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コナハト攻城戦
凰翼13
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「さて……とりあえず、剣を置いてもらおぅかのぅ……このチビっ娘が死んでもいいなら、儂に攻撃してきてもいいがの……」
バロールは口元を緩めながら、ルナの頭を掴んだまま振り回す。
「いやぁぁ! やめてよぉー」
バロールによって持ち上げられたルナの小さな身体は、成す術も無く振り回される。
突き出されたバロールの右腕は太く、振り解こうとするルナの手は余りにも小さかった。
「分かった! 剣を置く……振り回すのを止めろ!」
一真はグラムを城の床に突き刺すと、背中の炎の翼も散らす。
「バルドル様……先程は剣を向けてしまい、申し訳ありませんでした……」
「フレイヤさん、オレは神だった時の事は殆ど覚えていないんだ……だから、気にしないで……それより、今はルナを救いたい。剣を置いて下さい」
龍皇覚醒したまま話しかけてきたフレイヤを見て、一真は自分にも言い聞かせるように頷く。
それを見たフレイヤも、水の翼を消してクレイモアを床に突き刺した。
「くっくっく、聞き分けが良くて助かるのぅ……凰の目の貴様は苦しみながら死に、フレイヤには再び我が妻になってもらおぅかの……」
「バロール! 人間の騎士1人に追い詰められて、人質をとって勝つなんて……一軍を統べる将が、そんな姑息な手段を……恥ずかしい手段を使って勝利しても、プライドが許さないだろっ!」
一真は怒りの表情で睨みつけるが、バロールは笑って鋭い視線を受け流す。
「もはや、手段を選んでる余裕はないのでのぅ……儂を追い詰めた事を誇りながら死んで逝けるんじゃ、嬉しかろぅ」
そう言いながら、バロールは一真の前に歩み寄る。
そして身動きの出来ない一真の腹部に、バロールの鋭い蹴りがめり込んだ。
「ぐふぅっ!」
軽く宙に浮いた一真の体は、そのまま1回2回と地面を転がる。
「バルドル様っ!」
「おっと……フレイヤ、貴様も動くんじゃないぞ……この男が守ろうとしているチビっ娘を殺されたくなければ……のぅ……」
唇が切れる程に噛み締めるフレイヤを横目に、バロールは倒れている一真に近付いて行く。
「どんな手段を使おうが、儂は何があっても負ける訳にはいかんのじゃよ。ここで儂が手柄を立てなければ、ヨトゥンは間違った方へ進んでしまうのでな……」
バロールはそう言うと、 倒れている一真の背中に足の裏を乗せ、力いっぱい地面に押し付けた。
「ぐはぁっ!」
「カズ兄ちゃん! もぅ……止めてよ! この卑怯者っ! きゃああぁ!」
叫んだルナの頭を、バロールの右手が握り潰すかの如く締め付ける。
「止めろバロール……それ以上ルナを傷付けたら、許さないぞ……」
「ほぅほぅ……許さないか……別に、許してもらわんでも構わないんじゃよ。これから死に逝く者に、どう思われてても気にならんからのぅ……」
バロールは足を振り上げ……そして再び、力いっぱい一真の背中を踏み付けた。
「がはぁっ!」
地面に食い込むんじゃないか……そう思ってしまう程の衝撃が、一真を襲う。
「くっくっく……笑いが止まらんのぅ……ただの人間のガキを護る為に、人類の希望が消えるんじゃ! たった1つの命を犠牲にすれば、簡単に儂を殺せるのにのぅ……」
「バルドル様……私達はロキの野望を打ち砕き、神の世界を正しい方向に
変える指命がある筈です! ラウフェイさんやエルフフォーシュの思い……そして、アスナやミルティ……皆、バルドル様なら成し遂げてくれると信じて命を懸けてきたんです! 立ち上がって……戦って下さい!」
フレイヤは叫んでいた……バロールを倒し、ロキの野望を止めれば、助かる人達の数は計り知れない。
人質を見捨てるのは心が痛む……だが、バルドルの命と人間の少女……天秤に掛けるまでもない……救える者が1人なら、バルドルの命を優先するべきだ。
「フレイヤさん……それでは、ロキと一緒になってしまう……多くの人々を助ける為に、1人を犠牲にする……でも、そこで見捨てた人の世界は終わってしまう……大地を守るだけじゃ駄目なんだ……多くの人の世界も救わないと……オレは、欲張りだからね……」
バロールに踏み付けられて肺を圧迫されている為、呼吸をするのも辛い状態で、それでも一真はフレイヤに伝える。
「アスナやミルティが、オレを守る為に世界を越えた時……フレイヤさんがバロールの軍勢を抑えてくれたって話は聞いています。そして、バロールに捕まった……だから、助けたかった……そして、こんな所で倒れてはダメって事も分かってます……でも、それと同じぐらい……ルナを救いたいんです……」
「カズ兄ちゃん……もう、私の事はいいから……戦って……これ以上、カズ兄ちゃんに迷惑かけたくない……あの時、レンヴァル村にカズ兄ちゃんが来てくれてなかったら、私は死んでいたんだから……だから、気にしないで……バロールを倒してっ! あああぁぁぁっ!」
捕まりながらも必死に一真に両手を伸ばしていたルナの頭を、力強いバロールの右手の握力で締め付けた。
「感動的じゃのう……じゃが、そろそろ幕引きしようかのぅ……これだけ想ってくれてる小娘も、魔眼の幻術で儂の奴隷として飼ってやるから安心してよいぞ。殺さんでやる儂の優しさに感謝しながら死んでゆけぃ!」
「ぐふっ!」
バロールのクレイモアが、一真の心臓に突き刺さる。
「いやぁあぁぁぁぁ! カズ兄ちゃん!」
ルナの絶叫が、コナハト城の中を木霊した……
バロールは口元を緩めながら、ルナの頭を掴んだまま振り回す。
「いやぁぁ! やめてよぉー」
バロールによって持ち上げられたルナの小さな身体は、成す術も無く振り回される。
突き出されたバロールの右腕は太く、振り解こうとするルナの手は余りにも小さかった。
「分かった! 剣を置く……振り回すのを止めろ!」
一真はグラムを城の床に突き刺すと、背中の炎の翼も散らす。
「バルドル様……先程は剣を向けてしまい、申し訳ありませんでした……」
「フレイヤさん、オレは神だった時の事は殆ど覚えていないんだ……だから、気にしないで……それより、今はルナを救いたい。剣を置いて下さい」
龍皇覚醒したまま話しかけてきたフレイヤを見て、一真は自分にも言い聞かせるように頷く。
それを見たフレイヤも、水の翼を消してクレイモアを床に突き刺した。
「くっくっく、聞き分けが良くて助かるのぅ……凰の目の貴様は苦しみながら死に、フレイヤには再び我が妻になってもらおぅかの……」
「バロール! 人間の騎士1人に追い詰められて、人質をとって勝つなんて……一軍を統べる将が、そんな姑息な手段を……恥ずかしい手段を使って勝利しても、プライドが許さないだろっ!」
一真は怒りの表情で睨みつけるが、バロールは笑って鋭い視線を受け流す。
「もはや、手段を選んでる余裕はないのでのぅ……儂を追い詰めた事を誇りながら死んで逝けるんじゃ、嬉しかろぅ」
そう言いながら、バロールは一真の前に歩み寄る。
そして身動きの出来ない一真の腹部に、バロールの鋭い蹴りがめり込んだ。
「ぐふぅっ!」
軽く宙に浮いた一真の体は、そのまま1回2回と地面を転がる。
「バルドル様っ!」
「おっと……フレイヤ、貴様も動くんじゃないぞ……この男が守ろうとしているチビっ娘を殺されたくなければ……のぅ……」
唇が切れる程に噛み締めるフレイヤを横目に、バロールは倒れている一真に近付いて行く。
「どんな手段を使おうが、儂は何があっても負ける訳にはいかんのじゃよ。ここで儂が手柄を立てなければ、ヨトゥンは間違った方へ進んでしまうのでな……」
バロールはそう言うと、 倒れている一真の背中に足の裏を乗せ、力いっぱい地面に押し付けた。
「ぐはぁっ!」
「カズ兄ちゃん! もぅ……止めてよ! この卑怯者っ! きゃああぁ!」
叫んだルナの頭を、バロールの右手が握り潰すかの如く締め付ける。
「止めろバロール……それ以上ルナを傷付けたら、許さないぞ……」
「ほぅほぅ……許さないか……別に、許してもらわんでも構わないんじゃよ。これから死に逝く者に、どう思われてても気にならんからのぅ……」
バロールは足を振り上げ……そして再び、力いっぱい一真の背中を踏み付けた。
「がはぁっ!」
地面に食い込むんじゃないか……そう思ってしまう程の衝撃が、一真を襲う。
「くっくっく……笑いが止まらんのぅ……ただの人間のガキを護る為に、人類の希望が消えるんじゃ! たった1つの命を犠牲にすれば、簡単に儂を殺せるのにのぅ……」
「バルドル様……私達はロキの野望を打ち砕き、神の世界を正しい方向に
変える指命がある筈です! ラウフェイさんやエルフフォーシュの思い……そして、アスナやミルティ……皆、バルドル様なら成し遂げてくれると信じて命を懸けてきたんです! 立ち上がって……戦って下さい!」
フレイヤは叫んでいた……バロールを倒し、ロキの野望を止めれば、助かる人達の数は計り知れない。
人質を見捨てるのは心が痛む……だが、バルドルの命と人間の少女……天秤に掛けるまでもない……救える者が1人なら、バルドルの命を優先するべきだ。
「フレイヤさん……それでは、ロキと一緒になってしまう……多くの人々を助ける為に、1人を犠牲にする……でも、そこで見捨てた人の世界は終わってしまう……大地を守るだけじゃ駄目なんだ……多くの人の世界も救わないと……オレは、欲張りだからね……」
バロールに踏み付けられて肺を圧迫されている為、呼吸をするのも辛い状態で、それでも一真はフレイヤに伝える。
「アスナやミルティが、オレを守る為に世界を越えた時……フレイヤさんがバロールの軍勢を抑えてくれたって話は聞いています。そして、バロールに捕まった……だから、助けたかった……そして、こんな所で倒れてはダメって事も分かってます……でも、それと同じぐらい……ルナを救いたいんです……」
「カズ兄ちゃん……もう、私の事はいいから……戦って……これ以上、カズ兄ちゃんに迷惑かけたくない……あの時、レンヴァル村にカズ兄ちゃんが来てくれてなかったら、私は死んでいたんだから……だから、気にしないで……バロールを倒してっ! あああぁぁぁっ!」
捕まりながらも必死に一真に両手を伸ばしていたルナの頭を、力強いバロールの右手の握力で締め付けた。
「感動的じゃのう……じゃが、そろそろ幕引きしようかのぅ……これだけ想ってくれてる小娘も、魔眼の幻術で儂の奴隷として飼ってやるから安心してよいぞ。殺さんでやる儂の優しさに感謝しながら死んでゆけぃ!」
「ぐふっ!」
バロールのクレイモアが、一真の心臓に突き刺さる。
「いやぁあぁぁぁぁ! カズ兄ちゃん!」
ルナの絶叫が、コナハト城の中を木霊した……
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