールの魔眼が1つ失われたのは、その後の戦い…………アスナやランティストといったクー・フーリンを除いた7国の騎士との戦いであった。
つまり、かつての7国の騎士であったクー・フーリンは、4つの魔眼があったバロールと女騎士メイヴ……………そしてヨトゥン軍相手に1人で戦い、呪いを解いている。
神であるフレイが、3つの魔眼しかないバロールに苦戦している状況を見れば、どれだけ強かったか想像出来るだろう。
フレイは神である自分が苦戦する程の相手に、人間の身でありながら臆する事なく挑んだ騎士に、改めて敬意を表した。
そして、その騎士が使っていたゲイボルグを握り締める。
「やはり強いのぅ…………ソード・オブ・ヴィクトリーを操ってた頃なら、とても勝てなんだわ!!じゃが、ゲイボルグしか扱えないんでは、ワシには勝てんよ!!」
そう言うとバロールの瞳が再び青白く光り、業火の如き炎がフレイを襲う。
「ゲイボルグは、偉大な騎士クー・フーリンから受け継いだ槍。ソード・オブ・ヴィクトリーが無くても、この力で貴様を倒す!!」
30本に分かれたゲイボルグが回転し、フレイを守るように炎をいなす。
「そこかっ!!」
フレイの声に呼応するかのように、数本のゲイボルグが回転を止め、バロール目掛けて飛んでいく。
「ふん……………では、次の力を見せてやろうかのぅ…………」
目標であるバロールの姿が突然消え、目標を失ったゲイボルグは地面に突き刺さり消えた。
「どこにいった!!」
フレイは1本に戻したゲイボルグを構えながら辺りを見回すが、バロールの姿はどこにもない。
周囲を警戒するフレイの真下の地面が突然盛り上がり、土が槍のように尖り、フレイ目掛けて伸びてきた
「なんだ??」
その気配を察したフレイは飛び上がり、30本に分離させたゲイボルグを自分の目の前に円を描くように並べ、盾のようにして身を守る。
土の槍がゲイボルグの盾に直撃した…………しかし、視覚的には当たったように見えたが、感触がない。
(今の攻撃はなんだ??当たった筈だが、物理的な感覚が無い…………)
フレイが疑問に思いながら、地面に着地した。
着地したと同時に、今度は氷柱のような物体が無数にフレイを強襲する。
先程と同様に30本のゲイボルグを盾にして、氷柱から身を守ろうとした。
しかしやはり感触なく、フレイの体に当たった氷柱も体を擦り抜けていく。
というより視覚的には、ゲイボルグの盾もフレイの身体も関係無しに通り過ぎていく。
「これは、一体…………」
フレイが、ゲイボルグの盾から少し身を出した瞬間…………
グサッ!!
ゲイボルグの守備範囲から出した左肩に、氷柱が突き刺さった。
「ぐっ!!なんだ…………幻術に本物が紛れて……………いる??」
ゲイボルグを旋回させて、無数に襲い掛かって来る氷柱を、フレイは全て叩き落とそうとする。
バロールの姿が全く見えない為、どの方角の氷柱が本物か全く分からない。
ゲイボルグに全周囲を守らせている中心…………フレイのいる場所が、突然炎に包まれる。
「ぐわっ!!」
たまらず、フレイはゲイボルグの守備範囲から出てしまう。
ジュボッっ!!
嫌な音と共に、右胸に氷柱が突き刺った。
「ぐあああぁぁぁ!!」
叫び声と共に、フレイが片膝をつく。
鮮血が、大地を朱く染める。
「これが魔眼の力じゃ。魔眼の数だけ、使える能力が増える。今は2つしか使えんがの…………それでも充分のようじゃな」
フレイの前方に、バロールの姿が見えてきた。
「バロール……………貴様…………」
フレイは氷柱が刺さったままの体で立ち上がり、ゲイボルグを構える。
「ふぉっふぉっふぉ!!フレイ、自分の胸を見てみぃ。それが魔眼の力じゃ!!」
バロールの言葉に、フレイは氷柱が刺さっている自分の右胸を見た。
「なにっ!!氷柱が刺さっていた筈なのに!!」
フレイは、驚きの声を上げる。
氷柱が刺さった筈の右胸には、氷柱ではなく剣が刺さっていたのだ。
「魔眼には4つの力があっての。相手の力を奪い生命力を削る能力。火や水や土を操る能力。物を分離・封印する能力。そして、幻を見せる能力じゃ!!4つ目があった時は全て同時に使えたが、3つ目になっても全ての能力は使えるんじゃ!!同時には無理だがの…………」
得意満面で語るバロール。
(戦神である私が、こうも追い詰められるとは………………)
魔眼の影響下では、普段の力は出せない……………生命力が削られていく状況で、フレイは立ってるのがやっとの状態だった。
(次に幻術を仕掛けられたら、やられる…………)
フレイは右胸から滴り落ちる血液を見て、絶望を感じ始めていた。
(だが、ゼーク達が逃げる時間を作らなければ…………魔眼で見られたら、ゼーク隊は全滅だ…………)
それでも、フレイは自分の心を…………弱気になった心を奮い起こす。
その時、光の槍がバロールを強襲した!!
「なんじゃ??」
光の槍が……………その閃光が、バロールの頬を掠める。
(どこからの攻撃じゃ??)
バロールが辺りを見回すが、視界には攻撃したであろう人物は見当たらない。
魔眼の影響下から外れたフレイは、ありったけの力を込めて、ゲイボルグをバロールに向けて投げつけた。
「まだ動けるか!!じゃがなっ!!」
バロールが言うと同時に魔眼が光り、フレイにとっては向かい風の暴風が吹き荒れる。
ゲイボルグは四散し、フレイも後方に吹き飛んだ。
「止めじゃ!!」
バロールが、フレイに剣を突き立てようと迫る!!
「かかったな……………終わりだ、バロール!!」
30本、全てのゲイボルグは吹き飛ばしたとバロールは思っていた。
しかし、倒れたフレイの後ろで、バロールの目隠しをするようにゲイボルグが回っている。
その更に後方……………その場所から、3本の閃光が伸びて来た。
ゲイボルグが1本に戻る為に突然消えて、光の槍が姿を現す…………少なくともバロールには、目の前に突然光の槍が現れたように見える。
「ぬおっ!!」
それでも辛うじて光の槍を躱したバロールだが、次はゲイボルグが雨のように次々と襲い掛かかってくる。
「ちっ!!一気に流れが持っていかれたのぅ…………これは、アルパスターのブリューナクかの??」
土の壁を作って身を守るバロールだったが、完全にフレイから視界を外してしまった。
魔眼で力を奪われなくなったフレイは、ゲイボルグで時間差を使って攻撃し、更にはブリューナクでの援護攻撃も加わり、バロールは土の壁を下げれない。
その隙に、フレイはバロールから少しずつ距離をとる。
「くそっ!!小癪な奴らよの…………」
バロールが土の壁を下げた時には、フレイの姿どころかヨトゥン兵と戦っていたゼーク達の姿すら消えていた。
「してやられたのぅ…………流石はフレイだ。逃げの手際も良い…………一筋縄ではいかん男よのぅ………」
バロールは、戦場だった大地を見つめる。
「まぁ、相手の戦力を見るには充分の戦だったかの…………ガヌロンの言う通り、フレイとアルパスターさえ抑えれば我が軍に負けは無さそうじゃ」
そう呟くと、バロールはニヤリと笑う。
「次の戦には、スルトにムスペルの騎士も参戦するしのぅ…………フレイヤを囮にして、一網打尽にするのもアリじゃの…………人間どもが全滅する姿か…………楽しみじゃのぅ…………」
もはや、アルパスターの率いる遠征軍は敵ではない。
アルパスター軍最強のフレイを一騎打ちで破り、バロールは確信していた。
バロールが残存するヨトゥン兵を纏めていた所に、オルフェと戦い敗走してくるガヌロンを見つけた。
(しかし、何故アルパスターやフレイなど優れた将のいる中で、あのような輩が軍師をしとったんじゃろうな…………)
バロールは軽く溜息をついた後、ガヌロンにも後退命令を出した。
(後は、ガイエンの部隊がアルパスターの部隊にダメージでも与えてくれていれば言う事ないが、ワシへの攻撃を考えても無理だったかの…………ガイエンとアルパスターでは、役者が違いすぎるしの…………)
バロールはガイエンの救出は考えていないのか、そのままスラハト城へ後退していった。
その頃、アルパスター隊の後方で悲劇が起ころうとしていたが、それに気付いている者は、まだ誰もいない…………
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