雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

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漆黒の騎士と水の神剣士

智美……孤独の戦い

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智美の意識が戻ったのは、ゼークと逸れて少し経った時だった。

(ゼークは!!大丈夫なの??)

近くにゼークがいない事に気付き、辺りを見回す。

すぐにゼークを探したのは、足が痛まなかったからではない。

両足は少し動かすと激痛が走り、とても一人で動ける状態ではなかった。

しかし、朦朧とする意識の中でも、自分を守りながら戦うゼークの姿を覚えていた。

だから、ゼークの身が心配でジッとはしておれず、痛む足を引きずりながらゼークを探す。

回復すれば青白い光が発生してしまい、敵に気付かれてしまう………そんな思いが智美の頭を過ぎる。

そんな思いと裏腹に、動けばヨトゥン兵に気付かれる確率は高くなる事など、最近まで女子大生だった智美に分かる訳もない。

「あいつ!!死んでないぞ!!」

案の定、1人のヨトゥン兵が気付き、声を上げる。

(まずはこの状況を打開しなきゃ!!ずっと護ってもらいっぱなしの命なんだから、必ず生き延びて………そして、今度は私がゼークを救う!!)

智美は戦う覚悟を決めると【天叢雲剣】を傷ついた足に当てる。

すると、【天叢雲剣】が青く輝き、みるみる傷が回復していく。

剣に認められた者は、その効果を最大限に得られる。

更には、ゼークを探して感謝の言葉を伝えるまでは死ねない……という想いが、その力を増大しているようにも見えた。

他人の回復より数倍の回復効果で、ヨトゥン兵が集まって来た頃には、痛みがなく動けるまでに回復した。

数週間前まで、ただの大学生だった智美は、先程は両足を斬られた出血で意識を失った。

当たり前と言えば、当たり前だ。

しかし今は、ゼークを心配する想い………感謝の気持ちが体全体を支配し、日常生活をしている限り味わう事のない激痛に堪え、冷静に回復をした。

そして、ヨトゥン兵の攻撃に備える。

智美はこの1週間、ゼークやアルパスターといった強者と訓練を重ねてきた。

更に、変則の剣舞は見切るのが難しく【天叢雲剣・草薙剣】は相手の鎧を貫通してダメージを与える。

舞うように敵を切り裂き、捜索範囲を広げていく智美。

スリヴァルディには簡単に斬られたが、一兵卒に簡単にやられる智美ではない!!

ヨトゥン兵を倒しながら、血路を開いていく。

戦いながらもゼークを探している智美の目に、崖の上に立つ漆黒の鎧を装備した、黒髪の美青年が目に入った。

(あれは……人??でも、なんて神々しい感じがするんだろう……)

智美は思わず、戦場という事を忘れて見とれてしまっていた………

漆黒の騎士は、隣にいる剣士と共に、智美の持つ2振りの剣に興味があつた。

「ビューレイスト、あの剣………どう見る」

「はい。水系最強の槍【トライデント】の劣化版のような能力ですね………見たことの無い形状ですが………」

ビューレイストと呼ばれた剣士は、更に智美の剣を見ようと少し身を乗り出した。

「そうだな。あの女騎士……… Myth Knightとしての力も弱そうだ。単に最近Myth Knightになって、力の使い方が分からないだけかもしれんが………」

漆黒の鎧に包まれた美青年………ロキは、腕組みをしながら考え始める。

ロキ……… 遥か昔、バルドル殺しの罪で牢に繋がれていた、あのロキである。

「ロキ様の脅威になりそうな力は無いように感じますが………騎士としての実力も、フィアナ騎士どころか、どこぞの国の近衛騎士の足元にも及ばないレベルかと……」

「そうだな………だが、失われた【トライデント】に類似する力………放っておく訳にもいくまい。【トライデント】と共に失われた【 Sword of Victory】 の行方に繋がるかも知れんしな………」

ビューレイストは頷くと、自らの剣に手をやる。

「では、捕らえて話を聞いてみましょう。バロール討伐の脅威になるような人間が、アルパスター陣営にいるか聞き出せるかも知れませんので」

「そうだな………では、頼む」

ロキはそう言うと、合図を送り智美の周りのヨトゥン兵を引かせる。

戦っていた智美は、急にヨトゥン兵が引いていき、何が何だか分からず漆黒の鎧の青年………ロキを見上げていた………

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