73 / 222
レンヴァル村の戦い
少女の見た戦い
しおりを挟む
スリヴァルディに人質にされていた少女は、魔法をかけられたのが他の村人より早かったからか、かけられた魔法が解けて眠りから覚めた。
開いた瞳に映ったモノ………………それは、烈しい雷の中で戦う1人の男の姿……………そして、その男が剣を振る度に、少女の頬を柔らかで心地好い風が撫でていく。
あの男の人は誰だろう?
剣先から雷を発しながら戦っている騎士は知っている。
白と黄金の鎧は、何度かレンヴァル村を訪れているフェルグス様だ。
アデストリアで自らの父を裏切り、圧政に苦しめられていた人々を救った英雄。
両親から、その姿と名前は何度も聞かされている。
フェルグス様と戦っている男の人は敵なの…………………?
でも………………荒々しい雷とは違い、優しい風は私の感じている恐怖を癒してくれる。
(あの男の人は誰なの?フェルグス様のような力強さは無いのに……………何故だか安心出来る。この感覚は、何なんだろう?)
私は、自分の横で眠っている母………………他の村人の全てが眠っている異常な光景に気付かず、暫しその戦いに目を奪われていた。
ただ、その集中は長く続かない。
「おい、せっかく村人全てを眠らせたんだ。このままボーッとしてても暇だろ?女どもも寝てるんだから、一丁ヤッちまわねぇか?」
ヨトゥン兵の声に、私は自分の置かれている現状を理解した。
10歳になった私は、ヨトゥン兵の言う言葉を直感的に理解してしまう。
(何が始まるの?いや……………………怖い………………助けて…………)
私が縋るように見つめた先は、フェルグス様ではなく、フードを被った男の方だった。
しかし、その男はカラドボルグの剣先に捕獲され、私の立つ崖下の壁に向かって飛ばされている。
そんな………………私が寝ている間に、一体何があったの??
とにかく、走って逃げなきゃ……………捕まっちゃう!!
立ち上がろうとした私の視界に、倒れて寝ている母の姿が映る。
そして、その母にヨトゥン兵が近づく。
ダメだよ!!お母さんを置いて逃げれない!!なんとかしなくちゃ!!
「なっ……………………なんだって……………!!」
何?誰の声?
「スリヴァルディ様!!」
声の聞こえた方角を見たヨトゥン兵は、驚きの声を上げる。
人質にとっていた女性………………フェルグスの母を捕まえていたスリヴァルディの腕は斬り落とされ、その女性は私の前に飛んで来た。
先程のような優しい風が私の頬を再び撫で、その女性は風のクッションに包まれるように、ゆっくり地面に降りる。
先程、崖にぶつかりそうだった男が、スリヴァルディの正面に立っていた。
「おい、スリヴァルディ様は不死身だ。別に大丈夫だろ。コッチはコッチで楽しもうぜ!!」
私の目の前で母の服は切り裂かれ、生まれたままの姿にされた身体をヨトゥン兵が蹂躙し始める。
いや………………気持ち悪い……………嫌だよ………………
バババババババァ!!
私の耳に地鳴りのような……………耳をつんざくような爆音が響き渡る。
「フェルグス!!裏切りやがったか!!所詮、人間か!!」
多くのヨトゥン兵が雷で撃たれたのか……………
黒焦げになったヨトゥン兵が、村人の集団の外側に倒れている。
え?なんで……………お母さんを離してよ!!
仲間が黒焦げにされる中、そのヨトゥン兵は裸の母を抱えている。
中央にいるヨトゥン兵は、フェルグス様の雷じゃ倒せないんだ!!
私達まで、巻き添えになっちゃう!!
「村人を盾にしてりゃ、奴は攻撃出来ねぇだろ!!何人か、お持ち帰りしちまおうぜ!!」
お願い…………………お母さんを助けて!!
涙が溜まったその瞳で、フードを被った男に懇願するように私は見つめた。
綺麗………………なんて綺麗な瞳なんだろう………………
オレンジ??ううん、神秘的な薄く紅いその瞳と視線が合った私は、心臓を鷲掴みにされたみたい。
軽く頷いてくれたの??
私の眼には、そう映った。
ただ……………その一瞬が隙となり、スリヴァルディを捕らえていた剣撃が止められてしまう。
「ふぅ……………少しヒヤヒヤさせられましたが、もう貴方の間合いには入りませんよ……………それより、凰の目……………バロールに、カラドボルグより良い手土産が出来ました!!」
凰の目??
それが、あの瞳の名前なのかな??
けど、私のせいでスリヴァルディを逃がしちゃった……………
え??瞳の色が変化した………………もっと綺麗に………………それに、炎の翼……………あの人は天使なの??
でも、私の方は見てくれない……………やっぱり、私のお母さんを助けるより、スリヴァルディを倒すのが優先だよね……………
そんな風に思う私の髪を、力強い風が通り過ぎる。
ザシュ!!
お母さんを捕まえていたヨトゥン兵が、胴体を斬り裂かれて倒れた。
女の人を襲っていたヨトゥン兵が、私の目の前で次々と倒れていく。
神風………………なの?
凄い……………あの人は、きっと神様が遣わしてくれた天使様なんだ…………
だって…………ヨトゥン軍の隊長に、人間が1人で戦って勝てる訳ないもん!!
けど、それだけじゃない!!私達を救う風まで届けてくれるんだから!!
私は、その力強くも優しさを感じる風に想いを馳せた。
開いた瞳に映ったモノ………………それは、烈しい雷の中で戦う1人の男の姿……………そして、その男が剣を振る度に、少女の頬を柔らかで心地好い風が撫でていく。
あの男の人は誰だろう?
剣先から雷を発しながら戦っている騎士は知っている。
白と黄金の鎧は、何度かレンヴァル村を訪れているフェルグス様だ。
アデストリアで自らの父を裏切り、圧政に苦しめられていた人々を救った英雄。
両親から、その姿と名前は何度も聞かされている。
フェルグス様と戦っている男の人は敵なの…………………?
でも………………荒々しい雷とは違い、優しい風は私の感じている恐怖を癒してくれる。
(あの男の人は誰なの?フェルグス様のような力強さは無いのに……………何故だか安心出来る。この感覚は、何なんだろう?)
私は、自分の横で眠っている母………………他の村人の全てが眠っている異常な光景に気付かず、暫しその戦いに目を奪われていた。
ただ、その集中は長く続かない。
「おい、せっかく村人全てを眠らせたんだ。このままボーッとしてても暇だろ?女どもも寝てるんだから、一丁ヤッちまわねぇか?」
ヨトゥン兵の声に、私は自分の置かれている現状を理解した。
10歳になった私は、ヨトゥン兵の言う言葉を直感的に理解してしまう。
(何が始まるの?いや……………………怖い………………助けて…………)
私が縋るように見つめた先は、フェルグス様ではなく、フードを被った男の方だった。
しかし、その男はカラドボルグの剣先に捕獲され、私の立つ崖下の壁に向かって飛ばされている。
そんな………………私が寝ている間に、一体何があったの??
とにかく、走って逃げなきゃ……………捕まっちゃう!!
立ち上がろうとした私の視界に、倒れて寝ている母の姿が映る。
そして、その母にヨトゥン兵が近づく。
ダメだよ!!お母さんを置いて逃げれない!!なんとかしなくちゃ!!
「なっ……………………なんだって……………!!」
何?誰の声?
「スリヴァルディ様!!」
声の聞こえた方角を見たヨトゥン兵は、驚きの声を上げる。
人質にとっていた女性………………フェルグスの母を捕まえていたスリヴァルディの腕は斬り落とされ、その女性は私の前に飛んで来た。
先程のような優しい風が私の頬を再び撫で、その女性は風のクッションに包まれるように、ゆっくり地面に降りる。
先程、崖にぶつかりそうだった男が、スリヴァルディの正面に立っていた。
「おい、スリヴァルディ様は不死身だ。別に大丈夫だろ。コッチはコッチで楽しもうぜ!!」
私の目の前で母の服は切り裂かれ、生まれたままの姿にされた身体をヨトゥン兵が蹂躙し始める。
いや………………気持ち悪い……………嫌だよ………………
バババババババァ!!
私の耳に地鳴りのような……………耳をつんざくような爆音が響き渡る。
「フェルグス!!裏切りやがったか!!所詮、人間か!!」
多くのヨトゥン兵が雷で撃たれたのか……………
黒焦げになったヨトゥン兵が、村人の集団の外側に倒れている。
え?なんで……………お母さんを離してよ!!
仲間が黒焦げにされる中、そのヨトゥン兵は裸の母を抱えている。
中央にいるヨトゥン兵は、フェルグス様の雷じゃ倒せないんだ!!
私達まで、巻き添えになっちゃう!!
「村人を盾にしてりゃ、奴は攻撃出来ねぇだろ!!何人か、お持ち帰りしちまおうぜ!!」
お願い…………………お母さんを助けて!!
涙が溜まったその瞳で、フードを被った男に懇願するように私は見つめた。
綺麗………………なんて綺麗な瞳なんだろう………………
オレンジ??ううん、神秘的な薄く紅いその瞳と視線が合った私は、心臓を鷲掴みにされたみたい。
軽く頷いてくれたの??
私の眼には、そう映った。
ただ……………その一瞬が隙となり、スリヴァルディを捕らえていた剣撃が止められてしまう。
「ふぅ……………少しヒヤヒヤさせられましたが、もう貴方の間合いには入りませんよ……………それより、凰の目……………バロールに、カラドボルグより良い手土産が出来ました!!」
凰の目??
それが、あの瞳の名前なのかな??
けど、私のせいでスリヴァルディを逃がしちゃった……………
え??瞳の色が変化した………………もっと綺麗に………………それに、炎の翼……………あの人は天使なの??
でも、私の方は見てくれない……………やっぱり、私のお母さんを助けるより、スリヴァルディを倒すのが優先だよね……………
そんな風に思う私の髪を、力強い風が通り過ぎる。
ザシュ!!
お母さんを捕まえていたヨトゥン兵が、胴体を斬り裂かれて倒れた。
女の人を襲っていたヨトゥン兵が、私の目の前で次々と倒れていく。
神風………………なの?
凄い……………あの人は、きっと神様が遣わしてくれた天使様なんだ…………
だって…………ヨトゥン軍の隊長に、人間が1人で戦って勝てる訳ないもん!!
けど、それだけじゃない!!私達を救う風まで届けてくれるんだから!!
私は、その力強くも優しさを感じる風に想いを馳せた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
よろしくお願いいたします。
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす
Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二
その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。
侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。
裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。
そこで先天性スキル、糸を手に入れた。
だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。
「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」
少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です
楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。
さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!?
人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに…
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる