雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

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コナハト攻城戦

凰翼9

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「ねぇアクア……あの目、何か青く光ってない? もー、恐いよぉ……」

「バロールが魔眼の力を解放してるニャ……バルデルスが押してるのか、鳳凰覚醒を使っちゃってるのか……どちらにしても、このままじゃ済まない気がするニャ……」

フレイヤの胸の中心に埋め込まれた目が怪しく……青く光っている事に気付いたルナが、身体を震わせる。

その瞳が見開いた瞬間、フレイヤの胸に取り付いているかに見えた目が消えた。

そして十字に囚われていたフレイヤの身体は、力無く地面に倒れ込む。

「フレイヤ様……大丈夫かニャ……」

「アクア、なんだか様子がおかしいよ……ちょっと待って!」

綺麗な長い金髪の髪を床に広げたフレイヤの身体は、まるで金色の海に浮かぶ人魚のようである。

しかしアクアが近寄ろうとした時、操り人形のように立ち上がったフレイヤの姿はホラー映画に出て来るゾンビのような動きで恐怖すら感じた。

歩き始めたアクアを咄嗟に抱き抱えたルナは、思わずフレイヤから距離をとる。

ルナとアクアの視線を気にする事もなく、壁に立て掛けられいるクレイモアを手に取ったフレイヤは、それまでのゆっくりとした動作からは考えられないようなスピードで、一真とバロールの戦っている部屋へ飛び込んだ。

「今の……何かに操られているみたいだったケド……」

「フレイヤ様……魔眼の影響で、バロールに操られているかもしれないニャ……だとしたら、バルデルスが危ニャい!」

身体を掴んでいたルナの手を振りほどき、アクアは急いでフレイヤの入っていった部屋を覗き込む。

フレイヤは既に一真の背後に迫り、クレイモアを振り上げている。

「バルデルス! 後ろニャ!」

アクアの声に反応した一真は、振り下ろされたクレイモアをグラムで難無く弾き返す。

バロールとフレイヤから距離をとる為に後ろへ跳んだ一真は、アクア達が隠れている壁に背を向けてグラムを構え直した。

「ありがとう、アクア。バロールに集中し過ぎてて、気付かなかった……けど彼女は……フレイヤさんじゃないのか?」

「胸に張り付いてた魔眼が消えたと思ったら、急に動き出したニャ! バロールに操られている可能性が高いニャ!」

アクアの声を背中で聞きながら、一真は考える。

魔眼に人を操る能力は無かった筈……バロールが新たな力に目覚めたか?

それも考え難い。

ヨトゥンの力は、新たな能力が出現する事はない筈だ。

「くっくっくっ、考えている暇など無いぞ。儂に3つ目の魔眼を使わせた事を誇りながら、あの世に行くのじゃ!」

一瞬で炎の壁に囲まれた一真は、更に上から押さえ付けられているような圧力を感じる。

「魔眼1つで1個の能力が使える……今は3つの能力の同時発動が可能って事か! けど、幻術と分かっていれば!」

構えたグラムに力を入れた瞬間、炎の壁が弾けた。

炎を消し飛ばした一真の目の前に、幻術で3人に増えているように見えるフレイヤがクレイモアを持って走り込んで来る。

「こういう使い方をしてくるのか! フレイヤさんを傷付けられないのを知っていて……」

クレイモアの攻撃を躱した一真に、先の尖った氷柱が次々と襲い掛かってきた。

その氷柱の攻撃範囲に、1人に戻ったフレイヤも入っている。

「くそっ!」

炎の翼を羽ばたかせ、瞬時にフレイヤの前に出た一真は、炎の斬撃で氷柱を消し去った。

しかし、背後からクレイモアが振り下ろされる。

「くっ!」

鳳凰覚醒の超反応でクレイモアの一撃をグラムで防いだ一真は、再び距離をとった。

フレイヤの腕は細いが、軽々とクレイモアを扱う姿は流石は神と言ったところか……そして、その一撃は重い。

「バルデルス、鳳凰覚醒を使い過ぎニャ! 心が崩壊しちゃうニャ!」

「分かってるケド……凰の目だけじゃ、対応出来ない……」

アクアと会話している間にも、休む事を知らないフレイヤがクレイモアを持って襲い掛かって来る。

「この状況を打開しなくちゃ……バロールに攻撃が届かない!」

クレイモアの攻撃を数回避けた時……

「ぐふっ!」

鈍い音と短い悲鳴の後に、フレイヤからの攻撃が止んだ。

「一真、オレの姿を魔眼から隠せっ! フレイヤは何とかしてやるっ!」

その声に瞬時に反応した一真は、バロールとフレイヤの間に土の壁を造りだし、魔眼を遮る。

「あんたは、オレに付き合ってもらうぜ! 一真は取り込み中で、あんたの相手は出来ねぇとよ!」

朱く輝くヘルギがクレイモアを跳ね上げ、がら空きになったフレイヤの腹を再び蹴りつけて吹っ飛ばす。

「ガイエン! どうしてここに? それに、フレイヤさんは倒しちゃダメだ!」

「分かってる! こいつは魔眼で、バロールの妻になって幸せに暮らしている幻術を見せられ続けてたんだ! バロールの事を最愛の夫だと思っていやがる! 目が覚めるまでの間、オレが相手をしてやるぜ!」

フレイヤをルナ達の隠れている部屋に押し戻すと、ガイエンは魔眼の死角になる位置まで移動した。

「扉の外は、お前のお仲間達が何とかしてくれてる! そして、フレイヤはオレが抑える! お前は、バロールに集中しろっ!」

「育ててやった恩を忘れて、よくも邪魔してくれたのぅ……ガイエン、儂に逆らったら、どうなるか分かっておるな?」

ヘルギを構えてフレイヤと対峙するガイエンの口元が、少し緩む。

「へっ……策に嵌めて親父を殺し、オレだけでなく幼なじみ達も地獄に叩き落とした……テメェに恩を感じてた自分が情けないぜ! けどよ、一矢報いるチャンスが来てんだ。このチャンス、逃す訳ねぇだろ! バロール! 貴様の前に立ちはだかるのは、常に凰の目と赤枝の力だ!」

叫んだ後、ガイエンの構えが変化した。

「あれは……クー・フーリン達と同じ構えニャ……赤枝の騎士の構え……」

「へっ……化け猫、よく知ってるな……オレは、もうヨトゥンの力では戦わない……親父が教えてくれた剣術で……これからは、赤枝の力で戦い抜く!」

体力は限界のガイエンであったが、気力は最高潮に達している。

「ガイエン……邪魔をするなら、あなたを斬ります。私は、愛する夫を助けに行かなければならないの……」

「いい加減、その旦那が最低野郎って気付けよ! まぁ、オレも騙されていたから、気持ちは分からなくもないが……目を覚ますまで、オレが相手をしてやるぜ!」

クレイモアとヘルギが、激しくぶつかり合った……
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