81 / 222
ロキの妙計
ミルティの子孫
しおりを挟むロキは約束通り、その日以降はベルヘイム軍や元の世界の事は聞かず、智美は完全にお客様の待遇になっていた。
ロキの弟と紹介されたビューレイストも紳士として振る舞ってくれ、何の不自由もない生活を送る事が出来ている。
しかし智美は、ロキ陣営での生活に安らぎを覚えつつ、自分を守る為に戦ってくれたゼークの安否が気になっていた。
智美がそんな事を思って生活している時、ロキから思いがけない申し出が伝えられる。
智美をベルヘイム軍へ返してくれると言うのだ。
久しぶりに戦いの事を考えない生活に心癒されてたが、ゼーク達の事も気になっていたし、ロキの心遣いにも感謝した。
捕虜なのだから、取引材料に使われてもおかしくない所だが、無条件で返してくれると言う。
そんな話を断れる訳もなく、今の生活に後ろ髪を引かれつつも、智美はベルヘイム軍に帰る事をロキに伝える。
ロキはベルヘイム軍の軍師ガヌロンを通じて、返す手筈を整える事を約束してくれた。
そして、ロキの書状はガヌロンへと届けられる。
書状を受け取ったガヌロンは、自分が交渉の使者に選ばれるように動く。
アルパスターに書状の報告に行く時に、わざとランカストに見える様な場所を歩いて、幕舎に入った。
幕舎の外で話を聞いていたランカストは、思惑通りガヌロンを使者に押し、彼は交渉の使者に選ばれる。
翌日、交渉の為に出かけようとする馬上のガヌロンの目に、1人の女性の姿が映った。
「テューネ…………ベルヘイム近衛騎士の貴様が、何故ここにいる??」
「いやぁ…………にゃははは!!ランカスト様の命令で、本日からコナハト城奪還作戦に参加する事になりました!!」
わざとらしく敬礼する薄い水色の女性…………というには、少し幼い顔立ちの可愛いらしい女の子に、ガヌロンは嫌悪感丸出しの表情をする。
「おいっ!!誰の命令だって??仮に誰の命令であったとしても、近衛騎士が城を離れるとは…………近衛の自覚が足りん!!」
テューネと呼ばれた女性の後ろから現れたランカストは、その小さな身体を軽々と持ち上げると、ガヌロンに謝罪させるように、彼の跨がる馬の足元に放り投げた。
「ウワッと!!あっぶないな~」
テューネは1回転すると上手く着地し、ガヌロンの跨がる馬の下でひざまづく。
「すいませーん。私の祖母の使っていたトライデントと似た特性の神器を使うMyth Knightが現れたって聞いて…………居ても立っても居られなくて…………近衛騎士の仕事は分かってるんですけど…………」
テューネは申し訳なさそうにそう言うと、様子を伺うようにガヌロンを見る。
「それだけの理由で………貴様は、近衛騎士の大切さが分かっていない!!騎士としての意識の低さが、20歳になってもMyth Knightにもなれない、12騎士にも選ばれないんだ!!7国の騎士を先祖に持つ者達は、その期待に応える者が多いが…………貴様は、落ちこぼれもいいトコだ!!」
語気を荒げるガヌロンは、まるでテューネに恨みでもあるかのように睨む。
この女性………テューネ・ノアは、かつての7国の騎士ミルティ・ノアの子孫である。
「やっぱり…………オレがベルヘイム出る時も、国王様に止められてただろう?まさか、自力でここまで来るとは…………」
ランカストの後ろから、オルフェが頭を掻きながら現れた。
「ガヌロン殿、すまない。この件は、オレの方から国王様に伝えておく。大事な交渉の前に、気分の悪い思いをさせてしまったな………」
オルフェの謝罪にガヌロンは少し落ち着いたのか、大きく溜息をつくと前を向く。
「ふん…………オルフェの言う通り、今は捕虜を無事に取り戻す交渉を成功させる事が先決だな…………貴様は、帰ったら処罰を言い渡す!!それまで大人しくしてろ!!」
ガヌロンは相変わらずテューネの事は睨み続け、その姿が視線から外れると馬を走らせる。
その後ろ姿を見送りながら、今度はランカストが大きな溜息をつく。
「ガヌロンは、まだ恨んでるのか…………まぁ、忘れろって方が無理な話か………あれから、もう13年も経つのにな…………」
「しかし、ガヌロンは言い方に刺がありすぎる………人の心を掴む事が出来れば、全ての国の頂点に立つ軍師になれる器があるんだが…………それよりテューネ、ガヌロンじゃないが、近衛騎士の仕事を放り投げて来た事は問題だぞ!!」
オルフェにも睨まれて、テューネはただでさえ小さい身体を、更に小さくする。
「はーい。でも、近衛の仕事してたら、いつまで経っても水のMyth Knightに会えないし…………やっぱり、知っておきたいんだよね…………祖母に…………ミルティに…………過去に何があって、消息を消したのかを…………」
テューネはそう言うと、青く続く空を見上げた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる