雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

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レンヴァル村の戦い

フェルグスの覚悟

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「ぐわぁぁぁぁ!!」

背後からカラドボルグに突き刺され、レンヴァル村を襲っていたヨトゥン兵の最後の1人が絶命した。

「今ので最後だな……………これで貴殿の凰の目を見た者は、私1人になった訳だ……………」

フェルグスはカラドボルグを地面に置くと、その場に正座する。

「私も、ヨトゥン軍の1員である事に変わりはない。ここで殺さなければ、貴殿に禍を与える事になるかもしれん…………」

フェルグスは思う。

このタイミングで、かつて最強の騎士と言われたアスナの……………いや、アスナしか持っていなかった凰の目の力を受け継いだ者が、何故現れたのか……………

そして、強い……………人間の持つ力を超越している強さに、この者の託されている使命の重さを…………計り知れない重圧と戦っているのだろう……………そんな事が容易に想像出来た。

戦いの中でも人を思いやる優しさを持つこの者は、人に仇なす人物には思えない。

だからこそ、この者の歩みを止めてはいけない。

フェルグスは自分の身を犠牲にしても、凰の目を持つこの男の秘密を守ろうと思った。

「凰の目の事を………………聞かなくてもいいんですか?」

フェルグスの態度を見て、フードを被った男は驚いた表情を見せる。

「私如きの力では、貴殿の力になる事すら……………ならば、貴殿の憂いにならぬように努める事しかできん」

そんな真面目なフェルグスを見ていたフードを被った男は、頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。

「そんな…………自分の直感ですけど、フェルグスさんなら言わないでしょ?それに…………ゲッシュ………でしたっけ?お母さんをベルヘイム軍で預からせてもらえれば、絶対に大丈夫な気がしますが…………」

それを聞いたフェルグスが、こちらも少し笑いながら頷く。

「そうか……………そうだな。今のベルヘイム軍の総大将は、アルパスターだったな……………」

そう言うと、フェルグスはカラドボルグを持ち立ち上がる。

「1つだけ、聞かせてくれ。貴殿が、それ程の力を持たなければいけない理由…………勿論、凰の目の存在を隠し、バロールと戦う事も理由の1つだろう…………だが、それだけでは無い…………そんな気がするんだが?」

フェルグスは、戦いながら感じていた。

この男は、何か強い使命を持って戦っている……………それは、バロールというヨトゥン軍の将軍を倒すというだけではない。

もっと先の未来を考えながら行動している……………そんな風に感じる。

「僕自身、全てを分かってる訳ではないんです…………でも、ロキが何かを企んでいる…………それも、この世界か……………若しくは、僕たちの住んでいた世界が消失するような、そんな何かを…………」

声が小さくて、少し聞こえなかった部分もあったが、ロキの企みと世界が消失するという単語は聞き取れた。

「いや…………ロキ殿が、そんな事を考えるか?だが……………」

フェルグスは、ロキの部隊に所属している為、その人柄は良く知っている。

確かに、ロキは得体の知れない部分は感じるが、それでも人格者であり、世界を滅ぼすような人物には見えない。

それに、世界を消したところで、ロキにメリットは無いように思う。

だが……………凰の目を持ってベルヘイム軍にいる男の言葉は、とても嘘とは思えない。

しかしフェルグスの思考は、少女の大きな声で掻き消される事になる。

「お兄さん!!お兄さんだよね!!私を…………お母さんを助けてくれたの!!」

10歳ぐらいの少女が、大声で近寄って来ると、突然フードを被った男
に抱き着いた。

「ほへっ!!何言ってるの?僕じゃないよ。ほら、あっちの騎士さんが助けてくれたんじゃないかな?」

フードを被った男はフェルグスを指差しながら、必死に訴えるが、少女は見向きもしない。

「違うよ!!私、お兄さんの赤い瞳を見たんだよ!!あの綺麗な瞳……………そして、私の声に応えて、お母さんを助けてくれたでしょ?」

フードを被った男は縋るようにフェルグスを見るが、呆れた顔をしている騎士は首を横に振るだけだった。

「そうかぁ……………したら、その人はドッカ行っちゃったのかも?僕は今来た所なんだ。この村に負傷者が沢山いるって聞いてね。僕は、ベルヘイム軍で医療班に入ってるから…………」

フードを被った男は、目で必死に助けろと言っている…………フェルグスは溜息をついてから、頭を掻きながら口を開く。

「彼は、私の友人でね。今、ベルヘイム軍で指揮をとっているのも、私の幼なじみで、この村の救援要請を出した所なんだ。そしたら、彼が先行して村の状態を見に来てくれたんだ。君が見たのは、風のMyth Knightだろう……………ベルヘイム軍で売りだし中の若手騎士だよ」

「そうそう、人が怪我してる時に、ヨトゥンも人も関係ないからね…………とにかく無事で良かったよ!!君のお母さんは、怪我してないの?」

フェルグスの助け舟を借りて、直ぐに話題を換えた男は、少女の走って来た方角を見る。

「あっ!!お母さん!!ヨトゥン兵に襲われちゃって……………それに、まだ私以外の人は寝ちゃってて起きてくれないの!!」

「分かった!!急いで診に行こう!!」

男はフェルグスに一礼すると、少女と一緒に走り始めた。

(しかし、不思議な男だな…………捕らえている水のMyth Knightも、不思議な雰囲気があるが…………)

フェルグスは馬に跨がると、捕虜を連れて向かって来る自らの部隊に合流する為に走り出す。

(捕虜引き渡しの件は、少し落ち着いてからの方が良さそうだ…………しかし、ロキ殿は本当に…………真実が何処にあるのか、調べてみる必要がありそうだな…………)

フェルグスは、何かが起こる予感を感じていた………
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