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エピローグ
エピローグ2
しおりを挟む「エルフフォーシュ、来たね。時間通り……」
空を見ながらフードを外す女性……ヘルは、廃墟の中にあって唯一原型を留めている塔の中の窓際に立っていた。
空に描かれる7色のオーロラ……そこから、7色に輝く光の道が塔の中に流れ込む。
「私にとっては数時間前に会ってたけど、あなたにとっては数十年前の出来事ね……覚えていてくれて、嬉しいわ」
7色の光が消え、その場に女性の姿が形作られていく。
「予想以上に酷い状況ね……表の世界は、ここまで荒廃してしまったのね……」
「そこまで悲しむ必要も無いでしょ? 裏の世界は、まだ戦場になっていない。ゲーゲン・アングリフの部隊も健在、ブロカーデ・アオフシュタントは壊滅状態……そしてアエロリソス・ストラトスは、ほぼ無傷で上空にある。まだ、拮抗状態だわ」
外の様子を見て哀しみの表情を浮かべるエルフフォーシュに、ヘルはつまらなそうに声をかけた。
7色に輝く7本の尻尾に、狐の耳をチョコンと生やすエルフフォーシュは、神秘的な女性だ……その正体は、ワルキューレ達を束ねる神である。
そして、ヘル……彼女は、ヘルヘイムを支配するヨトゥンであった。
神々の黄昏と呼ばれるラグナロクによって、そのヘルヘイムも破壊されている。
その後、表の世界と呼ばれている大地……つまり、我々の住んでいる世界へと流れ着いていた。
その容姿は、何千年も生きているとは思えない程に若々しく、ツインテールにしている水色の綺麗な髪は腰まで伸びている。
そして、彼女の住んでいる無傷の塔……それは彼女が、表の世界に来た時に建造させた物であり、アエロリソス・ストラトスとの通信の用途も兼ねていた。
アエロリソス・ストラトスと呼ばれている宇宙から襲撃してきている軍隊は、その先兵として神々達にヨトゥンの種を植付けていた……そして、ヨトゥンの生き残りがヘルである。
「ブロカーデ・アオフシュタントは、表の世界の軍隊でしょ? そして、裏の世界の軍隊であるゲーゲン・アングリフとの戦闘……人間同士の戦闘なのに、よく塔が破壊されないわね」
「私は、この塔のデータベースにある情報……力を無限に操る事が出来る。私がこの塔にいる間は、何人たりとも傷つける事は出来ない。それに、この塔にあるデータが欲しくて、貴方はここまで来たのでしょう?」
不敵に笑うヘルを見て、エルフフォーシュは大きく息を吐く。
「お見通し……と言うか、過去のヘルと私は会って来てるから当然か……神や神器……それに、人間のデータをアエロリソス・ストラトスに送る事が、貴女の役目だものね。その為のデータが、ここにはある」
「そう……死者の魂をデータ化し、我々の創造主に送る……そして、我々の創造主は敵対する銀河の敵を滅ぼした。後は、この星を滅ぼせば終わる。でも、恐れていた事態が起きた。神器と科学の融合……この星の人々が、それに気付く前に滅ぼしたかった……」
塔の壁に寄り掛かったヘルは、廃墟と化した町並みに目を向ける。
「科学を利用した兵器開発は、頭打ちになっていた。宇宙での戦いは拮抗状態で、消耗戦が続けられていた。そこで目を付けた兵器が神器……ただし、その精製には命が必要になる。だから、この星を生産工場とした。でも、この星の人々は作り出した。神装機を……」
「人型ロボットに神器を搭載し、その力を得る……無限の推進力に、魔法のような力……科学とファンタジーが融合した兵器……か。それでも、この有様じゃあ……ね」
エルフフォーシュも、窓の外に目を向ける。
互角に戦闘を行っているとは思えない……焼き野原の様な風景……
「ロキが考えた世界……流石としか言いようがないわ。優秀な技術者だけを裏の世界に連れていき、神装機を作った。そして、表の世界の兵器と戦わせる事で完成度を高めて、順調に仕上げている。裏の世界に行く方法が分からないアエロリソス・ストラトスは、宙で見守るしかない。自分達の兵器と互角になりつつある兵器を、歯痒い思いで見ながらね……」
退屈そうな瞳を外へ向けるヘルは、小競り合いが起きている建物に目を向けた。
「エルフフォーシュ、見てて。あそこで戦っている水の神装機……表の世界の機体と戦っているけど、アエロリソス・ストラトスの機体が来ると……」
宙から赤い機体が飛んで来た瞬間、強い風が吹く。
神風……その風の勢いで目を逸らした一瞬で、水の神装機の姿が消える。
戦う相手がいなくなった赤い機体は、何もせずに宙に戻って行く。
「あの風の正体も、何も分からない。ただ……この世界が退屈なのは間違いないわ。私は、この塔でデータを送り続けるだけ。それも、不用と言われるモノばかりを……」
「過去の貴女が言っていたわ。ロキの野望が成されたら、退屈な世界が来るってね。そして、私達も……こんな未来の為に、今を戦っているんじゃない。最終的にアエロリソス・ストラトスに勝利する為とはいっても、地球の……同じ星の人類で争う未来なんて……異星人が攻めて来てるっていうのに……」
ヘルは軽く微笑むと、データボックスに手を伸ばす。
「そんな話もしたな。しかし、あの時は確信までは至らなかった。だから、未来まで御足労頂いた訳だが……バルドルを生き返らせれば、世界を換えられると……本気で思っているのか?」
「ええ……ロキを抑えられるのは、バルドル様だけ。今より良い未来に換えられるかは分からないけど……それでも、バルドル様なら……」
エルフフォーシュは、一度だけバルドルと共に戦った事がある。
ワルキューレの部隊を指揮していたエルフフォーシュは、ヨトゥンの軍団に囲まれていた。
そこに現れたのが、バルドルである。
本来であれば、バルドルを守る事がエルフフォーシュやワルキューレ達の仕事であった。
だが、救われた……ヨトゥン達を斬り伏せながら、最短距離を駆け抜け、囲みを突破する事に成功する。
その時、バルドルは笑いながら言った……ワルキューレもヨトゥンも、失う命は少ない方が良いと……争わなくていい理由を考えようって……
そんなバルドルだからこそ託せる……いや、託したい。
「ロキを倒すなら、サタンの側近であるウートガルザ・ロキを使うのが良いのでしょう? ロキの魂を割ったと、過去の貴女に聞きました」
「そうね。ロキをヨトゥンに服従させる為に、ロキと同じ力を持つ存在……魂の情報を共有するウートガルザ・ロキを作った。でも、この世界ではサタンもウートガルザ・ロキも、ロキに倒されている。ロキの魂を使ったウートガルザ・ロキも不死身……それを滅ぼしたという事は、ミステルテインの力を得たという事……」
ミステルテインをヴァン神族の力で使う……この世界のロキは、それを成した事になる。
「バルドル様が生きていれば、ロキがミステルテインを得る前に倒せる! それだけでも、未来は換るわ」
「そう……だと、いいわね。でも、生き返るバルドルは人間の赤ん坊よ。その身体に、バルドルのデータを流し込む。身体の方が耐えられるかしら?」
頷いたエルフフォーシュは、粘土の様な塊の物体を愛おしい瞳で見つめた。
「大丈夫……対策は練っているわ。コールドスリープと赤き瞳……それと愛情……私が命を掛けて、成長を見守るわ」
「じゃあエルフフォーシュ、分かっているとは思うけど、バルドルを生き返らせるには神の命が必要よ。その剣……ジュワユーズの中で生きる神の命を1つ……未来と過去を行き来出来る力を頂くわ」
ヘルはデータボックスに伸ばしている手と逆の手で、ジュワユーズを握る。
データボックスとジュワユーズが輝き、その光がヘルの元へと集まっていく。
その光を、胸の前に移動させた手の平に集める。
集めた光を粘土のような塊に注ぎ込むと、それは人間の形に変化していき、鼓動を打ち始めた。
「ありがとう、ヘル。これで、希望が生まれた。次に会う時は、きっと敵同士ね」
「次に会うまで、貴女が生きていれば……な。この塔のデータベースの力で、過去に送り届けてやる。私をガッカリさせるなよ」
バルドルを抱えたエルフフォーシュは、笑顔で頷く。
「何故、笑える? 神器の力無しで時空を超えるのだぞ? しかも、バルドルの身体を守りながらだ……かなり寿命が縮まる……命を削らなければ、元の世界に戻れないんだぞ?」
「あら、心配してくれるのね。大丈夫……私の命なんて……バルドル様がいれば、もっと多くの命が救われる。きっと、世界は換わるわ……」
エルフフォーシュは、笑顔で光の中に消えた。
「さて……この灰色の世界が、どう換わるのか……いや、どう換わっても、神装機が創られなければ世界は終わる。不死身のロキがいなければ、神器の無限生産は出来ない……結局は、アエロリソス・ストラトスが地球を征服する未来は変わらないか……」
ヘルは再び1人となり、暗い塔の中へ消えていく。
そして、物語は始まる。
未来を知る者と、未来を夢見て必死に生きる者の物語が……
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