87 / 222
ロキの妙計
ソフィーアの涙5
しおりを挟む
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
ランカストは気迫を込めて、最短距離でテューネに襲いかかる柄とテューネ本人の間にデュランダルの腹を滑り込ませた。
ギリギリのタイミングで、ユトムンダスが勢いよく振った剣の柄をデュランダルの剣の腹で受ける事に成功し、その剣の腹に押し出される格好でテューネは転がる。
そう……………デュランダルは、押し出されていた。
つまり……………
バシャっ!!
ランカストの身体とデュランダルに、鮮血が降り注いだ。
「ぐはぁっ!!」
女性の……………ソフィーアの呻き声が、ランカストの耳には聞こえる。
見なくても分かってしまう……………大好きな人の……………一番聞きたくない声…………
低空で振られたユトムンダスの剣は、立ち上がったテューネの頭に柄が当たるような低さ…………まだ立ち上がれず、体を半分起こした程度のソフィーアの腹を斬り裂く低さ…………
そう…………ソフィーアの腹部は、ユトムンダスの剣を半分程度飲み込んでいた。
ソフィーアは朦朧とした意識のまま、腹に食い込まれた剣を両手で力強く握ると、その剣に自らの全体重を乗せるかのように覆いかぶさる。
(ランカスト…………私の命で…………テューネと…………村の人達を守って…………お父さんじゃ…………今のベルヘイム騎士団じゃ、誰も守れない…………お願い、ランカスト…………テューネと一緒に、平和な世の中を作って…………)
その時、風が吹いた。
その清らかな風は、破れたソフィーアの服の切れ端をデュランダルの柄へと運ぶ。
ソフィーアの血で染まった服の切れ端は、デュランダルの柄に触れると消滅した。
その直後、デュランダルが血のような赤き輝きを一瞬だけ放つ。
(なんだ…………急にデュランダルが軽くなった…………ソフィーア…………君が力を貸してくれているのか??なら…………オレは振り向かない…………この一撃で………ユトムンダスを討つ!!)
ランカストが…………デュランダルが纏った力…………神聖な力に、ユトムンダスは始めて恐怖を感じる。
「馬鹿な…………剣が引き抜けない………小娘の力如きで………」
焦るユトムンダス…………その姿を見ながら、ランカストは地面を蹴った。
「これが…………これが、命を懸けた人間の強さだっ!!貴様には分かるまい、命を消していく事に何も感じない貴様にはっ!!」
デュランダルは、まるでランカストの腕に同化したかのように………それまで感じていた重さが嘘のように、ランカストの意思のままにユトムンダスに襲いかかる。
「ばっ…………馬鹿なぁー!!」
デュランダルは、いとも容易くユトムンダスの首を斬り落とした。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」
ランカストは、腹の底から……………心の深い所から、あらん限りの声を張り上げる。
そして、村人を襲っているヨトゥン兵を睨む。
ユトムンダスとソフィーアの返り血を全身に浴び、神剣デュランダルを構えたランカストは、正に修羅に見えた。
「今のデュランダルの剣速…………ユトムンダス様が使っていた時より、明らかに速い!!」
「ユトムンダス様が殺されたんだ!!一旦引いて、態勢を整えるぞ!!」
大将であるユトムンダスが討ち取られ、ヨトゥン兵達は浮足だつ。
精鋭であるヨトゥン兵達は、普段なら大将が討たれた事で焦りはしない。
しかし、ランカストの気迫が…………デュランダルの未知の力が、精鋭であるヨトゥン兵達の危機察知能力に引っ掛かった。
ヨトゥン兵が後退を始めると、テューネはソフィーアの元に駆け寄る。
「テューネ……………無事で良かった………ランカストは…………まだ、未熟だから…………大きくなったら…………助けてあげてね…………」
呼吸が早くなり、喋る事も辛そうなソフィーアだったが、ポケットから小さな箱を取り出すと、テューネに渡した。
「この箱に………今日…………お父さんに…………渡そうとしたプレゼントが…………入っているの…………お父さんが…………正しく歩めるようになったら…………渡してあげて…………」
テューネは箱を受けとると、瞳に涙を溜めながら力強く頷く。
「ありが…………とう…………」
ソフィーアが目を閉じようとした時、幼いテューネを吹っ飛ばし、ガヌロンがソフィーアの目の前に現れた。
「お父………さん…………」
「ソフィー!!なんで…………なんで、こんな事に!!あの騎士見習いが、お前を救うように動いていれば…………こんな事にはならなかったのに!!」
ガヌロンは恨めしそうに、ランカストを睨みつける。
「お父…………さん…………ラン…………カストを……………恨ま…………な…………」
恨まないで…………ランカストは必死に戦って、最善を尽くした…………ソフィーアはガヌロンに、そう伝えたかった。
「ああ、ソフィー、勿論だ!!アイツが…………あの騎士見習いが、もっと上手く動けば、助かったんだ…………お前の恨みは、父が晴らす!!」
ランカストを睨む父に、必死に首を振るソフィーアだが、ガヌロンは見ていない。
(お父さん…………違うよ…………お父さんは、村人を見捨てた。ランカストは、村人を救った。よく、考えて………………)
ソフィーアは薄れていく意識の中で…………言葉も発する事も出来なくなり、父に何も伝えられない歯痒さに…………瞳から涙が溢れ出す。
(ランカスト…………もっと…………もっと………貴方と生きたかった…………もっと…………)
ソフィーアは、最後にランカストの顔を見たかった。
しかし視界はボヤけて、もはや何も見えない。
(ゴメンね…………ランカスト…………父とテューネをお願いね…………ゴメンね…………)
ガヌロンはソフィーアに近付くランカストを睨みつけ、自らの腕で息を引き取った娘の為に復讐を誓った。
その様子を、遠目から見ていた男…………
ビューレイストは、デュランダルに力が宿るのを確認する。
「なんと…………もはや手に入らないと思っていた聖母マリアの衣服………あのような娘が…………命懸けで、その位まで駆け上がったか…………だが、これでデュランダルが真の力を発揮するまで、後2つの聖遺物を揃えればよくなった………早くデュランダルを解放し、レンヴァル村に眠るアレを回収せねば…………」
そう言うと、その姿は闇に溶けて消えていった………
ランカストは気迫を込めて、最短距離でテューネに襲いかかる柄とテューネ本人の間にデュランダルの腹を滑り込ませた。
ギリギリのタイミングで、ユトムンダスが勢いよく振った剣の柄をデュランダルの剣の腹で受ける事に成功し、その剣の腹に押し出される格好でテューネは転がる。
そう……………デュランダルは、押し出されていた。
つまり……………
バシャっ!!
ランカストの身体とデュランダルに、鮮血が降り注いだ。
「ぐはぁっ!!」
女性の……………ソフィーアの呻き声が、ランカストの耳には聞こえる。
見なくても分かってしまう……………大好きな人の……………一番聞きたくない声…………
低空で振られたユトムンダスの剣は、立ち上がったテューネの頭に柄が当たるような低さ…………まだ立ち上がれず、体を半分起こした程度のソフィーアの腹を斬り裂く低さ…………
そう…………ソフィーアの腹部は、ユトムンダスの剣を半分程度飲み込んでいた。
ソフィーアは朦朧とした意識のまま、腹に食い込まれた剣を両手で力強く握ると、その剣に自らの全体重を乗せるかのように覆いかぶさる。
(ランカスト…………私の命で…………テューネと…………村の人達を守って…………お父さんじゃ…………今のベルヘイム騎士団じゃ、誰も守れない…………お願い、ランカスト…………テューネと一緒に、平和な世の中を作って…………)
その時、風が吹いた。
その清らかな風は、破れたソフィーアの服の切れ端をデュランダルの柄へと運ぶ。
ソフィーアの血で染まった服の切れ端は、デュランダルの柄に触れると消滅した。
その直後、デュランダルが血のような赤き輝きを一瞬だけ放つ。
(なんだ…………急にデュランダルが軽くなった…………ソフィーア…………君が力を貸してくれているのか??なら…………オレは振り向かない…………この一撃で………ユトムンダスを討つ!!)
ランカストが…………デュランダルが纏った力…………神聖な力に、ユトムンダスは始めて恐怖を感じる。
「馬鹿な…………剣が引き抜けない………小娘の力如きで………」
焦るユトムンダス…………その姿を見ながら、ランカストは地面を蹴った。
「これが…………これが、命を懸けた人間の強さだっ!!貴様には分かるまい、命を消していく事に何も感じない貴様にはっ!!」
デュランダルは、まるでランカストの腕に同化したかのように………それまで感じていた重さが嘘のように、ランカストの意思のままにユトムンダスに襲いかかる。
「ばっ…………馬鹿なぁー!!」
デュランダルは、いとも容易くユトムンダスの首を斬り落とした。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」
ランカストは、腹の底から……………心の深い所から、あらん限りの声を張り上げる。
そして、村人を襲っているヨトゥン兵を睨む。
ユトムンダスとソフィーアの返り血を全身に浴び、神剣デュランダルを構えたランカストは、正に修羅に見えた。
「今のデュランダルの剣速…………ユトムンダス様が使っていた時より、明らかに速い!!」
「ユトムンダス様が殺されたんだ!!一旦引いて、態勢を整えるぞ!!」
大将であるユトムンダスが討ち取られ、ヨトゥン兵達は浮足だつ。
精鋭であるヨトゥン兵達は、普段なら大将が討たれた事で焦りはしない。
しかし、ランカストの気迫が…………デュランダルの未知の力が、精鋭であるヨトゥン兵達の危機察知能力に引っ掛かった。
ヨトゥン兵が後退を始めると、テューネはソフィーアの元に駆け寄る。
「テューネ……………無事で良かった………ランカストは…………まだ、未熟だから…………大きくなったら…………助けてあげてね…………」
呼吸が早くなり、喋る事も辛そうなソフィーアだったが、ポケットから小さな箱を取り出すと、テューネに渡した。
「この箱に………今日…………お父さんに…………渡そうとしたプレゼントが…………入っているの…………お父さんが…………正しく歩めるようになったら…………渡してあげて…………」
テューネは箱を受けとると、瞳に涙を溜めながら力強く頷く。
「ありが…………とう…………」
ソフィーアが目を閉じようとした時、幼いテューネを吹っ飛ばし、ガヌロンがソフィーアの目の前に現れた。
「お父………さん…………」
「ソフィー!!なんで…………なんで、こんな事に!!あの騎士見習いが、お前を救うように動いていれば…………こんな事にはならなかったのに!!」
ガヌロンは恨めしそうに、ランカストを睨みつける。
「お父…………さん…………ラン…………カストを……………恨ま…………な…………」
恨まないで…………ランカストは必死に戦って、最善を尽くした…………ソフィーアはガヌロンに、そう伝えたかった。
「ああ、ソフィー、勿論だ!!アイツが…………あの騎士見習いが、もっと上手く動けば、助かったんだ…………お前の恨みは、父が晴らす!!」
ランカストを睨む父に、必死に首を振るソフィーアだが、ガヌロンは見ていない。
(お父さん…………違うよ…………お父さんは、村人を見捨てた。ランカストは、村人を救った。よく、考えて………………)
ソフィーアは薄れていく意識の中で…………言葉も発する事も出来なくなり、父に何も伝えられない歯痒さに…………瞳から涙が溢れ出す。
(ランカスト…………もっと…………もっと………貴方と生きたかった…………もっと…………)
ソフィーアは、最後にランカストの顔を見たかった。
しかし視界はボヤけて、もはや何も見えない。
(ゴメンね…………ランカスト…………父とテューネをお願いね…………ゴメンね…………)
ガヌロンはソフィーアに近付くランカストを睨みつけ、自らの腕で息を引き取った娘の為に復讐を誓った。
その様子を、遠目から見ていた男…………
ビューレイストは、デュランダルに力が宿るのを確認する。
「なんと…………もはや手に入らないと思っていた聖母マリアの衣服………あのような娘が…………命懸けで、その位まで駆け上がったか…………だが、これでデュランダルが真の力を発揮するまで、後2つの聖遺物を揃えればよくなった………早くデュランダルを解放し、レンヴァル村に眠るアレを回収せねば…………」
そう言うと、その姿は闇に溶けて消えていった………
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる