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血に染まる白き冠
消えたガヌロン2
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シェルクードとガヌロンが林の中を逃げている頃、ベルヘイム軍の幕舎は騒然とし始める。
オルフェは、ガヌロンの事も気になっていたが、テューネが単独で追った事も気掛かりであった。
ガヌロン脱走の報はベルヘイム軍全体に伝えられ、直ぐに捜索隊が編成される。
航太やアルパスターも、その報を聞くと飛び起きて、ガヌロンを捕らえていた場所に向かった。
現場は、シェルクードが見張りの兵を殺した状態のまま残されている。
「畜生!!誰の仕業だよ!!ランカスト将軍を殺したガヌロンを助けようって奴がいるのか??」
航太は夜にも関わらず、大声で叫んでいた。
しかし、それは今集まっている全ての人の心を代弁している。
ベルヘイム軍で、ランカスト将軍と共に戦った事がある兵なら、当たり前である。
どんな時でも、ただの歩兵1人でも常に気をかける姿勢は、全ての兵から慕われる由縁でもあり、ベルヘイム軍でランカスト隊に入隊出来る事は、兵達の誇りでもあった。
その将軍が殺される要因を作った…………しかも、ランカスト将軍とは対極にいるような考え方をするガヌロンを助ける者がいるなど、俄には信じがたい。
先の戦闘ではランカスト隊を全滅に追いやったガイエンを…………その憎き相手を後1歩で倒せたのに自分達を助けるのを優先してくれた……………そして、戦いや慣れない生活で疲労やストレスが溜まってるのを見抜き、そんな緊張を酒場で取り除いてくれたランカストに、航太自身も本当に感謝していた。
だからこそ、航太はランカストを死に追いやる原因を作ったガヌロンを許せなかったし、その男を逃がした兵がいた事が信じられない…………
航太は、無意識に唇を噛み締める。
「ヨトゥン側の兵が逃走を手引きしたとかって、ないのかな??」
悔しさと怒りが同居している航太の表情を見ながら、絵美が首を傾げながら言う。
「まず、有り得ないだろうな…………ヨトゥンがガヌロンを助けても、メリットがそれ程ない。ロキがガヌロンの口封じに………とも考えられるが、それなら戦場でガヌロンを殺していただろう」
オルフェが現場を見ながら、絵美に答える。
「もしかしたら、ガヌロンを助けるのではなく、殺す為に連れ出した可能性もあるな…………」
アルパスターは、殺されている兵の喉元を貫いているナイフを腕組見ながら呟いた。
「なんで殺す為に助けるでしゅか~~。そんな奴いたらアホでしゅ~~。航太並の馬鹿でしゅ~~。てか、航太は変態でしゅた!!にゃはは」
「………………おい、アヒル野郎……………最後のは、ただの悪口だよなぁ~~」
航太とガーゴが睨み合ってると、智美が2人の間に割って入る。
「そんな言い合いしてる場合じゃないでしょ!!将軍、殺す為に逃がす事なんて事、ありえるんですか??」
「確実に自分の手でガヌロンを殺したいと思う奴なら、可能性はある。航太や私のような、遠距離攻撃できる者に気付かれたら本懐を遂げれないし、得手して恨みがある人間は、簡単に殺すより自分の恨みの深さを伝えてから殺したいと思うからだよ」
智美の問いに、頷きながらアルパスターは答えた。
「その可能性は高そうだ……………こいつは、ランカスト隊の紋章入りのナイフだ…………」
オルフェが、見張りの兵の喉に刺さっているナイフを見て言った。
「恐れていた事が起き始めたか…………」
アルパスターは、俯きながら呟く。
「そういえば、さっきオルフェ将軍も不安そうな顔してましたけど………どうしたんですか?」
航太は、オルフェに尋ねた。
「アルパスター将軍は、アルスター国から出向してる身。実践経験が豊富なフィアナ騎士として軍の指揮をしているが、ベルヘイムの兵を纏めていたのは、ベルヘイム12騎士のランカストだった…………ランカストが死んだ事で、ベルヘイム兵の統率がとれなくなるかもしれん…………」
「オルフェ将軍だって、12騎士の1人でしょ??ベルヘイムの兵隊さん達を纏められるんじゃないかな??」
智美は、ランカストとオルフェの戦いを見ている。
ランカストも勿論凄かったが、オルフェの戦い方も兵からの信頼のされ方も、負けてないと思えた。
「いや…………ガヌロンの指示だったとはいえ、ユトムンダスとの戦いでベルヘイム騎士団は戦闘を放棄した。村人と、見習い騎士だったランカストを見捨てた。その事は、全ての兵が知っている。実際にその場にいて何も出来なかったオレに、ランカスト程の信頼を兵からは得られない。見習い騎士でありながら、村を救ったランカストの足元にも及ばないのさ」
「そんな事……………」
そんな事ない…………そう言いかけて、智美は言葉を飲んだ。
謙遜している訳でも、お世辞を言っている訳でもない……………心の底からの言葉だという事に、オルフェの表情を見て智美は悟った。
「オルフェ殿は優秀な騎士だ。過去がどうであれ、それは変わらん。だが、兵達の気持ちは、今のオルフェ殿の言葉の通りだ。だから航太、お前に兵を指揮してもらいたいんだ。ランカスト同様に、半人前の騎士がレンヴァル村を救った…………兵達は、英雄ランカストの再来として、お前を見ている。だからこそ、お前がベルヘイム兵を纏めるんだ!!」
アルパスターからの自分への期待の大きさに、航太は驚く。
「レンヴァル村を救ったのは、オレじゃない!!」
そんな言葉が口から出そうになったが、航太は飲み込んだ。
(オレが何言おうと、皆がオレを信頼してくれてんだ。ランカスト将軍に恩返しできるのは、これしかない!!)
航太は、自分の決意を胸に刻んだ。
その後、捜索隊に連れられて、テューネが戻って来た。
テューネは涙と共に、ガヌロンを逃した事をアルパスターに伝える。
そして、逃亡を手助けしたシェルクードの行方も分からなくなった事を…………
そして、夜は深くなっていく…………
次なる戦いは、もう目前に迫っていた…………
オルフェは、ガヌロンの事も気になっていたが、テューネが単独で追った事も気掛かりであった。
ガヌロン脱走の報はベルヘイム軍全体に伝えられ、直ぐに捜索隊が編成される。
航太やアルパスターも、その報を聞くと飛び起きて、ガヌロンを捕らえていた場所に向かった。
現場は、シェルクードが見張りの兵を殺した状態のまま残されている。
「畜生!!誰の仕業だよ!!ランカスト将軍を殺したガヌロンを助けようって奴がいるのか??」
航太は夜にも関わらず、大声で叫んでいた。
しかし、それは今集まっている全ての人の心を代弁している。
ベルヘイム軍で、ランカスト将軍と共に戦った事がある兵なら、当たり前である。
どんな時でも、ただの歩兵1人でも常に気をかける姿勢は、全ての兵から慕われる由縁でもあり、ベルヘイム軍でランカスト隊に入隊出来る事は、兵達の誇りでもあった。
その将軍が殺される要因を作った…………しかも、ランカスト将軍とは対極にいるような考え方をするガヌロンを助ける者がいるなど、俄には信じがたい。
先の戦闘ではランカスト隊を全滅に追いやったガイエンを…………その憎き相手を後1歩で倒せたのに自分達を助けるのを優先してくれた……………そして、戦いや慣れない生活で疲労やストレスが溜まってるのを見抜き、そんな緊張を酒場で取り除いてくれたランカストに、航太自身も本当に感謝していた。
だからこそ、航太はランカストを死に追いやる原因を作ったガヌロンを許せなかったし、その男を逃がした兵がいた事が信じられない…………
航太は、無意識に唇を噛み締める。
「ヨトゥン側の兵が逃走を手引きしたとかって、ないのかな??」
悔しさと怒りが同居している航太の表情を見ながら、絵美が首を傾げながら言う。
「まず、有り得ないだろうな…………ヨトゥンがガヌロンを助けても、メリットがそれ程ない。ロキがガヌロンの口封じに………とも考えられるが、それなら戦場でガヌロンを殺していただろう」
オルフェが現場を見ながら、絵美に答える。
「もしかしたら、ガヌロンを助けるのではなく、殺す為に連れ出した可能性もあるな…………」
アルパスターは、殺されている兵の喉元を貫いているナイフを腕組見ながら呟いた。
「なんで殺す為に助けるでしゅか~~。そんな奴いたらアホでしゅ~~。航太並の馬鹿でしゅ~~。てか、航太は変態でしゅた!!にゃはは」
「………………おい、アヒル野郎……………最後のは、ただの悪口だよなぁ~~」
航太とガーゴが睨み合ってると、智美が2人の間に割って入る。
「そんな言い合いしてる場合じゃないでしょ!!将軍、殺す為に逃がす事なんて事、ありえるんですか??」
「確実に自分の手でガヌロンを殺したいと思う奴なら、可能性はある。航太や私のような、遠距離攻撃できる者に気付かれたら本懐を遂げれないし、得手して恨みがある人間は、簡単に殺すより自分の恨みの深さを伝えてから殺したいと思うからだよ」
智美の問いに、頷きながらアルパスターは答えた。
「その可能性は高そうだ……………こいつは、ランカスト隊の紋章入りのナイフだ…………」
オルフェが、見張りの兵の喉に刺さっているナイフを見て言った。
「恐れていた事が起き始めたか…………」
アルパスターは、俯きながら呟く。
「そういえば、さっきオルフェ将軍も不安そうな顔してましたけど………どうしたんですか?」
航太は、オルフェに尋ねた。
「アルパスター将軍は、アルスター国から出向してる身。実践経験が豊富なフィアナ騎士として軍の指揮をしているが、ベルヘイムの兵を纏めていたのは、ベルヘイム12騎士のランカストだった…………ランカストが死んだ事で、ベルヘイム兵の統率がとれなくなるかもしれん…………」
「オルフェ将軍だって、12騎士の1人でしょ??ベルヘイムの兵隊さん達を纏められるんじゃないかな??」
智美は、ランカストとオルフェの戦いを見ている。
ランカストも勿論凄かったが、オルフェの戦い方も兵からの信頼のされ方も、負けてないと思えた。
「いや…………ガヌロンの指示だったとはいえ、ユトムンダスとの戦いでベルヘイム騎士団は戦闘を放棄した。村人と、見習い騎士だったランカストを見捨てた。その事は、全ての兵が知っている。実際にその場にいて何も出来なかったオレに、ランカスト程の信頼を兵からは得られない。見習い騎士でありながら、村を救ったランカストの足元にも及ばないのさ」
「そんな事……………」
そんな事ない…………そう言いかけて、智美は言葉を飲んだ。
謙遜している訳でも、お世辞を言っている訳でもない……………心の底からの言葉だという事に、オルフェの表情を見て智美は悟った。
「オルフェ殿は優秀な騎士だ。過去がどうであれ、それは変わらん。だが、兵達の気持ちは、今のオルフェ殿の言葉の通りだ。だから航太、お前に兵を指揮してもらいたいんだ。ランカスト同様に、半人前の騎士がレンヴァル村を救った…………兵達は、英雄ランカストの再来として、お前を見ている。だからこそ、お前がベルヘイム兵を纏めるんだ!!」
アルパスターからの自分への期待の大きさに、航太は驚く。
「レンヴァル村を救ったのは、オレじゃない!!」
そんな言葉が口から出そうになったが、航太は飲み込んだ。
(オレが何言おうと、皆がオレを信頼してくれてんだ。ランカスト将軍に恩返しできるのは、これしかない!!)
航太は、自分の決意を胸に刻んだ。
その後、捜索隊に連れられて、テューネが戻って来た。
テューネは涙と共に、ガヌロンを逃した事をアルパスターに伝える。
そして、逃亡を手助けしたシェルクードの行方も分からなくなった事を…………
そして、夜は深くなっていく…………
次なる戦いは、もう目前に迫っていた…………
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