219 / 222
Myth of The Wind
それぞれの明日へ
しおりを挟む
森の中を目的もなく、一真はさまよっていた。
あてもなく、ただ歩き回る。
魔眼に支配されていると言っても心を失った一真の精神とは拮抗している状態であり、頭の中は混乱状態であった。
そして……その森の中を歩く、もう1つの影……
その者は記憶を失い、帰る場所も分からずに森をさまよい歩いていた。
その森の奥深くで、巨大な木に突き刺さっている1本の槍を見つける。
記憶を失っている男は、無意識に槍に手を伸ばす。
大木から引き抜かれた槍は神々しい装飾を纏い、如何なる物も貫く程に鋭い。
「これは……なんと神々しい……」
その手に握られた槍は、その者の言う通り神秘的な存在感がある。
その槍……グングニールは、先程までの戦闘でロキの手に握られていた物だった。
一真に弾かれたグングニールは、森の奥深くまで飛んでいた。
ロキがオーディンの姿を失った事で、ロキの作成したグングニールは所有者を失っている。
記憶を失い、ただ森に入り込んでいた男……シェルクードは、その槍を見つけた事に運命を感じた。
「この槍……神器だとすれば、この為に記憶を無くしたに違いない。何も分からなくなった時は、絶望もしたが……まだツキはありそうだ」
ガヌロンによって記憶を失ったシェルクードは、自分が何者で、何の為に生きているかさえ分からなくなっていた。
「コイツを使い熟して、出世してやる。記憶を失う前の私が何者かなんて、もはやどうでもいい。とりあえず、近くの国から自分を売り込みに行ってみるか……」
手に馴染む槍を数回振り回し、シェルクードは自信に満ちた顔をする。
記憶を失ってから、盗賊やヨトゥンに何度か襲われた。
しかし、その全てを退けてきた……自分は強い……その確信に加えて、神器のような槍を手に入れた。
どの国の騎士団にでも入れるだろう……シェルクードは、自分の明るい未来を想像し笑みがこぼれる。
その時、シェルクードは人の気配を感じた。
手に入れた槍を試すのに丁度良い。
シェルクードは槍……グングニールを振り回すと、気配のある場所にひと突き……高速の突きを見舞う。
が……全く手応えを感じない。
次の瞬間には凄まじい程の衝撃が身体を襲い、槍の突き刺さっていた大木に叩きつけられていた。
倒れ込んだシェルクードは、自分を見下ろす赤い瞳の男の存在に気付く。
「強い……何者だ?」
「不意打ちで、この程度か……殺すにも値しないが……今は気が立っている。殺しておくか……」
赤い瞳からは、人の温かみは感じられない……人の命など興味が無いのだろう……無表情で剣を振り下ろそうとする。
「ま……待ってくれ! あんたの強さを見込んで頼みがある! 私と一緒に、成り上がらないか? こんな森の中で殺し合う……そんな下らない事で力を使うのは勿体ない!」
シェルクードはある事を思いつき、必死に命請いをする。
その必死さと言葉を聞いて、赤い瞳を持つ男……一真の手が止まった。
「ふん……面白そうだな。国を攻め落とすか? それとも、大量虐殺でもするか?」
「そんな事をしても、面白く無い。 私達で国を作るというのはどうです? 下僕共を従えて、神も人間もヨトゥンも、我々の元に平伏せてやりましょう。あなたの力があれば、それも可能です」
確かに、頭を平伏す者を見下すのは気分が良い……シェルクードが下僕のように自分の足元に這いつくばりながら、必死に提案する姿に一真は笑いが込み上げて来た。
シェルクードが……というより、ロキが持っていたグングニールを使う者が平伏している姿が、無意識に気分が良く感じたのかもしれない。
「いいだろう……だが、つまらなければ貴様を殺すぞ」
「大丈夫です……お任せ下さい。私に良い考えがございます」
そう言うと、シェルクードは森の更に奥へ一真を導いて歩き始めた。
「ホントに……その、元の世界ってトコに帰っちゃうの?」
「ああ……ゼーク、世話になったな。初めて出会った時から、助けられてばっかりだった……見ず知らずの俺達の事を、本気で守って……心配してくれて、ありがとな!」
ベルヘイム遠征軍は、ベルヘイム国へ後退を始めていた。
当初の目的であるバロールを倒し、フレイヤを奪還した遠征軍は、退路を断たれる前に大急ぎで後退を開始する。
ベルヘイムに戻る途中で湖に立ち寄った遠征軍は、そこで航太達と別れる事になった。
そう……この湖は、航太達が最初に神話の世界に入った場所だ。
航太達は一度自分達の世界に戻り、自分達の出生の秘密や神話について詳しく調べる為、元の世界に戻る事を決めた。
それに文明の発達した自分達の世界なら、心を失った人を戻す方法……心を失うという事と類似した症状を探し、その治療方法さえ分かれば一真を元に戻せるかもしれないという淡い期待もある。
「ゼーク……本当に、ありがとうね! ゼークがいなかったら、私達ここに立ってなかったかもしれない……」
「そだねー……智ちん捕まった時も、一番心配してくれてたもんねー。ホントに、大感謝だよー。この世界にも、携帯あったらイイのにねー」
携帯と聞いて、ゼークは携帯用の非常用袋を取り出して見詰める。
その姿に、大きな笑いが起きた。
「ゼークしゃん、馬鹿でしゅねー。携帯って言うのは、携帯電話の略なんでしゅよー! で、携帯電話というのはでしゅね、こう……パカッて開いて、モシモシ……でしゅ~って話をするでしゅよー」
「なるほど……馬鹿はお前だ、脳みそ溶けてるアヒル野郎! 何時の時代の話をしてやがる! てか、説明すんじゃねぇ! 話がややこしくなる!」
ガーゴの頭を3回程殴った航太は、そのまま尻尾を掴んでクルクル回す。
そして放り投げた……先にはアクアがいた。
ぽよーーーん
と、気の抜けた音がして、アクアとガーゴの頭が激突した。
「痛いにゃ! ニャにしてくれてんのよ、ばかアヒル!」
「ガーゴじゃないでしゅ~、アクア目掛けて投げたの、航太しゃんでしゅよー。ガーゴを投げる時、くたばれ化け猫! って言ってたでしゅよー。あー、頭痛いでしゅ~」
頭を抱えながら航太を睨む2匹に、航太は思わず言ってしまった……
「いや……今の、痛かったのか? 痛そうな擬音は聞こえなかったんだが……」
…………
「ほれみろーでしゅ! アクアしゃん、分かったでしゅか? これがコイツの正体でしゅよー」
「サイテーな男だニャ。とても、バルデルスに思いを託された人間とは思えニャいわ! こんなクズの為に、バルデルスは……」
言われの無い攻撃に、航太は後退りする。
「はぁ……この展開、いい加減飽きない訳? 航ちゃん、アクアとガーゴで遊ばないで! 面倒臭いんだから!」
「いや……遊んでる訳でもねーし……てか、ガーゴは絵美の魂の情報入ってんだろ! 何とかしろよ!」
航太と絵美のやり取りを頭を抱えて見ていた智美の肩を叩き、笑いながらオルフェが2人に歩み寄った。
「航太、もしベルヘイムを訪れるような事があったら、連絡をくれ。ベルヘイムの騎士養成所に入れるように手配してやる。まだ決定ではないが、12騎士の選抜試験を行うように国王に申請するつもりなんだ。今回、ランカストとガヌロンが命を落とし、12騎士団には空きが2つ出来る」
「ん? 1つだろ? ガヌロンは軍師だったんだから、12騎士じゃない」
キョトンとする航太に、今度はゼークが笑いながら、その肩を叩く。
「軍師ってのは、12騎士の更に上の位よ。ガヌロンの後任は、オルフェ将軍になると思う。そうしたら、2席空くわ」
「で……それと騎士養成所と、どういう関係があるの? まぁ、航ちゃんの剣の腕なら、一回基礎から教えてもらった方がいいかもねー」
そんな事も知らないの? といった顔で笑うゼークの横で、絵美も笑いながら航太に言う。
「オメーも騎士団の仕組みなんて知らねーだろ! 一緒に笑ってんじゃねー!」
「はいはい……でも、絵美の言う通り、騎士養成所と12騎士の話は別物のように聞こえるケド……」
智美の疑問に頷いたオルフェは、そのまま口を開く。
「12騎士の選抜試験に参加する為には、少なくとも見習い騎士以上でなくてはならん。航太なら最短の時間で騎士見習いになれるだろうから、ギリギリ選抜試験に間に合うかもしれん」
「一真の心を取り戻すなら、まず一真を探さなきゃいけないけど、その為には国境を越える必要があるでしょ? 国境を越える為には、本当なら許可証が必要になるけど、申請して受領されて……ってしてると、凄く時間がかかっちゃう。でも、各国の上位騎士なら、フリーで国境を超えられるのよ」
ゼークの言葉を聞いて、航太は気付いた。
「オルフェ将軍……俺達の為に……」
「上位騎士が1人いれば、その部隊は国境を通れる。ベルヘイム12騎士なら、まず問題ない。出来るだけ早く、ベルヘイムに来い! 一真に礼を言いたいのは、お前達だけじゃないんだ……だから、出来る限りの協力はさせてくれ」
航太は頷くと、湖の前に立つ。
そして、泣きながら別れの言葉を言う智美と絵美に声をかけ、それぞれ神器を構える。
「オルフェ将軍……俺達は、必ず戻って来る。心の整理がついたら……必ずな!」
神器を振ると同時に、元の世界への扉が開く。
「みんな……ありがとう! またねー」
絵美の言葉は異世界への扉へ吸い込まれ、元の世界の……小田原の海岸に戻って来た。
「戻って……来たな……」
「今度は、自分達の意思で向こうの世界に行かなきゃね……今度戻って来る時は、カズちゃんも一緒に……」
海を見て黄昏れる2人に、絵美が飛びつく。
「私、疲れたー! 横浜のホテルに泊まって行こうよー! 駅前に、夜景が綺麗でカクテル飲めるホテルあるから、とりあえず行くぞー!」
絵美に引きづられながら、航太と智美は電車に乗る。
「確かに、身体臭いね。シャワー浴びたい!」
「しゃあねぇ……泊まっていくか!」
満員電車の中で体臭を気にしながら……普段ならストレスな人との距離が、今は心地好く感じていた。
あてもなく、ただ歩き回る。
魔眼に支配されていると言っても心を失った一真の精神とは拮抗している状態であり、頭の中は混乱状態であった。
そして……その森の中を歩く、もう1つの影……
その者は記憶を失い、帰る場所も分からずに森をさまよい歩いていた。
その森の奥深くで、巨大な木に突き刺さっている1本の槍を見つける。
記憶を失っている男は、無意識に槍に手を伸ばす。
大木から引き抜かれた槍は神々しい装飾を纏い、如何なる物も貫く程に鋭い。
「これは……なんと神々しい……」
その手に握られた槍は、その者の言う通り神秘的な存在感がある。
その槍……グングニールは、先程までの戦闘でロキの手に握られていた物だった。
一真に弾かれたグングニールは、森の奥深くまで飛んでいた。
ロキがオーディンの姿を失った事で、ロキの作成したグングニールは所有者を失っている。
記憶を失い、ただ森に入り込んでいた男……シェルクードは、その槍を見つけた事に運命を感じた。
「この槍……神器だとすれば、この為に記憶を無くしたに違いない。何も分からなくなった時は、絶望もしたが……まだツキはありそうだ」
ガヌロンによって記憶を失ったシェルクードは、自分が何者で、何の為に生きているかさえ分からなくなっていた。
「コイツを使い熟して、出世してやる。記憶を失う前の私が何者かなんて、もはやどうでもいい。とりあえず、近くの国から自分を売り込みに行ってみるか……」
手に馴染む槍を数回振り回し、シェルクードは自信に満ちた顔をする。
記憶を失ってから、盗賊やヨトゥンに何度か襲われた。
しかし、その全てを退けてきた……自分は強い……その確信に加えて、神器のような槍を手に入れた。
どの国の騎士団にでも入れるだろう……シェルクードは、自分の明るい未来を想像し笑みがこぼれる。
その時、シェルクードは人の気配を感じた。
手に入れた槍を試すのに丁度良い。
シェルクードは槍……グングニールを振り回すと、気配のある場所にひと突き……高速の突きを見舞う。
が……全く手応えを感じない。
次の瞬間には凄まじい程の衝撃が身体を襲い、槍の突き刺さっていた大木に叩きつけられていた。
倒れ込んだシェルクードは、自分を見下ろす赤い瞳の男の存在に気付く。
「強い……何者だ?」
「不意打ちで、この程度か……殺すにも値しないが……今は気が立っている。殺しておくか……」
赤い瞳からは、人の温かみは感じられない……人の命など興味が無いのだろう……無表情で剣を振り下ろそうとする。
「ま……待ってくれ! あんたの強さを見込んで頼みがある! 私と一緒に、成り上がらないか? こんな森の中で殺し合う……そんな下らない事で力を使うのは勿体ない!」
シェルクードはある事を思いつき、必死に命請いをする。
その必死さと言葉を聞いて、赤い瞳を持つ男……一真の手が止まった。
「ふん……面白そうだな。国を攻め落とすか? それとも、大量虐殺でもするか?」
「そんな事をしても、面白く無い。 私達で国を作るというのはどうです? 下僕共を従えて、神も人間もヨトゥンも、我々の元に平伏せてやりましょう。あなたの力があれば、それも可能です」
確かに、頭を平伏す者を見下すのは気分が良い……シェルクードが下僕のように自分の足元に這いつくばりながら、必死に提案する姿に一真は笑いが込み上げて来た。
シェルクードが……というより、ロキが持っていたグングニールを使う者が平伏している姿が、無意識に気分が良く感じたのかもしれない。
「いいだろう……だが、つまらなければ貴様を殺すぞ」
「大丈夫です……お任せ下さい。私に良い考えがございます」
そう言うと、シェルクードは森の更に奥へ一真を導いて歩き始めた。
「ホントに……その、元の世界ってトコに帰っちゃうの?」
「ああ……ゼーク、世話になったな。初めて出会った時から、助けられてばっかりだった……見ず知らずの俺達の事を、本気で守って……心配してくれて、ありがとな!」
ベルヘイム遠征軍は、ベルヘイム国へ後退を始めていた。
当初の目的であるバロールを倒し、フレイヤを奪還した遠征軍は、退路を断たれる前に大急ぎで後退を開始する。
ベルヘイムに戻る途中で湖に立ち寄った遠征軍は、そこで航太達と別れる事になった。
そう……この湖は、航太達が最初に神話の世界に入った場所だ。
航太達は一度自分達の世界に戻り、自分達の出生の秘密や神話について詳しく調べる為、元の世界に戻る事を決めた。
それに文明の発達した自分達の世界なら、心を失った人を戻す方法……心を失うという事と類似した症状を探し、その治療方法さえ分かれば一真を元に戻せるかもしれないという淡い期待もある。
「ゼーク……本当に、ありがとうね! ゼークがいなかったら、私達ここに立ってなかったかもしれない……」
「そだねー……智ちん捕まった時も、一番心配してくれてたもんねー。ホントに、大感謝だよー。この世界にも、携帯あったらイイのにねー」
携帯と聞いて、ゼークは携帯用の非常用袋を取り出して見詰める。
その姿に、大きな笑いが起きた。
「ゼークしゃん、馬鹿でしゅねー。携帯って言うのは、携帯電話の略なんでしゅよー! で、携帯電話というのはでしゅね、こう……パカッて開いて、モシモシ……でしゅ~って話をするでしゅよー」
「なるほど……馬鹿はお前だ、脳みそ溶けてるアヒル野郎! 何時の時代の話をしてやがる! てか、説明すんじゃねぇ! 話がややこしくなる!」
ガーゴの頭を3回程殴った航太は、そのまま尻尾を掴んでクルクル回す。
そして放り投げた……先にはアクアがいた。
ぽよーーーん
と、気の抜けた音がして、アクアとガーゴの頭が激突した。
「痛いにゃ! ニャにしてくれてんのよ、ばかアヒル!」
「ガーゴじゃないでしゅ~、アクア目掛けて投げたの、航太しゃんでしゅよー。ガーゴを投げる時、くたばれ化け猫! って言ってたでしゅよー。あー、頭痛いでしゅ~」
頭を抱えながら航太を睨む2匹に、航太は思わず言ってしまった……
「いや……今の、痛かったのか? 痛そうな擬音は聞こえなかったんだが……」
…………
「ほれみろーでしゅ! アクアしゃん、分かったでしゅか? これがコイツの正体でしゅよー」
「サイテーな男だニャ。とても、バルデルスに思いを託された人間とは思えニャいわ! こんなクズの為に、バルデルスは……」
言われの無い攻撃に、航太は後退りする。
「はぁ……この展開、いい加減飽きない訳? 航ちゃん、アクアとガーゴで遊ばないで! 面倒臭いんだから!」
「いや……遊んでる訳でもねーし……てか、ガーゴは絵美の魂の情報入ってんだろ! 何とかしろよ!」
航太と絵美のやり取りを頭を抱えて見ていた智美の肩を叩き、笑いながらオルフェが2人に歩み寄った。
「航太、もしベルヘイムを訪れるような事があったら、連絡をくれ。ベルヘイムの騎士養成所に入れるように手配してやる。まだ決定ではないが、12騎士の選抜試験を行うように国王に申請するつもりなんだ。今回、ランカストとガヌロンが命を落とし、12騎士団には空きが2つ出来る」
「ん? 1つだろ? ガヌロンは軍師だったんだから、12騎士じゃない」
キョトンとする航太に、今度はゼークが笑いながら、その肩を叩く。
「軍師ってのは、12騎士の更に上の位よ。ガヌロンの後任は、オルフェ将軍になると思う。そうしたら、2席空くわ」
「で……それと騎士養成所と、どういう関係があるの? まぁ、航ちゃんの剣の腕なら、一回基礎から教えてもらった方がいいかもねー」
そんな事も知らないの? といった顔で笑うゼークの横で、絵美も笑いながら航太に言う。
「オメーも騎士団の仕組みなんて知らねーだろ! 一緒に笑ってんじゃねー!」
「はいはい……でも、絵美の言う通り、騎士養成所と12騎士の話は別物のように聞こえるケド……」
智美の疑問に頷いたオルフェは、そのまま口を開く。
「12騎士の選抜試験に参加する為には、少なくとも見習い騎士以上でなくてはならん。航太なら最短の時間で騎士見習いになれるだろうから、ギリギリ選抜試験に間に合うかもしれん」
「一真の心を取り戻すなら、まず一真を探さなきゃいけないけど、その為には国境を越える必要があるでしょ? 国境を越える為には、本当なら許可証が必要になるけど、申請して受領されて……ってしてると、凄く時間がかかっちゃう。でも、各国の上位騎士なら、フリーで国境を超えられるのよ」
ゼークの言葉を聞いて、航太は気付いた。
「オルフェ将軍……俺達の為に……」
「上位騎士が1人いれば、その部隊は国境を通れる。ベルヘイム12騎士なら、まず問題ない。出来るだけ早く、ベルヘイムに来い! 一真に礼を言いたいのは、お前達だけじゃないんだ……だから、出来る限りの協力はさせてくれ」
航太は頷くと、湖の前に立つ。
そして、泣きながら別れの言葉を言う智美と絵美に声をかけ、それぞれ神器を構える。
「オルフェ将軍……俺達は、必ず戻って来る。心の整理がついたら……必ずな!」
神器を振ると同時に、元の世界への扉が開く。
「みんな……ありがとう! またねー」
絵美の言葉は異世界への扉へ吸い込まれ、元の世界の……小田原の海岸に戻って来た。
「戻って……来たな……」
「今度は、自分達の意思で向こうの世界に行かなきゃね……今度戻って来る時は、カズちゃんも一緒に……」
海を見て黄昏れる2人に、絵美が飛びつく。
「私、疲れたー! 横浜のホテルに泊まって行こうよー! 駅前に、夜景が綺麗でカクテル飲めるホテルあるから、とりあえず行くぞー!」
絵美に引きづられながら、航太と智美は電車に乗る。
「確かに、身体臭いね。シャワー浴びたい!」
「しゃあねぇ……泊まっていくか!」
満員電車の中で体臭を気にしながら……普段ならストレスな人との距離が、今は心地好く感じていた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。
石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません
俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。
本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。
幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。
そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。
彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。
それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』
今度もまた年上ヒロインです。
セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。
カクヨムにも投稿中です
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる