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スラハト解放戦
続・スラハト解放戦
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「あー、暑い! メチャクチャ暑い! そして、疲れた! お腹空いた!」
ブツブツ……ではなく、大声で不満を言いながら、絵美は水の刃を航太の前に出し続けていた。
その額からは大量の汗が流れ落ち、綺麗な長い髪も乱れに乱れまくっている。
「うっせーなぁ……さっき王子に、私達も頑張るから……とか何とか言ってなかったか? せめて、もう少し頑張ろうや……」
「なんだとー! いたいけな少女が汗ダクで頑張ってるのに、うるさいって言ったー! だいたい、城内に入るのに城壁越える必要あった? テューネが開いた隙間から入れば、余計な体力使わなくてよかったじゃん! 馬鹿なの? 知ってはいたけど、馬鹿なの?」
何とか励まそうとした航太は、余計な事を言ってしまったと反省した。
まだまだ火の勢いは衰えず、熱風が頬を撫でていく。
言い返す気力も体力も無い航太は、水の鎌鼬を放った後、汗が流れ落ちる額を拭った。
航太と絵美は2人で協力しながら水の鎌鼬を作りだし、少しづつ炎は小さくなっている。
しかし燃え盛る炎の勢いは凄まじく、町全体が燃えている為に消火するには時間がかかりそうだ。
航太達より城壁側では、智美が火傷や負傷して動けない人々の治療に専念している。
それぞれが1人でも多くの人を救う為、自分に出来る事を必死にやっていた。
その姿は、スラハトに住む人々に勇気と希望を与え始める。
水の鎌鼬が火を消していく度、大きな喚声が巻き起こった。
その声を聞くと、航太も絵美も止める訳にはいかないという気持ちになる。
「しかし……ここまで消えないかね! いい加減、腕が疲れてきたぜ!」
熱風のせいなのか……呼吸をするのも難しく、口も乾燥していく。
体力も腕も限界だった。
それでも水の鎌鼬を、スラハトを襲う火に向けて放ち続ける。
休まずに、何発も何発も……
「大丈夫! 2人とも頑張ってるから、火は少しずつだけど小さくなってるよ♪ いいダイエットになるんじゃない?」
智美も神剣の力を使い続けている為、体力はかなり奪われているのだろう……額や髪の毛を伝って、大量の汗が大地に滴り落ちている。
それでも気持ちで負けないように、智美は笑顔を皆に振り撒く。
その笑顔に、ユングヴィ隊の兵やスラハトの人々は癒されていた。
そんな時、突然スラハト城外に出る為の列が乱れ、1人の男が城内に飛び込んで来る。
「航太! ちょっと、手を止めてくれ! この火を完全に消しては駄目だ!」
………………
「ねっ、航ちゃん! オルフェさんみたいに入って来れば、壁を飛び越える必要は無かったよね? 航ちゃんが、オレかっけー的な登場を考えなければ、体力を使わないで済んだよね?」
「オルフェさん……このタイミングは無いわー。あの時は1人でも早く助けたかったから、飛び越えたんだよ! ってか、ベルヘイムの騎士が逃げる民間人を押し退けて城内に入って来る方が無いだろ!」
オルフェの登場に一瞬顔を見合わせた航太と絵美は、再び口論の火花が弾けた。
「おいおい……どうしちまったんだ? 喧嘩している場合じゃないだろ?」
「すいません、オルフェさん。みーちゃんは、お腹空くと機嫌が悪くなっちゃうのよ……それに、この暑さと疲労でイライラがピークなんです。それで、火を消しちゃ駄目って……何でですか?」
明らかにオルフェの声が届いていないであろう2人を横目に、智美がオルフェに尋ねる。
「ん……ああ。この火をスラハトに放ったのは、おそらくガヌロンだ。そして、奴は魂までヨトゥンに売っていない……と、思う……」
「甘いぜ、オルフェさん! ガヌロンの野郎がスラハトに火を点けたのなら、それは自分の手柄か何かにしたいからだろ? 奴は、ランカスト将軍を復讐ってだけで殺した卑劣な野郎だぜ!」
ガヌロンの名を聞いた瞬間、航太は鎌鼬を作り出す手を止めオルフェの方を向いた。
その時、航太の頬スレスレを水の刃が通り過ぎる。
「うおっ! って……絵美さーん……オレを殺す気ですかー?」
「勝手に鎌鼬を止めた、航ちゃんが悪いんでしょ? それにガヌロンとか……イライラが止まらなーい!」
天沼矛と両足をパタパタと暴れさせながら、ムキーッと怒りのポーズで航太を睨む。
「いや……オレが睨まれても……で、オルフェさん。この火がガヌロンの仕業だとして、火を消しちゃいけないって何でだよ。オレ達の努力が全否定されているんだが……」
「いや、航太達の努力が無ければ、スラハトの人達は救えなかった。それは間違いない。だがガヌロンは、それも込みで考えてたに違いない。城の近くの火は消え難く、煙の量も多い筈だ」
航太と絵美は、改めてコナハト城の近くに目を移す。
確かに手前の火は容易く消えたが、奥の火は消し辛かった。
「奥の火が消し辛いのは分かったケド……それで、何で火を消しちゃいけないのか、全く分からないんですけどー……」
「このスラハトの町は、我々が持っていた地図と現在の町並みが変わっている。今のスラハトの町は、門に至る道は1本しか無く、町の外に出るには、その道を通るしかない。コナハト城に攻め込むにしても、逃げるにしても、通る道が1本しか無ければ、そこを魔眼で見続けられたら終わりだ。それでガヌロンは……煙という方法を考えたのだろう……」
智美の疑問に、オルフェは立ち上る煙を見ながら答える。
「煙か……確かに対象を完璧に認識出来なければ、魔眼の効果は薄くなる。先の戦闘で実証済みだが……それで、ガヌロンが裏切ってないって考えるのは、早計過ぎんだろ」
「航太達は、復讐の鬼になっているガヌロンしか見た事が無いからな……そう考えるのも、無理はない。しかし性格的な問題はあっても、天才軍師と言われるぐらいだ。自らの部隊を不利にするような戦術は、絶対にとらない。何か意味がある時以外はな……」
そう言うオルフェの言葉は、共に戦って来た人間にしか分からない重みのようなモノを感じた。
「ケド……どんな理由があったって、スラハトの人達を燃やしたのは変わらないよ……バロールを倒す為に、ガヌロンがヨトゥンを裏切って練った策だとしても、私は許せない。こんなに多くの犠牲者を出して……お城の近くでは、逃げれなかった人達が沢山いる筈だし……」
「だな……けど、オルフェさんの表情を見るに、多分だが城の近くの住人には何らかの対策が練られてるんじゃねーのか? スラハトの住人を助ける為に火を消したら、煙も消えて本末転倒だ……」
絵美の言葉に頷いた航太は、しかし違和感も感じオルフェを見る。
「流石だな、航太。それはオレも考えた。そして、ガヌロンが持っている情報で、バロール側の情報が薄い事と言ったら……そこを考えて、ガヌロンは策を練った筈だ。バロール側に気付かれたら、計画を中止するしか無いからな……」
そこまで言ったオルフェは、自分の入って来た崩れた城壁に作られた隙間に視線を移す。
オルフェが入って来た時のようにスラハト城外に出る為の列が乱れ、そこから2人の女性騎士が入って来た。
「航太……それに、智美と絵美も……お疲れ様! スラハトの人達を救ってくれて、アリガトねっ♪」
「オルフェ様……私、試してみたい事があるんです! このデュランダルで……」
スラハトに入って来た2人の女騎士……ゼークとテューネは、燃え盛る炎と、立ち上る黒い煙に目を移す。
「テューネ……ガヌロンの策に気付いたか……そう……おそらく、答はこの1本道にある筈だ! だが、皇の目を使い過ぎると……」
「オルフェ様……大丈夫です。皇の目を使わなくても、この程度なら……それに、私には頼もしい仲間達がいてくれます。私の力は、私の物だけじゃない……そして皆の力は、私の力になってくれる筈です!」
そう言ったテューネの肩を、左右から航太とゼークが軽く叩く。
「たりめーだ! テューネ、一真と王子に教えてやろうぜ! 力があるばっかりに1人で全てを抱え込もうとしてる馬鹿共に、力を合わせる大切さを!」
「そうね……それに、私達も弱くない! 努力している人達が力を合わせるんだもん……私達なら、どんな困難にだって立ち向かえるわ!」
2人の言葉にテューネは頷くと、黒い瞳のままデュランダルを構える。
「皆さん、行きましょう! スラハトの人達を救い、姫を救出する為に!」
テューネは叫ぶと、デュランダルを大地に叩きつけた……
ブツブツ……ではなく、大声で不満を言いながら、絵美は水の刃を航太の前に出し続けていた。
その額からは大量の汗が流れ落ち、綺麗な長い髪も乱れに乱れまくっている。
「うっせーなぁ……さっき王子に、私達も頑張るから……とか何とか言ってなかったか? せめて、もう少し頑張ろうや……」
「なんだとー! いたいけな少女が汗ダクで頑張ってるのに、うるさいって言ったー! だいたい、城内に入るのに城壁越える必要あった? テューネが開いた隙間から入れば、余計な体力使わなくてよかったじゃん! 馬鹿なの? 知ってはいたけど、馬鹿なの?」
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言い返す気力も体力も無い航太は、水の鎌鼬を放った後、汗が流れ落ちる額を拭った。
航太と絵美は2人で協力しながら水の鎌鼬を作りだし、少しづつ炎は小さくなっている。
しかし燃え盛る炎の勢いは凄まじく、町全体が燃えている為に消火するには時間がかかりそうだ。
航太達より城壁側では、智美が火傷や負傷して動けない人々の治療に専念している。
それぞれが1人でも多くの人を救う為、自分に出来る事を必死にやっていた。
その姿は、スラハトに住む人々に勇気と希望を与え始める。
水の鎌鼬が火を消していく度、大きな喚声が巻き起こった。
その声を聞くと、航太も絵美も止める訳にはいかないという気持ちになる。
「しかし……ここまで消えないかね! いい加減、腕が疲れてきたぜ!」
熱風のせいなのか……呼吸をするのも難しく、口も乾燥していく。
体力も腕も限界だった。
それでも水の鎌鼬を、スラハトを襲う火に向けて放ち続ける。
休まずに、何発も何発も……
「大丈夫! 2人とも頑張ってるから、火は少しずつだけど小さくなってるよ♪ いいダイエットになるんじゃない?」
智美も神剣の力を使い続けている為、体力はかなり奪われているのだろう……額や髪の毛を伝って、大量の汗が大地に滴り落ちている。
それでも気持ちで負けないように、智美は笑顔を皆に振り撒く。
その笑顔に、ユングヴィ隊の兵やスラハトの人々は癒されていた。
そんな時、突然スラハト城外に出る為の列が乱れ、1人の男が城内に飛び込んで来る。
「航太! ちょっと、手を止めてくれ! この火を完全に消しては駄目だ!」
………………
「ねっ、航ちゃん! オルフェさんみたいに入って来れば、壁を飛び越える必要は無かったよね? 航ちゃんが、オレかっけー的な登場を考えなければ、体力を使わないで済んだよね?」
「オルフェさん……このタイミングは無いわー。あの時は1人でも早く助けたかったから、飛び越えたんだよ! ってか、ベルヘイムの騎士が逃げる民間人を押し退けて城内に入って来る方が無いだろ!」
オルフェの登場に一瞬顔を見合わせた航太と絵美は、再び口論の火花が弾けた。
「おいおい……どうしちまったんだ? 喧嘩している場合じゃないだろ?」
「すいません、オルフェさん。みーちゃんは、お腹空くと機嫌が悪くなっちゃうのよ……それに、この暑さと疲労でイライラがピークなんです。それで、火を消しちゃ駄目って……何でですか?」
明らかにオルフェの声が届いていないであろう2人を横目に、智美がオルフェに尋ねる。
「ん……ああ。この火をスラハトに放ったのは、おそらくガヌロンだ。そして、奴は魂までヨトゥンに売っていない……と、思う……」
「甘いぜ、オルフェさん! ガヌロンの野郎がスラハトに火を点けたのなら、それは自分の手柄か何かにしたいからだろ? 奴は、ランカスト将軍を復讐ってだけで殺した卑劣な野郎だぜ!」
ガヌロンの名を聞いた瞬間、航太は鎌鼬を作り出す手を止めオルフェの方を向いた。
その時、航太の頬スレスレを水の刃が通り過ぎる。
「うおっ! って……絵美さーん……オレを殺す気ですかー?」
「勝手に鎌鼬を止めた、航ちゃんが悪いんでしょ? それにガヌロンとか……イライラが止まらなーい!」
天沼矛と両足をパタパタと暴れさせながら、ムキーッと怒りのポーズで航太を睨む。
「いや……オレが睨まれても……で、オルフェさん。この火がガヌロンの仕業だとして、火を消しちゃいけないって何でだよ。オレ達の努力が全否定されているんだが……」
「いや、航太達の努力が無ければ、スラハトの人達は救えなかった。それは間違いない。だがガヌロンは、それも込みで考えてたに違いない。城の近くの火は消え難く、煙の量も多い筈だ」
航太と絵美は、改めてコナハト城の近くに目を移す。
確かに手前の火は容易く消えたが、奥の火は消し辛かった。
「奥の火が消し辛いのは分かったケド……それで、何で火を消しちゃいけないのか、全く分からないんですけどー……」
「このスラハトの町は、我々が持っていた地図と現在の町並みが変わっている。今のスラハトの町は、門に至る道は1本しか無く、町の外に出るには、その道を通るしかない。コナハト城に攻め込むにしても、逃げるにしても、通る道が1本しか無ければ、そこを魔眼で見続けられたら終わりだ。それでガヌロンは……煙という方法を考えたのだろう……」
智美の疑問に、オルフェは立ち上る煙を見ながら答える。
「煙か……確かに対象を完璧に認識出来なければ、魔眼の効果は薄くなる。先の戦闘で実証済みだが……それで、ガヌロンが裏切ってないって考えるのは、早計過ぎんだろ」
「航太達は、復讐の鬼になっているガヌロンしか見た事が無いからな……そう考えるのも、無理はない。しかし性格的な問題はあっても、天才軍師と言われるぐらいだ。自らの部隊を不利にするような戦術は、絶対にとらない。何か意味がある時以外はな……」
そう言うオルフェの言葉は、共に戦って来た人間にしか分からない重みのようなモノを感じた。
「ケド……どんな理由があったって、スラハトの人達を燃やしたのは変わらないよ……バロールを倒す為に、ガヌロンがヨトゥンを裏切って練った策だとしても、私は許せない。こんなに多くの犠牲者を出して……お城の近くでは、逃げれなかった人達が沢山いる筈だし……」
「だな……けど、オルフェさんの表情を見るに、多分だが城の近くの住人には何らかの対策が練られてるんじゃねーのか? スラハトの住人を助ける為に火を消したら、煙も消えて本末転倒だ……」
絵美の言葉に頷いた航太は、しかし違和感も感じオルフェを見る。
「流石だな、航太。それはオレも考えた。そして、ガヌロンが持っている情報で、バロール側の情報が薄い事と言ったら……そこを考えて、ガヌロンは策を練った筈だ。バロール側に気付かれたら、計画を中止するしか無いからな……」
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スラハトに入って来た2人の女騎士……ゼークとテューネは、燃え盛る炎と、立ち上る黒い煙に目を移す。
「テューネ……ガヌロンの策に気付いたか……そう……おそらく、答はこの1本道にある筈だ! だが、皇の目を使い過ぎると……」
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「たりめーだ! テューネ、一真と王子に教えてやろうぜ! 力があるばっかりに1人で全てを抱え込もうとしてる馬鹿共に、力を合わせる大切さを!」
「そうね……それに、私達も弱くない! 努力している人達が力を合わせるんだもん……私達なら、どんな困難にだって立ち向かえるわ!」
2人の言葉にテューネは頷くと、黒い瞳のままデュランダルを構える。
「皆さん、行きましょう! スラハトの人達を救い、姫を救出する為に!」
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