167 / 222
スラハト解放戦
最後の魔法
しおりを挟む
「ふむ……オルフェ、気付くのが遅いな……」
オルフェが自分を確認して戦場を離れたのを見て、ガヌロンは溜息をついた。
「この聖バジルの加護を受けた魔導師の指輪を使えば、同じ魔法なら同時に何回でも使える。町を1つ燃やす事など容易い……」
そう呟くと、ガヌロンは城壁の外からでも分かる程の立ち上る煙を見上げる。
「そして、テューネも来てくれた……ソフィー、キミが導いてくれてるのか??私の最後の策を成功させる為に……」
ガヌロンが瞳を閉じると、スラハトでの戦闘が始まる前のバロールとの会話を思い出す。
「ガヌロン、貴様……儂に隠している事は無いかのぅ……風のMyth Knightや水のMyth Knightの事でなんじゃが……」
「いえ、特に隠している事は……まだヨトゥンが攻め込んでいない国から来た……という事と、Myth Knightとしては弱いという事ぐらいしか……そうは言ってもMyth Knightなので、先の戦闘では指揮官にはなっておりましたが……」
報告していない事があったが考えながら話すガヌロンを覗き込むように見ていたバロールだったが、嘘を言ってないと判断したようだ。
組んでいた腕を解き、そして今度はバロールが考え込むように顎を手に乗せる。
「なるほどのぅ……戦争が起きていない国か……それは、どこかは分からんのかのぅ??」
「はい……私も何度か尋ねようとしたんですが、総隊長のアルパスターに詮索するなと釘を刺されて、結局は聞く前に軍を抜けてしまったので……」
そもそも、最初は戦争をしている事も知らない様子だった……どんなに小さな村に居ようが、ヨトゥンが攻め込んで来ている事は知れ渡っている筈なのだが……
航太達の秘密の多さには、ベルヘイム軍にいた時からガヌロンは疑問を持っていた。
「何も知らんのは、事実のようじゃな……嘘は言ってなさそうだしのぅ……それに風と水のMyth Knight達も、気付いてなさそうじゃったからな……」
バロールはそう言うと、一呼吸の間を置く。
「先の戦闘で、奴らと対峙したんじゃが……魔眼で見る限り、奴らは鳳の目と皇の目を宿しているんじゃ。まだ使い熟すどころか、自分達の血の事すら知らん様子じゃったが……」
バロールの魔眼は、力の本質を見極める事が出来る。
水の玉で守られていた為に全ての情報を得られた訳では無いが、それでも特殊な力を見誤る筈も無い。
「なんと……航太達が、アスナとミルティの血を引いていると……それが事実であれば、バロール殿の脅威になるかもしれんですね」
ガヌロンの言葉にバロールは鼻で笑うと、コナハト城から見えるスラハトの町を一望する。
「まだ覚醒もしとらん奴に、儂が苦戦するとでも思っているのかのぅ……じゃが、時間が経って力を自分の物にされたら厄介ではあるからのぅ……」
バロールの言葉に、ガヌロンはスラハトの町を見下ろしながら考え込む。
「バロール殿……私の魔導師の指輪に、聖バジルの力を付与して頂けないでしょうか??その力で、航太達……風と水のMyth Knightを葬ってみせます。バロール殿への忠誠も、それで示してみせます」
「ほぅ……それも面白いのぅ……じゃが、バシリウスの血は貴重な物じゃからな……そう易々と与えられんなぁ……」
ガヌロンはバロールに断られる事が分かっていたと言わんばかりに頷くと、スラハトの町を見たまま口を開く。
「私と魔導師の力では、バロール殿の力にはなれないでしょう。しかし聖バジルの力を付加した魔導師の指輪の力ならば、貴重な農地は焼かずに住居区画のみを火の海にする事が出来ます。スルト殿の火の力は強大過ぎるので……」
「まぁ、確かにのぅ……ベルヘイム軍の前で、助けるべき人間を焼くのも一興じゃな……よし、ガヌロンにはスラハトの町を焼き払ったのち、城壁の右からベルヘイム軍に攻撃を仕掛けてもらおう……」
そして、ガヌロンはスラハトの町を焼く事になる。
「これで、良かったんだな……まだ私に笑ってはくれんが、これしか策は無い。力を貸してくれ……ソフィー」
火と共に舞い上がる煙を見て、ガヌロンは呟く。
そして聖バジルの力を付与された魔導師の指輪を、そっと撫でる。
「ソフィー、私の最後の魔法……受け取ってくれ。そしてロキに……私達の人生を狂わした奴に、一矢報いる力になってくれ……厳しい賭けだが、信じているぞ……」
その瞳に決意の色を宿したガヌロンは、戦場に足を向けた……
オルフェが自分を確認して戦場を離れたのを見て、ガヌロンは溜息をついた。
「この聖バジルの加護を受けた魔導師の指輪を使えば、同じ魔法なら同時に何回でも使える。町を1つ燃やす事など容易い……」
そう呟くと、ガヌロンは城壁の外からでも分かる程の立ち上る煙を見上げる。
「そして、テューネも来てくれた……ソフィー、キミが導いてくれてるのか??私の最後の策を成功させる為に……」
ガヌロンが瞳を閉じると、スラハトでの戦闘が始まる前のバロールとの会話を思い出す。
「ガヌロン、貴様……儂に隠している事は無いかのぅ……風のMyth Knightや水のMyth Knightの事でなんじゃが……」
「いえ、特に隠している事は……まだヨトゥンが攻め込んでいない国から来た……という事と、Myth Knightとしては弱いという事ぐらいしか……そうは言ってもMyth Knightなので、先の戦闘では指揮官にはなっておりましたが……」
報告していない事があったが考えながら話すガヌロンを覗き込むように見ていたバロールだったが、嘘を言ってないと判断したようだ。
組んでいた腕を解き、そして今度はバロールが考え込むように顎を手に乗せる。
「なるほどのぅ……戦争が起きていない国か……それは、どこかは分からんのかのぅ??」
「はい……私も何度か尋ねようとしたんですが、総隊長のアルパスターに詮索するなと釘を刺されて、結局は聞く前に軍を抜けてしまったので……」
そもそも、最初は戦争をしている事も知らない様子だった……どんなに小さな村に居ようが、ヨトゥンが攻め込んで来ている事は知れ渡っている筈なのだが……
航太達の秘密の多さには、ベルヘイム軍にいた時からガヌロンは疑問を持っていた。
「何も知らんのは、事実のようじゃな……嘘は言ってなさそうだしのぅ……それに風と水のMyth Knight達も、気付いてなさそうじゃったからな……」
バロールはそう言うと、一呼吸の間を置く。
「先の戦闘で、奴らと対峙したんじゃが……魔眼で見る限り、奴らは鳳の目と皇の目を宿しているんじゃ。まだ使い熟すどころか、自分達の血の事すら知らん様子じゃったが……」
バロールの魔眼は、力の本質を見極める事が出来る。
水の玉で守られていた為に全ての情報を得られた訳では無いが、それでも特殊な力を見誤る筈も無い。
「なんと……航太達が、アスナとミルティの血を引いていると……それが事実であれば、バロール殿の脅威になるかもしれんですね」
ガヌロンの言葉にバロールは鼻で笑うと、コナハト城から見えるスラハトの町を一望する。
「まだ覚醒もしとらん奴に、儂が苦戦するとでも思っているのかのぅ……じゃが、時間が経って力を自分の物にされたら厄介ではあるからのぅ……」
バロールの言葉に、ガヌロンはスラハトの町を見下ろしながら考え込む。
「バロール殿……私の魔導師の指輪に、聖バジルの力を付与して頂けないでしょうか??その力で、航太達……風と水のMyth Knightを葬ってみせます。バロール殿への忠誠も、それで示してみせます」
「ほぅ……それも面白いのぅ……じゃが、バシリウスの血は貴重な物じゃからな……そう易々と与えられんなぁ……」
ガヌロンはバロールに断られる事が分かっていたと言わんばかりに頷くと、スラハトの町を見たまま口を開く。
「私と魔導師の力では、バロール殿の力にはなれないでしょう。しかし聖バジルの力を付加した魔導師の指輪の力ならば、貴重な農地は焼かずに住居区画のみを火の海にする事が出来ます。スルト殿の火の力は強大過ぎるので……」
「まぁ、確かにのぅ……ベルヘイム軍の前で、助けるべき人間を焼くのも一興じゃな……よし、ガヌロンにはスラハトの町を焼き払ったのち、城壁の右からベルヘイム軍に攻撃を仕掛けてもらおう……」
そして、ガヌロンはスラハトの町を焼く事になる。
「これで、良かったんだな……まだ私に笑ってはくれんが、これしか策は無い。力を貸してくれ……ソフィー」
火と共に舞い上がる煙を見て、ガヌロンは呟く。
そして聖バジルの力を付与された魔導師の指輪を、そっと撫でる。
「ソフィー、私の最後の魔法……受け取ってくれ。そしてロキに……私達の人生を狂わした奴に、一矢報いる力になってくれ……厳しい賭けだが、信じているぞ……」
その瞳に決意の色を宿したガヌロンは、戦場に足を向けた……
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
(完結)初恋の勇者が選んだのは聖女の……でした
青空一夏
ファンタジー
私はアイラ、ジャスミン子爵家の長女だ。私には可愛らしい妹リリーがおり、リリーは両親やお兄様から溺愛されていた。私はこの国の基準では不器量で女性らしくなく恥ずべき存在だと思われていた。
この国の女性美の基準は小柄で華奢で編み物と刺繍が得意であること。風が吹けば飛ぶような儚げな風情の容姿が好まれ家庭的であることが大事だった。
私は読書と剣術、魔法が大好き。刺繍やレース編みなんて大嫌いだった。
そんな私は恋なんてしないと思っていたけれど一目惚れ。その男の子も私に気があると思っていた私は大人になってから自分の手柄を彼に譲る……そして彼は勇者になるのだが……
勇者と聖女と魔物が出てくるファンタジー。ざまぁ要素あり。姉妹格差。ゆるふわ設定ご都合主義。中世ヨーロッパ風異世界。
ラブファンタジーのつもり……です。最後はヒロインが幸せになり、ヒロインを裏切った者は不幸になるという安心設定。因果応報の世界。
ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい
竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。
あれ、オレ、いつ死んだんだ?
別にトラックにひかれてないんだけど?
普通に眠っただけだよな?
ってか、モンスターに転生って?
それも蛇って。
オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。
そもそも高校生だったんだから。
断固やり直しを要求するっ!
モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。
蛇って。
あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。
ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。
オレは何もしてないだろうが。
とりあえずおまえは倒すぞ。
ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・
装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます
tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中!
※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father
※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中!
※書影など、公開中!
ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。
勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。
スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。
途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。
なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。
その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【完結】剣聖の娘はのんびりと後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ゲームの悪役に転生した俺が、影の英雄ムーブを楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった
木嶋隆太
ファンタジー
ブラック企業の社畜だった俺は気が付けば異世界に転生していた。それも大好きだったゲームの悪役に……。このままでは将来主人公に殺されるという破滅の未来を迎えてしまうため、全力で強くなるための行動を開始する。ゲーム内知識を活かしながら、とにかく、筋トレ! 領民に嫌われたままも嫌なので、優しく! そんなことをしていると、俺の評価がどんどん上がっていっていき、気づけばどこに行っても褒められるような人間へとなっていた。そして、正体隠してあちこちで魔物を狩っていたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまい……おや? 様子がおかしいぞ?
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる