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旅立ちの夜
学校での一幕
しおりを挟む「あち~~~!なんでこんな暑いんだ!!!…………夏だからか……」
意味不明な一人ツッコミを決めたこの男【鷹津 航太】は長野県にある北信大学の3年である。
航太は夏休み前の最後のゼミを終え、サークル活動している教室に向かっていた。
「だいたい、なんでサークル室が校舎の別棟になってんだ!!外歩くから暑いんだ!!」
ブツブツいいながらもサークルを行っている教室にたどり着き、おもむろにドアを開ける。
教室からは、クーラーの涼しい風に混じってシャンプーの爽やかな匂いが流れ出た。
「航ちゃん、何独り言いいながら歩いてんの!!教室の中まで聞こえてたょ♪ぷぷっ」
教室に入るなり笑い声をあげているのは、同じく北信大学の3年である【神藤 絵美】
彼女は航太の幼なじみで、絵美の向かいに座っている【神藤 智美】と双子である。
絵美はロングの髪を揺らし、アヒルのヌイグルミを抱きながらケラケラ笑っている。
「航ちゃんがバカなのはいつもの事でしょ。それより夏休みの計画たてようよ」
顔は絵美とそっくりだが、ショートで知的な智美が、収拾がつかなくなる前に話をまともな方向に切り替えた。
今年の夏休みは、航太と一つ年下の義理の弟【鷹津 一真】と絵美・智美の4人で旅行に出かける予定なのだ。
「智美クン……相変わらずサラっとキツい事言うねぇ……とりあえず湘南の海!!で、東京ブラつくでよくね!!」
航太はおおざっぱなな計画を言いながら、椅子に座る。
絵美も「私も同意」とばかりに頷く。
「私、ディズニーにも行きたーい♪」
と言いながら、絵美は立ち上がり、抱いているアヒルのヌイグルミ【ガーゴ】の手を動かし始めた。
「ガーゴもネズミの楽園でハシャぐんでしゅよ~~。海の楽園も行くでしゅ~~」
絵美はガーゴが喋っているように声色を変えながら、ガーゴの手で智美の頬をペチペチ叩く。
目を瞑りながら、されるがままガーゴの攻撃を受け続ける智美は、「はぁ…」と深い溜息をつき、そのままの状態で口を開く。
「今回の旅行は一真の願いを叶えるための旅行だよ。まずは湘南の海で試してみないと……」
真剣な智美の言葉に絵美はガーゴを動かす事を止めると、そのアヒルのヌイグルミを大事そうに抱きしめながら椅子に座った。
航太も真面目な表情になり、太陽の光が降り注いでくる窓辺に視線を移す。
「まぁ……一真の願いが叶って欲しいけど、叶っちまったらどうなるのかな??オレ達??」
一真の願いとは、この世界に存在していると言われている、北欧神話の舞台のようなもう一つの世界に行く事である。
こんな突飛な願いを、大学生の航太達が叶えようとしているのには理由がある。
一つ目は、一真の父親が航太や神藤姉妹が子供の頃にリアルな神話の話を聞かせていた。
そして、一真の先祖はその神話の世界から来たと真剣に話をしていた事……
二つ目は、一真の両親が交通事故で亡くなった時遺品として残された二振りの剣の存在……
【エアの剣】と【グラム】と呼ばれる二振りの剣は、この世のものとは思えない神々しさがあった。
そして神藤神社に伝わる【天沼矛】【草薙の剣】【天叢雲剣】の存在……
これらの神剣を使えば、神話の世界の扉が開くという一真の父の遺言……
4人は子供の頃にそんな話を聞いていた為、自然と北欧神話や神話の話に興味を持った。
しかし子供の頃には本気で信じていた話も、大学生にもなれば半信半疑になる。
それでも一真だけは今でも本気で信じているし、航太達も興味はある為、「やるだけやってみよう」と言う話になったのだ。
そして「先祖の生きた世界を見てみたい」という一真の言葉も3人の背中を押している。
一真は若くして両親を亡くし、航太の両親に引きとられた。
普段から遠慮がちで、航太の両親に迷惑をかけまいと、学費の安い国立の看護学校に通っている。
そんな一真の唯一の願いを、航太も神藤姉妹も叶えてあげたいと思う気持ちが強くある。
「確かに、向こうの世界ってどんなトコかなぁ~~♪ちょっと楽しみだったりして♪」
絵美が変わらず、ガーゴを振り回しながら明るい声で話す。
「そう言えば、一真は今日何時に終わるんだっけ?学校終わったら、すぐに行くんでしょ?」
智美が荷物をチェックしながら、時間を気にする。
「夏休み前は必ず大掃除するらしいから、2時ぐらいかな?看護学校って義務教育時代みたいだよなー」
航太も荷物を確認しながら、長細いバッグに目をやった。
「とりあえず車に乗り込んじまうか!荷物バレたらオレら銃刀法違反で御用だぜ!!」
「そだねん♪買い出ししてからカズくん迎えに行けば時間ピッタリじゃない??向こうでカップラーメンとか食べれるかなぁ~~♪♪」
絵美は鼻歌交じりに買い物リストを作成している。
「ま、東京見物メインの旅になるだろーから、向こうの世界用の買い出しはホドホドにな!じゃー行くか!!」
3人は荷物を持って教室を後にした。
教室の外に出ると、熱気が体に纏わり付くような感じがする。
航太は半信半疑な気持ちと、一真の願いが叶えばいいと思う気持ちが重なり合い、変な感情を抱いていた
(考えてても仕方ないか……)
3人は航太の運転する車に乗り込み、一真の迎えに向かった……
この時3人は、神話の世界の扉を開く事など本気で考えてはいなかった……
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