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ロキの妙計
隠された真実2
しおりを挟む「けど、なんでスリヴァルディはヨトゥンの領土であるレンヴァル村を襲ったんだ?フェルグスの【ゲッシュ】を知ってるなら、尚更レンヴァル村を襲うメリットが分からないけど………」
航太はゲッシュの説明を聞いて、フィアナ騎士が自らを律する誓いの重さを知った。
フェルグスの母親が住んでいるレンヴァル村を襲えばどうなるか…………スリヴァルディは分かっていた筈なのに、味方同士で争ってまで何がしたかったのか……………航太は理解に苦しんだ。
「まぁ……………その辺りは、よく分からないがな…………だが、航太の言う通り、スリヴァルディはフェルグスのゲッシュは知っていた筈。だとすれば、あえてフェルグスと戦う為にレンヴァル村を襲ったのは間違いない」
「私達レンヴァル村に住む者達は、急にスリヴァルディの部隊が襲って来たので、訳も分からないまま逃げる事しか出来なくて………」
フェルグスの母ロータは、その時の事を思い出したのか…………俯いた表情は悲しみを浮かべている。
「ロキ軍の将だったユトムンダスも、レンヴァル村を襲ってんだよな…………そん時は、まだ人間の領土だったってランカスト将軍は言ってたから、あまり疑問に思わなかったけど…………ロキに不都合な何かが、レンヴァル村にあるんじゃねーの?」
「そういえば、各国最強の騎士を集めた【7国の騎士】が始めて集まった場所も、レンヴァル村の近くだったって…………歴史書で読んだ事があります。それに、邪竜ファブニールを倒すヒントを得たのも、この辺りだった筈ですよね?」
航太の言葉を聞いてたゼークは、思い出した事を口にした。
確かにロキ軍は、レンヴァル村付近に駐屯している事が多い。
「ロキがレンヴァル村を襲わせているって言うよりは、それぞれの将が自分勝手の思惑で襲っているようにしか見えんがな…………しかし、神の中でも知力の高いと噂されるロキの事だ……………他のヨトゥン軍に気付かれないように、何かをしている可能性はあるが……………あくまで推測に過ぎん」
アルパスターは、そこで一度口を閉じた。
航太が難しそうな表情で、ロータを見ていたのに気付いたからである。
「どうした?航太?ロータ殿に、何か聞きたい事でもあるのか?」
「いや、話を変えて悪いんだけど、フェルグスの母親って言ったら…………元アルスター王の奥様って事だろ?なんでレンヴァル村に居たのかなーと………」
航太の疑問は、もっともだった。
王の妻が、率先して反乱に加わったとは思えない。
「それは…………」
ロータが口を開いて説明しようとしたが、それをアルパスターが手を広げて制した。
「航太の言う通り、彼女は元アルスター国王であるコンフォバルの妻だった。しかし、コンフォバル王の私利私欲の政治に意見した為、城から追放されて、その時に一国民に格下げされたんだ……………」
「つまり、フェルグスを産んだ後に、城を追放された訳か………」
アルパスターの話を理解した航太が、ロータを見ながら呟く。
「フェルグスがレンヴァル村に連れて行ったのは、アデストリアの乱に参加した人達だけでしょ??ロータさんも、反乱に参加されたのですか??」
疑問に思ったゼークが、ロータとアルパスターを交互に見ながら聞いた。
「ロキが反乱を起こした人を自らの領土に迎え入れる時に、私を監視下に置く事が条件だったの。息子が裏切らないように…………」
「フェルグスのゲッシュを知っていれば、その条件は普通に出すだろーなぁ…………けど、だとしたら、今ここに居て大丈夫なのか?フェルグスの立場が悪くなるんじゃ…………」
ロータの説明に納得した航太だったが、ロキの監視下になければいけない人物がベルヘイム軍に保護されている状況が危険に感じる。
「そこは大丈夫だろう。ロキ軍の将に、ロータ殿が襲われた事実もある。フェルグスのゲッシュを知っていれば、そんな危険な状況に母親を置いとけない事も理解出来る筈だ。何より、今までのフェルグスの働きをロキは知っている…………その信頼は簡単に揺るがない…………それ程の活躍をフェルグスはしているからな」
アルパスターは、これまでのフェルグスの戦績を思い出し、大きな溜息をついた。
実際に戦場で顔を合わせた事はない…………しかし、元フィアナ騎士の名に恥じない戦いをしており、ヨトゥン軍の中でも、その名声は轟いている。
そんな話をしている所に、ガヌロンが入って来る。
「航太、夜はお手柄だったそうじゃないか。その報告か?」
「ま……………まぁ~、そんなとこっス」
未だにガヌロンに慣れない航太は、吃りながら返事をした。
「ふん。お前にも関係する話を持ってきたから、丁度よかった。智美殿が見つかったぞ」
「何っっ!!」
跳びはねたいぐらいの喜びを堪えた航太だが、顔はニヤついてしまう。
ゼークも航太の隣で、驚きと喜びが入り乱れた表情を浮かべている。
「手放しで喜ぶのはまだ早い。今はまだロキ軍の捕虜の状態だ。ロキ軍を後方から攻撃しない事を条件に、受け渡し用の使者を1人、ロキの陣営に来るように言ってきている」
「そんなの、オレが行くぜ!!」
ガヌロンの言葉に、航太がすぐに反応して答える。
「そんな…………私が行きます!!智美が敵に捕まった原因は、私にあります!!命に代えても、取り戻してみせます!!」
そんな航太の言葉に被せるように、ゼークが今にも飛び出しそうな勢いで声を荒げた。
「待て!!敵の罠という事もある。航太やゼークに伝えるのが遅くなって申し訳ないが、そもそもレンヴァル村で智美の受け渡しを行う筈だった。そこにスリヴァルディの襲撃があったりして、ゴタゴタしているんだ。だから、相手の条件を全て飲む訳にはいかない。使者には、それなりの知恵者でなければ……………」
アルパスターが悩んでいると、外で話を聞いていたのか、ランカストもテントに入って来る。
「ガヌロン殿でいいんじゃないか?ベルヘイム1の智才なんだから、何とかしてくれるでしょう?」
「何っ!!そんな危険な任務につけるかっ!!」
ガヌロンは、直ぐさま反論する。
「いや、ロキは常識人だと聞いている。危険は少ないだろう。それより、他の者では事情を細かく理解出来ていない。ガヌロン、行ってきてくれ」
総大将の命令に頷くガヌロン、その目はランカストを睨んでいた……………が、口元が薄く笑っているのを、誰も気付かなかった………
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