雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

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スラハト解放戦

続・スラハト解放戦6

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「くそっ! やっぱり強ぇ! まだ大量に控えてるってのに、一騎も倒せてねぇ!」

航太はエアの剣を必死に振って、ムスペルの騎士の攻撃を弾き続ける。

ムスペルの騎士は無表情に……そして、機械的だが的確に槍を突き出して来る為、航太は反撃の糸口すら掴めない。

智美と絵美も、辛うじてムスペルの騎士の攻撃を防いではいるが、致命傷を受けるのも時間の問題のように見える。

スラハトの城壁を飛び越えてから、休む間も無く火消しと戦闘を繰り返していたのだから、体力もギリギリだ。

頼みのオルフェ将軍とゼークは、ムスペルの騎士相手に優勢ではあるが、まだ倒しきれずに剣を振るっている。

仮にムスペルの騎士が30騎いれば、1人が5騎は倒さなくてはいけない。

更には、その後にスルトが控えているというオマケ付きだ。

現状を考えると、航太は絶望感に襲われた。

こんな戦いをして、何になるのか……弱気な自分が、顔を出してしまう。

その時……

「航太様! 伏せてっ!」

背中側から聞こえた声に、航太は反射的に地面に伏せた。

そんな航太の影から、大剣を持った小さな身体が飛び出して来る。

「はあああぁぁぁぁ!」

槍の射程すら凌駕する勢いの大剣は、突然の攻撃に対処出来なかったムスペルの騎士を一刀両断した。

そして、その反動を利用して再び舞った小さな身体は、スルトとムスペルの騎士が待機する場所の間に大剣を叩き込む。

ガアァァァァァ!

大剣が大地を穿ち、地面が割れていく。

「ほぅ……ノアの娘か……いい動きだ」

航太達と戦っているムスペルの騎士以外の騎士は、全員スルトの後ろにいた。

その為、スルトと残りのムスペルの騎士は大地の裂け目で分断された事になる。

しかし、スルトは冷静に戦況を見詰めていた。

「航太様っ! 一緒に、智美様と絵美様への援護を!」

「分かった! サンキュー、テューネ!」

大剣……デュランダルを構えながら走るテューネの後を追い、航太は智美の元に走る。

「智美、躱せっ!」

航太は走りながら、ムスペルの騎士を目掛けて横の鎌鼬を放つ。

その鎌鼬を智美はしゃがんで躱すと、ムスペルの騎士も釣られてしゃがんだ。

「たあああぁぁぁぁ!」

しゃがんだムスペルの騎士に、空に舞ったテューネからデュランダルの一撃が振り下ろされる。

バキャアァァァア!

奇妙な音が響き、ムスペルの騎士が自らを守ろうとした槍ごと真っ二つに斬り裂いた。

「ありがとう、航ちゃん! テューネ!」

「次は絵美だっ! テューネはゼークを頼む!」

テューネは頷くと、ゼークが戦う戦場に向けて走り出す。

「って、早くコッチもなんとかしてー! もームリだー」

と言いながらも、絵美は天沼矛でムスペルの騎士の猛攻を受け止め、なんとか耐え忍んでいる。

「やあぁぁぁ!」

草薙の剣でムスペルの騎士に仕掛けた智美の攻撃は、ムスペルの騎士の槍に簡単に防がれた。

「今度は私のターンよっ! ドローっ! じゃなかった……」

天沼矛から発生した水の刃は、ムスペルの騎士のバックステップにより、あっさり躱される。

「何してんだ! けど、これでダウンだっ!」

横方向に発生していた水の刃に、航太郎は上から縦にエアの剣を刺し込んだ。

そして、振り抜く!

水の矢がムスペルの騎士に襲いかかり、時間差で水の鎌鼬も強襲した。

「ぐわあぁぁぁ!」

断末魔と共に、ムスペルの騎士が倒れる。

「うし、次だっ!」

「って言っても、向かうは優勢に戦ってるわ……私達とは違うわね」

智美の視線の先では、ゼークとテューネがムスペルの騎士を圧倒していた。

テューネの繰り出すデュランダルの剣撃を防御しても、その隙間を縫うようにゼークの鋭い攻撃がムスペルの騎士に襲いかかる。

一瞬止まった攻撃の隙を突き、ムスペルの騎士がゼークに槍を繰り出す。

「そんな強引な攻撃で……動きが単調過ぎるわっ!」

右手の中指にはまる指輪……魔導師の指輪が赤く輝き、ゼークの剣が炎に包まれる。

炎の剣で受け止められた槍は、熱で先端が溶けてゴムのようにグニャっと曲がった。

「これで、終わりよっ!」

紅蓮の炎が剣から伸び、ムスペルの騎士を燃やし尽くす。

そして、その炎はムスペルの騎士の背後にあった民家までも燃やした。

「おーおー……ゼークさん、やり過ぎだろ。俺達の今までの努力も考えて戦って欲しいもんだ……」

「ケド、ゼークちゃんの剣術に魔法の力まで付加されたら、そりゃー強いよね。後は、オルフェ将軍か……」

航太達の視線がオルフェの戦っていた戦場に移るが、そこには倒れているムスペルの騎士しかいない。

オルフェ将軍の姿は、更にその先……スルトに向かっている。

「やはり、最初に私に挑んで来るのは貴様か……オルフェ!」

「スルトっ! ムスペルの騎士を動かさない貴様の魂胆が何なのかは知らんが、我々を侮っていた事を後悔させてやるぞっ!」

オルフェの構えた神剣、オートクレールの輝きが増す。

オートクレールをスルトに向かって振ろうとした瞬間、その身体は漆黒の焔に包まれる。

「ちっ! あの黒い焔はヤバイ気がする! 将軍を助けに行くぞっ!」

「航太様、オルフェ様なら大丈夫です! オートクレールの加護が、守ってくれてます!」

焦る航太を落ち着ける為のテューネの声に重なるように、激しい金属音が周囲に響く。

「なるほど……これが、ビューレイストが警戒し認めた力か……オートクレール、狙った所を攻撃出来るというだけでは大した能力では無いが、狙った対象を攻撃するまでは完全無敵という訳か……」

黒い焔から飛び出しオートクレールでスルトに攻撃を仕掛けたオルフェは、確かに無傷だった。

「スルトっ! 確かに我々1人1人では、貴様に勝てないかもしれない。だが、力を合わせた人間の力、見せてやるぞっ!」

オートクレールの一撃をレーヴァテインで受け止められた為、オルフェは一度スルトとの距離をとる。

「そう言うこった! 悔しいが、俺の力じゃモブ騎士1人倒せねぇ! けど、力を合わせりゃ俺達の力は何倍にもなる筈だ!」

「私達……人間の力では、あなたのような神級と戦う事は無謀かもしれない……でも、私達はヨトゥンの進攻を止めなきゃいけない。相手が神と同等の力があっても、引く訳にはいかないわっ!」

航太とゼークが叫び、その後方に智美と絵美……そしてテューネがスルトの前に歩み出た。

「銀髪……ゼークの血統もいるのか……」

スルトは呟くと、立ち並ぶベルヘイム騎士達を嘲笑うかのように眺める。

「我がムスペルの騎士を倒して来たのだ……相手をしてやろう。しかし、残念だな。ここには、バロールを倒せる程の者はいない。つまり、コナハト城に乗り込んでいる奴が切り札……と言う事か。そいつがバロールを倒したならば、本命と言う事だな……」

スルトはレーヴァテインを構え、航太達ベルヘイム騎士も攻撃体制をとった……
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