雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

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スラハト解放戦

最後の魔法

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「ふむ……オルフェ、気付くのが遅いな……」

オルフェが自分を確認して戦場を離れたのを見て、ガヌロンは溜息をついた。

「この聖バジルの加護を受けた魔導師の指輪を使えば、同じ魔法なら同時に何回でも使える。町を1つ燃やす事など容易い……」

そう呟くと、ガヌロンは城壁の外からでも分かる程の立ち上る煙を見上げる。

「そして、テューネも来てくれた……ソフィー、キミが導いてくれてるのか??私の最後の策を成功させる為に……」

ガヌロンが瞳を閉じると、スラハトでの戦闘が始まる前のバロールとの会話を思い出す。

「ガヌロン、貴様……儂に隠している事は無いかのぅ……風のMyth Knightや水のMyth Knightの事でなんじゃが……」

「いえ、特に隠している事は……まだヨトゥンが攻め込んでいない国から来た……という事と、Myth Knightとしては弱いという事ぐらいしか……そうは言ってもMyth Knightなので、先の戦闘では指揮官にはなっておりましたが……」

報告していない事があったが考えながら話すガヌロンを覗き込むように見ていたバロールだったが、嘘を言ってないと判断したようだ。

組んでいた腕を解き、そして今度はバロールが考え込むように顎を手に乗せる。

「なるほどのぅ……戦争が起きていない国か……それは、どこかは分からんのかのぅ??」

「はい……私も何度か尋ねようとしたんですが、総隊長のアルパスターに詮索するなと釘を刺されて、結局は聞く前に軍を抜けてしまったので……」

そもそも、最初は戦争をしている事も知らない様子だった……どんなに小さな村に居ようが、ヨトゥンが攻め込んで来ている事は知れ渡っている筈なのだが……

航太達の秘密の多さには、ベルヘイム軍にいた時からガヌロンは疑問を持っていた。

「何も知らんのは、事実のようじゃな……嘘は言ってなさそうだしのぅ……それに風と水のMyth Knight達も、気付いてなさそうじゃったからな……」

バロールはそう言うと、一呼吸の間を置く。

「先の戦闘で、奴らと対峙したんじゃが……魔眼で見る限り、奴らは鳳の目と皇の目を宿しているんじゃ。まだ使い熟すどころか、自分達の血の事すら知らん様子じゃったが……」

バロールの魔眼は、力の本質を見極める事が出来る。

水の玉で守られていた為に全ての情報を得られた訳では無いが、それでも特殊な力を見誤る筈も無い。

「なんと……航太達が、アスナとミルティの血を引いていると……それが事実であれば、バロール殿の脅威になるかもしれんですね」

ガヌロンの言葉にバロールは鼻で笑うと、コナハト城から見えるスラハトの町を一望する。

「まだ覚醒もしとらん奴に、儂が苦戦するとでも思っているのかのぅ……じゃが、時間が経って力を自分の物にされたら厄介ではあるからのぅ……」

バロールの言葉に、ガヌロンはスラハトの町を見下ろしながら考え込む。

「バロール殿……私の魔導師の指輪に、聖バジルの力を付与して頂けないでしょうか??その力で、航太達……風と水のMyth Knightを葬ってみせます。バロール殿への忠誠も、それで示してみせます」

「ほぅ……それも面白いのぅ……じゃが、バシリウスの血は貴重な物じゃからな……そう易々と与えられんなぁ……」

ガヌロンはバロールに断られる事が分かっていたと言わんばかりに頷くと、スラハトの町を見たまま口を開く。

「私と魔導師の力では、バロール殿の力にはなれないでしょう。しかし聖バジルの力を付加した魔導師の指輪の力ならば、貴重な農地は焼かずに住居区画のみを火の海にする事が出来ます。スルト殿の火の力は強大過ぎるので……」

「まぁ、確かにのぅ……ベルヘイム軍の前で、助けるべき人間を焼くのも一興じゃな……よし、ガヌロンにはスラハトの町を焼き払ったのち、城壁の右からベルヘイム軍に攻撃を仕掛けてもらおう……」

そして、ガヌロンはスラハトの町を焼く事になる。

「これで、良かったんだな……まだ私に笑ってはくれんが、これしか策は無い。力を貸してくれ……ソフィー」

火と共に舞い上がる煙を見て、ガヌロンは呟く。

そして聖バジルの力を付与された魔導師の指輪を、そっと撫でる。

「ソフィー、私の最後の魔法……受け取ってくれ。そしてロキに……私達の人生を狂わした奴に、一矢報いる力になってくれ……厳しい賭けだが、信じているぞ……」

その瞳に決意の色を宿したガヌロンは、戦場に足を向けた……
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