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恐怖の炎とムスペルの騎士
ユングヴィ王子の気遣い
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航太達が幕舎に着くと、スリヴァルディの軍を撃破したアルパスター、ユングヴィ王子の軍も戻ってきた所だった。
(みんな無事だったか………………良かった……………)
航太はアルパスター達の無事な姿を見て、胸を撫で下ろした。
知っている人間がいなくなる辛さを、2度と味わいたくない…………………航太は心からそう思う。
「航太もミーちゃんも無事でしゅね~~良かったでしゅ~~」
突如現れた白い物体…………ガーゴが勢いよく、疲労感丸出しの絵美の胸に飛び込んできた。
「ガーゴも無事ね♪♪良かった♪♪でもでもー、疲れてるからキャッチアーーーンドリリーーースぅ♪」
戦闘の邪魔になるガーゴはガイエン軍と遭遇した時、伝令と一緒に幕舎に戻っていた。
(ガーゴも心配してくれてたんだな…………まぁ、絵美の魂の情報が入ってんだから、何かあったら分かる気もするが…………って、うおっ!!)
疲労からか、ボーッとしながら絵美達を見ていた航太は、速攻でリリースされたガーゴに気付かなかった。
目の前に突然現れた白い物体に、思わず心の中で驚きの声を上げた航太は恥ずかしさもあり、その物体の羽の部分を掴んで地面に叩きつける。
「な………………………何故にこんな扱いを………………でしゅ」
「あ…………………死んだ」
地面に叩きつけられたガーゴの力尽きたフリを見て、航太は心配する訳でもなく、呆れた顔で見下ろす。
「ガーゴはいつも面白いね♪でも、今日は疲れてるから、相手はできないよん♪」
「…………………ガーゴは、面白くしようとしてる訳では無くてでしゅね……………ただミーちゃんの胸に飛び込んだら、全自動で地面に寝かされただけなんでしゅけど~」
そんなガーゴの姿に、久しぶりに航太は笑ってしまった。
「ランカストの部隊は全滅に近いと聞いたが、航太も絵美も無事だな。とりあえずは、お疲れさん。しかし、スルトの炎…………やはり桁違い、という事か…………」
アルパスターの軍の中から、黄金の鎧を纏った男………ユングヴィ王子が近寄って来て、航太達の無事を確認する。
「あ…………王子、恐縮です。自分なんかに声をかけて頂いて………」
緊張しまくる航太の姿に、絵美は後ろを向いて肩を振るわせており、隠れて笑っているつもりだろうが、笑い声が完全に漏れていた。
その足元では、復活したガーゴが腹を抱えて笑い転げている。
(あのやろー!!ってか、ガーゴまで………なんて屈辱だ!!)
「君達は、やはり不思議な雰囲気を持っているな…………私の目の前であんなに笑い転げる人はいないよ。だが、こんな時代だ………ああして笑える事も大切だと思わないか?」
「いや、王子の目の前で失礼しました。あいつら、少し頭のネジがブッ飛んでるんで…………」
絵美とガーゴを睨みながら言う航太を見て、ユングヴィ王子は微笑むとその肩を叩く。
「そう言う君も、王子を目の前にしている言葉使いだとは思えないぞ」
ユングヴィ王子の優しい言い方は全く棘が無く、航太は王族に対する考え方を改めなくては………と素直に思う。
「ははは……………スイマセン」
「いいんだよ。いつまでも、その感じを忘れないでくれ。戦争は心を蝕んでいく。だからこそ、気を緩ませる時間は必要だ。特に君達は、戦争に免疫が無さそうだしな」
(王子……………俺達の為に、気を遣って話かけてくれたのか……………嫌な奴もいれば、いい人もいる。この人の為なら戦える…………そんな気がするな………)
自らの部隊に戻っていくユングヴィ王子の後ろ姿に、思わずお辞儀をしてしまう。
「航ちゃん………王子、感じのいい人だね。私達の気持ち、全部分かってるみたい」
「そうだな…………この戦いの中、自分の大切な人を失いたくないって思って戦ってきたけど……………今日、炎で焼かれた人………全ての人に大切な人はきっといて…………大勢の大切な人が、今日失われたんだな…………」
唇を噛む航太を横目に、絵美も辛くなった。
「王子の事も、今の今までよく知らなかったもんね………今、王子がいなくなるのと、昨日いなくなるのでは、全然違うよね…………今日、焼かれちゃった人達の中にも、私達の大切な人になるかもしれない人がいたかもしれないのに………」
絵美の瞳から、悲しみの雫が一粒地面に落ちた。
戦いが終わった安心感、大勢の人が目の前で沢山亡くなった悲しみ…………色々な感情が絵美の心に押し寄せてくる。
「ミーちゃん、考えてても仕方ないでしゅよ~。ガーゴの羽で涙を拭くでしゅよ~。ほれほれーでしゅ~」
汚れている羽で拭かれる絵美の目の周りは、みるみるパンダ化していき、その姿に航太はたまらずに吹き出した。
「ちょっと航ちゃん!!笑ってないで助けてよ!!ガーゴ、洗ってない身体で人を拭かないの!!も~~」
泣きながら笑う絵美の顔は、まるで目の前に天使が現れたかのように航太の胸を掴んだ。
そんな情緒不安定気味の2人の耳に、アルパスターの声が響いてきた。
「みんな連戦で疲れていると思うが、各将は集まってくれ!!今回の戦闘の状況報告を頼む!!」
ゲンナリした航太の顔を確認した絵美は、パンダ化した目を見開く。
「まさかとは思うけど……………私達も参加するワケ…………?」
航太は何も言えずに、ただ頷く。
「もーー!!超過勤務スギだよー!!航ちゃんだけ行ってきてー」
「そーゆー訳にいかねーの!!ここ軍隊だぞ!!そして、オレもキミも武将扱い……………よって、参加決定…………」
航太が、ガクっと首を落とす。
「気合いを入れるでしゅ~~!!武将??は~~~~ん、笑わせるでしゅね~~~」
ガーゴが航太の頭に飛び乗り、ベシベシ頭を叩く。
「わーったよ!!絵美、行くぞ!!」
「はーい♪♪」
「ばちにゃん!!」
航太は頭からガーゴを引っぱがし芝生に叩きつけると、開き直った絵美を連れてアルパスターのいるテントに入った。
(みんな無事だったか………………良かった……………)
航太はアルパスター達の無事な姿を見て、胸を撫で下ろした。
知っている人間がいなくなる辛さを、2度と味わいたくない…………………航太は心からそう思う。
「航太もミーちゃんも無事でしゅね~~良かったでしゅ~~」
突如現れた白い物体…………ガーゴが勢いよく、疲労感丸出しの絵美の胸に飛び込んできた。
「ガーゴも無事ね♪♪良かった♪♪でもでもー、疲れてるからキャッチアーーーンドリリーーースぅ♪」
戦闘の邪魔になるガーゴはガイエン軍と遭遇した時、伝令と一緒に幕舎に戻っていた。
(ガーゴも心配してくれてたんだな…………まぁ、絵美の魂の情報が入ってんだから、何かあったら分かる気もするが…………って、うおっ!!)
疲労からか、ボーッとしながら絵美達を見ていた航太は、速攻でリリースされたガーゴに気付かなかった。
目の前に突然現れた白い物体に、思わず心の中で驚きの声を上げた航太は恥ずかしさもあり、その物体の羽の部分を掴んで地面に叩きつける。
「な………………………何故にこんな扱いを………………でしゅ」
「あ…………………死んだ」
地面に叩きつけられたガーゴの力尽きたフリを見て、航太は心配する訳でもなく、呆れた顔で見下ろす。
「ガーゴはいつも面白いね♪でも、今日は疲れてるから、相手はできないよん♪」
「…………………ガーゴは、面白くしようとしてる訳では無くてでしゅね……………ただミーちゃんの胸に飛び込んだら、全自動で地面に寝かされただけなんでしゅけど~」
そんなガーゴの姿に、久しぶりに航太は笑ってしまった。
「ランカストの部隊は全滅に近いと聞いたが、航太も絵美も無事だな。とりあえずは、お疲れさん。しかし、スルトの炎…………やはり桁違い、という事か…………」
アルパスターの軍の中から、黄金の鎧を纏った男………ユングヴィ王子が近寄って来て、航太達の無事を確認する。
「あ…………王子、恐縮です。自分なんかに声をかけて頂いて………」
緊張しまくる航太の姿に、絵美は後ろを向いて肩を振るわせており、隠れて笑っているつもりだろうが、笑い声が完全に漏れていた。
その足元では、復活したガーゴが腹を抱えて笑い転げている。
(あのやろー!!ってか、ガーゴまで………なんて屈辱だ!!)
「君達は、やはり不思議な雰囲気を持っているな…………私の目の前であんなに笑い転げる人はいないよ。だが、こんな時代だ………ああして笑える事も大切だと思わないか?」
「いや、王子の目の前で失礼しました。あいつら、少し頭のネジがブッ飛んでるんで…………」
絵美とガーゴを睨みながら言う航太を見て、ユングヴィ王子は微笑むとその肩を叩く。
「そう言う君も、王子を目の前にしている言葉使いだとは思えないぞ」
ユングヴィ王子の優しい言い方は全く棘が無く、航太は王族に対する考え方を改めなくては………と素直に思う。
「ははは……………スイマセン」
「いいんだよ。いつまでも、その感じを忘れないでくれ。戦争は心を蝕んでいく。だからこそ、気を緩ませる時間は必要だ。特に君達は、戦争に免疫が無さそうだしな」
(王子……………俺達の為に、気を遣って話かけてくれたのか……………嫌な奴もいれば、いい人もいる。この人の為なら戦える…………そんな気がするな………)
自らの部隊に戻っていくユングヴィ王子の後ろ姿に、思わずお辞儀をしてしまう。
「航ちゃん………王子、感じのいい人だね。私達の気持ち、全部分かってるみたい」
「そうだな…………この戦いの中、自分の大切な人を失いたくないって思って戦ってきたけど……………今日、炎で焼かれた人………全ての人に大切な人はきっといて…………大勢の大切な人が、今日失われたんだな…………」
唇を噛む航太を横目に、絵美も辛くなった。
「王子の事も、今の今までよく知らなかったもんね………今、王子がいなくなるのと、昨日いなくなるのでは、全然違うよね…………今日、焼かれちゃった人達の中にも、私達の大切な人になるかもしれない人がいたかもしれないのに………」
絵美の瞳から、悲しみの雫が一粒地面に落ちた。
戦いが終わった安心感、大勢の人が目の前で沢山亡くなった悲しみ…………色々な感情が絵美の心に押し寄せてくる。
「ミーちゃん、考えてても仕方ないでしゅよ~。ガーゴの羽で涙を拭くでしゅよ~。ほれほれーでしゅ~」
汚れている羽で拭かれる絵美の目の周りは、みるみるパンダ化していき、その姿に航太はたまらずに吹き出した。
「ちょっと航ちゃん!!笑ってないで助けてよ!!ガーゴ、洗ってない身体で人を拭かないの!!も~~」
泣きながら笑う絵美の顔は、まるで目の前に天使が現れたかのように航太の胸を掴んだ。
そんな情緒不安定気味の2人の耳に、アルパスターの声が響いてきた。
「みんな連戦で疲れていると思うが、各将は集まってくれ!!今回の戦闘の状況報告を頼む!!」
ゲンナリした航太の顔を確認した絵美は、パンダ化した目を見開く。
「まさかとは思うけど……………私達も参加するワケ…………?」
航太は何も言えずに、ただ頷く。
「もーー!!超過勤務スギだよー!!航ちゃんだけ行ってきてー」
「そーゆー訳にいかねーの!!ここ軍隊だぞ!!そして、オレもキミも武将扱い……………よって、参加決定…………」
航太が、ガクっと首を落とす。
「気合いを入れるでしゅ~~!!武将??は~~~~ん、笑わせるでしゅね~~~」
ガーゴが航太の頭に飛び乗り、ベシベシ頭を叩く。
「わーったよ!!絵美、行くぞ!!」
「はーい♪♪」
「ばちにゃん!!」
航太は頭からガーゴを引っぱがし芝生に叩きつけると、開き直った絵美を連れてアルパスターのいるテントに入った。
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