雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

文字の大きさ
上 下
78 / 222
ロキの妙計

智美とロキ1

しおりを挟む
レンヴァル村の戦いから遡る事、数日…………

智美が目を覚ますと、そこはベッドの上だった。

心地良い小鳥の囀りが聞こえ、カーテンが軽く揺れる窓からは朝の陽射しが入っている。

頬に触れる爽やかな風が、智美の体を癒していく。

「ん~~気持ちいい」

智美は軽く伸びをして、周りを見回した。

かなり大きめの部屋の部屋の真ん中に自分の寝てるベッドがあり、窓の近くには机と椅子が置いてある。

「あそこでお茶したら、最高だなぁ~」

何故かリラックスしている智美は、窓の側まで歩いた。

窓から見える牧歌的な風景に、故郷の長野から見えるアルプスの山々を思い浮かべる。

ふと、自分の寝ていたベッドを見ると、キングサイズのお姫様ベッドにフカフカの柔らかそうな布団が敷いてあった。

いや、高級な羽毛が使用されているであろうソレは、軽くて最高の寝心地であった事が、身体が覚えている。

「なんで私、こんな凄い部屋に泊まってるんだろ??」

智美は今の状況がよく分からなかったが、寝ぼけていた事もあり深く考えられなかった。

コンコン………

柔らかなノックの音が、智美の耳には心地好い。

「ふぁ~~い」

智美がドアを開けて顔を出すと、メイドの姿をした同年代の女性が立っていた。

綺麗で整った美しい顔立ちの女性の姿に、寝ぼけた顔をしていた智美は思わず顔を赤らめて手で覆う。

「お早うございます。よく眠れましたか??すぐにロキ様を連れてきますので、そちらでお化粧などしてお待ち下さい」

優しい笑みを浮かべたメイドさんが指した場所を見ると、部屋の中に鏡付きの机が置いてあった事に気付く。

ロキという言葉に、自分が捕らえられてる事に気付いた智美だったが、メイド姿の女性は一礼すると足早に去ってしまった。

(どうしよ…………私、捕まってたんだ…………でも、何で牢屋とかじゃないんだろ??手足も自由に動くし………)

考えながらも、メイドさんが教えてくれた鏡付きの机の前に座った智美は、その引き出しを無意識に開ける。

すると、高級そうな化粧道具が一式入っていた。

メイクボックスの縁取りは金で装飾されており、所々に光を乱反射する宝石が散りばめられている。

(う~~ん。これ、持って帰ったら高く売れそうだなぁ…………て、違う違う、思わず現実逃避しちゃったケド………本当に、コレ使っちゃって大丈夫なのかな?)

心配しながらも、智美は化粧に取り掛かった。

そこは、さすがに女の子……………敵であっても、寝起きの顔にノーメイクで男性に会うのは嫌なものだ。

コンコン………

化粧が一段落した頃、再びノックの音がする。

「ロキ様がいらっしゃいました。開けてもよろしいですか?」

「は~い。どうぞ」

先程と同じ女性の声に智美は少し安心して、ドアの外に聞こえるように声をかける。

ゆっくりとドアが開くと、まずメイドさんが入ってきて、次に正装をした男性が入ってきた。

「はじめまして。ロキと申します」

ロキは智美に向かって一礼すると、一緒に入って来たメイドに「朝食の準備を頼む」と声をかける。

メイドはロキに対して深々と礼をすると、智美にも礼をして、そのまま部屋の外に出て行く。

「お腹が空いただろ?朝食をとりながら、少し話を聞かせて貰えると嬉しいんだが…………」

ロキは智美を窓の近くの机に行くよう促し、対面で腰をかけた。

「失礼します」

ドアの外に既に準備されてたのだろうか…………直ぐにメイドの女性が入ってきて、手際よく机の上に朝食を2人分置いていく。

珈琲の良い香りが、部屋の中を満たし始める。

フレンチトーストにスクランブルエッグにシーザーサラダにフルーツの盛り合わせに…………それに珈琲!!

綺麗な食器に盛りつけられた素敵な食事、癒される景色を大パノラマで眺められる環境、目の前には紳士的な美男子…………

智美は捕虜である事を忘れて、目を輝かせた。

「まずは食事をしよう。珈琲は私がいれたんだ。口に合うといいが………」

ロキはそう言うと、良い香りを漂わせる珈琲を啜る。

「私、珈琲大好きなんです!!いただきます!!」

アロマのような珈琲の香りに緊張が解けた智美は、ミルクを少しだけ入れてから口に含む。

「美味しい♪♪」

果実の甘味のような香りが鼻に抜け、思わず智美は声を上げた。

「それは良かった。寝起きだから、浅煎りにしてみたんだ。そう言ってもらえると嬉しいよ」

ロキは嬉しさを表現するかのように、優しく微笑んだ。

(この人、本当にヨトゥンなのかな??フェルグスもそうだけど、とても悪い人に見えないなぁ……)

智美はそう感じながら、食事を進める。

食事が一段落ついた時、ロキが口を開いた。

「さて、ビューレイストに叩かれた腹の調子はどうかな??回復魔法はかけさせておいたが………」

「大丈夫みたいです。あの………手当といい、心遣いといい、ありがとうございます。同年代の女性のメイドさんまで…………助かりました」

ロキの質問に、出来るだけ丁寧に智美が返事する。

「いや…………君が疑問も抱かず、美味しそうに食事もしてくれて、素直な娘だと感じたよ。普通は、毒が盛られてるとか、食事する前に色々と考えそうなモノだが…………とても敵だったとは思えないな」

ロキが軽く笑うのを見て、智美は自分の行動が図々しかったと思い照れ笑いをした。

「本来は捕虜にこんなサービスはしないんだが、君は特別だ。少し質問に答えてもらいたい」

質問と聞いて、智美の体が固まる。

軍の秘密を喋る訳にはいかない…………と言っても、智美は軍の秘密などほとんど知らない。

(質問に答えなきゃ拷問とかされちゃうのかな??知らないなんて、通用しないだろうし…………ヤバイよぉ~~)

緊張した表情になった智美を見て、ロキが笑いだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...