雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

文字の大きさ
上 下
92 / 222
ロキの妙計

ロキの妙計3

しおりを挟む

「ガヌロン!!よく無事に戻った!!して、智美は??」

ガヌロンが1人な事に首を捻りながら、アルパスターはガヌロンの帰還を労った。

「はい…………どうもロキはデュランダルとランカスト将軍の力を欲しているようでして…………智美を返してもいいが、その代わりにデュランダルとランカストを差し出せと言ってきましてな………なので、交換条件を提示してきました。ランカスト将軍の力を1度だけ貸す代わりに、我が軍の後方から攻撃せぬようにと…………」

「なにっ!!それは助かるが………そんな都合の良い話があるか??」

考え込むアルパスターに、隣で話を聞いていたオルフェが顔を上げる。

「ガヌロン殿、その話が本当ならば、前方のバロールやクロウ・クルワッハの部隊にのみ集中できる。しかし、ヨトゥン軍を裏切るような行為をして、ロキにメリットがあるようには思えないんだが??」

オルフェの言葉に、ガヌロンは自信あり気にニヤッと笑う。

「オルフェ、私の交渉術を甘くみるなよ。ロキは、レンヴァル村でデュランダルを使うつもりだ。レンヴァル村に眠っている物が何かは分からんが、ロキにとっては重要な物のようだ。今のデュランダルの力で、ロキの求める事が出来るかは不明だが、結果に関しては交渉での契約外の話だからの………それに、クロウ・クルワッハとロキの関係は、うまくないらしい」

「そうか………確かにロキは、レンヴァル村に感心がある気はするな…………かつて、ランカストが戦ったユトムンダスは、ロキの配下だったしな…………」

ガヌロンの表情を見ながら、アルパスターは言葉を発した。

アルパスターも、ガヌロンの娘がユトムンダスに殺された経緯は知っている。

「はい。そしてデュランダルも、元々はユトムンダスが所有してました。そこを突いてみたら案の定、私の術中に嵌まったと言う事ですな」

ガヌロンの下卑た笑いに不信感を感じたオルフェだが、航太がレンヴァル村で倒したとされるスリヴァルディも、ロキの配下であった者だ。

ロキがレンヴァル村にこだわっているようにも、確かに感じる。

「ガヌロン殿、ランカストに護衛は何人程付けますか?流石に1人で行かす訳にも………デュランダルを使うという事は、武器を持って行くと言う事。ロキ陣営も、それなりの準備をしているでしょうからね」

将軍級の武力を持つ者が、神剣と言われる武器を持って敵の大将と会う。

それは相手にとってもリスクが高く、備えをしていると考えるのが普通である。

オルフェは、ガヌロンとランカストの因縁も知っている為、このロキと交わした契約を信じる事が出来なかった。

「ロキの居城であるロンスヴォへの攻撃や、ロキの配下に攻撃しなければ、我々には攻撃しないと約束してくれた。少数の部隊での護衛なら問題なかろう」

ガヌロンの答に、アルパスターもオルフェも口を紡ぐ。

敵の領土内にあるコナハト城を攻めるのに、敵国の中を進軍して行く事になるのは当たり前だ。

そこで1番の問題になるのが、後方から挟撃される事である。

周囲を囲まれながら行軍するのと、後方を気にせず行軍するのとでは、肉体的にも精神的にも、かなり楽なものになる筈だ。

そう思うと、この申し入れを断る事は困難に思える。

「ランカスト将軍を危険な目に合わせてしまう事になるが…………止む終えないか…………」

アルパスターは、ガヌロンの交渉の成果に乗る決意を固めた。

「それならば、私に護衛の任を命じて下さい。ランカストは、命に代えても守ってみせます!!」

オルフェの言葉に、アルパスターは頷く。

「オルフェが行ってくれるならば、心強い。ではガヌロン、ランカスト将軍と作戦について話し合ってくれ」

「はい。ランカスト将軍に命の危険が無いよう、作戦を立案してみます」

そう言ってアルパスターとオルフェに背を向けたガヌロンは、軽く笑いながら姿を消した。

オルフェはランカストに事情を説明し、その判断はランカストに委ねる。

その答は、皆の期待を裏切らないものだった。

ベルヘイム軍にとって、良い事であれば何でもすると…………

そしてランカストは、城塞都市ロンスヴォに旅立つ事となる。

レンヴァル村に何が眠っているのか、分からぬままに…………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宝くじと株で1000億円手に入れた、弟に殺されかけた、廃神社を買って隠れた、女神に異世界に行かされた。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

【完】テイマーとタンクとヒーラーがいるからアタッカーはいらないと言われてクビになったので、アタッカーしかいないパーティーを作ることにしました

ひじり
ファンタジー
「お前にはパーティーを抜けてもらいたい」  ある晩のこと。  アタッカーのリジン・ジョレイドは、パーティーの仲間たちと共に酒場で飲んでいた。  そこでリーダーからクビ宣告を受けるが、納得がいかない。  だが、リーダーが口にした一言で、全てを分からされてしまう。 「――アタッカー不要論」  それは【勇者】の称号を持つ金級三つ星冒険者の発言だった。  その人物は、自身がアタッカーであるにも関わらず、世にアタッカーは不要であると論じた。【勇者】の称号を持つほどの人物の言葉だ。アタッカー不要論が世界へと広まるのに、然程時間はかからなかった。 「おれたちのパーティーには、テイマーのおれが居る。魔物との戦闘行為は、おれが使役する魔物に全て任せればいい」  今までアタッカーが担っていた部分は、テイマーが使役する魔物や、攻撃的なタンクが担うことが出来る。  回復役として、ヒーラーは絶対に必要不可欠。  メイジであれば応用も効くが、戦うことしか能のないアタッカーは、お荷物となる。だからリジンは必要ないと言われた。 「リジン、お前もアタッカーなら分かるはずだ。おれたちが冒険者になる前の段階で、既にアタッカーの需要は減っていた……それなのに、おれたちのパーティーの仲間として活動できただけでも運が良かったと思ってほしいんだ」  今の世の中、アタッカーは必要ない。  では、アタッカーとして生きてきた冒険者はどうすればいい?  これは、アタッカー不要論の煽りを受けたアタッカーが、アタッカーだけのパーティーを組んで成り上がる物語である。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...