94 / 222
ロンスヴォの戦い
ガヌロンとソフィーア
しおりを挟む「ここは…………どこだ??」
薄暗い部屋の一室で、ガヌロンは目を覚ました。
「私は…………そうか、ベルヘイム軍に戻る途中に疲れ果てて、眠ってしまっていたのか……………」
宿泊しした事も気付かないくらい、疲れていたのだろう…………ガヌロンはそう思いながら、洗面所で顔を洗おうと身体を起こす。
「………………ソフィー……………ソフィー…………なのか??」
綺麗な黒髪で…………ガヌロンの記憶そのままの容姿で、傍らのソファーに座っている女性……………
かつて死んだ筈のガヌロンの娘ソフィーアが、そこに居た。
「お父さん………ようやく、私の恨みが晴らせるのね…………私が愛し、私を裏切った男に…………」
可愛らしい容姿からは似つかわぬ言葉が、その口から放たれる。
「そんな事より、ソフィー…………何故お前はここにいる??夢にしてはリアリティがありすぎる…………」
ずっと会いたいと思っていた娘が、手の届く距離にいる…………しかし、俄には信じられない。
ガヌロンは、ソフィーアの夢はよく見る。
夢に出て来るソフィーアは、娘が死んで気力を失い、頭が回らなくなったガヌロンの窮地を幾度となく救ってきた。
それこそ、ガヌロンが天才軍師と呼ばれ、その名が全世界に広まったの
は、ソフィーアの夢を見るようになってからだ。
だがそれは、あくまで夢の中の話…………目が覚めた時に、現実の世界に居る筈がない。
いや……………まだ夢を見ているのか…………??
「お父さん……………しっかりして!!ランカストが、こちらに向かって来ている。今の私には、お父さんに頼るしかないの…………ランカストをコッチの世界に連れて来れるのは、お父さんしかいないの…………」
綺麗な瞳に見つめられ、ガヌロンは言葉に詰まる。
夢の中では感じない、熱量があった。
「もちろん…………ランカストが憎いのは、私も一緒だ………夢の中でも、その気持ちは伝えていただろ??だが、何故その姿で…………今ここに居る??」
「お父さん…………私は、お父さんの夢の中でしか生きられない。お父さんの目に、私が現実の世界に居るって感じられるなら…………それは私たちの悲願が近いから…………お父さんの意識が、そうさせてるのかもしれないね………」
ソフィーアはそう言うと、ガヌロンの手をそっと握る。
「そうか…………こうして手を握っていると、その温もりまで感じているみたいだ…………」
「お父さん………私ね、本当はランカストが助けた、あの女が嫌い。私が死んだ後も、ランカストの後ろを付いてまわって…………私が妻になって…………ランカストを助けるのは、私の役目だった筈なのに………」
そう言うソフィーアの肩は、震えていた。
その小さな肩を優しく包み込むように抱きながら、ガヌロンはソフィーアの頭を撫でる。
「勿論そうだ。今回も近衛の仕事を放り出して、ランカストの元に来たぐらいだからな…………今回も付いて来ているに違いない。ランカストと共に葬り去ってやろうか…………」
「コッチの世界に来てまで、ランカストをあの女と奪い合うのは嫌………あの女は生かしておいて…………苦しみを与えて…………そして、生き地獄のように辛い人生を送らせるの…………」
ソフィーアは、そんな事を言う娘では無かった…………だが、優しい娘がそこまで言う程、ランカストの事が好きだったのだろう…………ガヌロンは憎しみを更に燃え上がらせた。
「分かったよソフィー…………私に全て任せておけ…………」
「そうね…………お父さんは、私の期待を裏切った事は無いもの…………今は、もう少しだけ休んで…………」
娘の…………ソフィーアを抱きながら、ガヌロンは再び眠りに落ちた…………
「ロキ様、お疲れ様でした」
ロンスヴォの城に戻ったロキは、ビューレイストの目には少し疲れているように見えた。
「昔は、女性への変わり身もよくやっていたのだがな……………最近は、ガヌロンの娘にしか女性になる機会がないから、少し疲れる。トールと遊び回ってた頃は、よく変わり身して悪戯していたモノだが…………」
一息つくと、ロキは視線を城外に移す。
「ランカストは部隊を率いて、こちらに向かっていると報告が入ってます。親子2役を演じきる…………役者になれますね」
ビューレイストの冗談にロキは笑って返すと、すぐに真剣な眼差しになる。
「優秀な者を殺すのは、やはり気が重くなるな……………仕方ない事だが…………」
ロキの視線の先………まだ見えないが、ランカストが部隊を率いてロンスヴォに向かって来ていた…………
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる