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スラハト解放戦
スラハト解放戦1
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スラハトに続く一本道を、ベルヘイム軍は周囲を警戒しつつ進軍していた。
先鋒は、魔眼に耐えれるユングヴィ王子が指揮する部隊。
中央に、航太とゼークの部隊。
後衛に、アルパスターとオルフェの本隊。
その本隊に守られるように、ホワイト・ティアラ隊が続く。
ヨトゥン軍は全軍コナハト城に篭っているのか、敵に一切遭遇しない。
(よし、ここまでは順調だな!!時間を調整して進軍できている)
順調な進軍に、ユングヴィは左腕に付けた腕時計を見て安心する。
作戦前日、一真は先鋒となるユングヴィに自分の腕時計を渡していた。
一真は懐中時計も持っており、お互いの時間を合わせて突入時間を決めている。
一真のコナハト城への突入時間は、昼の11時……
その1時間前に、ユングヴィ隊はスラハトへ進軍する手筈である。
ユングヴィ隊は決死隊であり、真っ先にスラハトに入り魔眼の効果範囲で戦う。
11時に魔眼の効果範囲外に後退し、ヨトゥンの部隊を出来る限りコナハト城から引き離す。
そして他のベルヘイムの部隊と合流し、おびき出したヨトゥン兵を討つ作戦である。
魔眼に唯一対抗出来ると思われているユングヴィ王子……戦神フレイが後退すれば、好機とばかりに敵軍は釣られて追って来るだろう………
この作戦で敵が釣れなければ一真が敵に囲まれる事になり、作戦の成功率が著しく下がってしまう。
逆に成功すれば一真がコナハト城に侵入しやすくなるし、バロールとの戦闘も邪魔される心配が減る。
時間とタイミング、そしてベルヘイム軍全体の連携が必要だ。
ユングヴィ王子の部隊がスラハトの城壁に近付いた時、大きな太鼓の音が響き渡り、その音に呼応するように一斉に城壁の上から矢が放たれる。
その数は凄まじく、空が矢で覆い隠されていく。
尋常ではない数の矢がユングヴィ隊に降り注がれる……まさに矢の嵐である。
しかし、その矢がユングヴィ隊を襲う事はなかった。
鎌鼬が……
水の球が……
光の槍が……
嵐の如く襲いかかる矢の攻撃を、次々とMyth Knightの神器の力で撃ち落とされていく 。
まるで予想していたかのように、その光景を驚きもせず眺めたユングヴィは、視線をスラハトを守る城壁の上……矢が放たれている場所に移すと、神槍ゲイボルグを構える。
「この一撃が、スラハトを解放する狼煙となる!!轟け、雷よっ!!」
ユングヴィは叫びながら、ゲイボルグを天空に向かって放り投げた。
ゲイボルグは城壁の遥か上で30本に分離し、その1本1本に雷の力を纏う。
ガァァァァァァァァン!!!
30本の雷が、城壁の上のヨトゥン兵に襲い掛かった。
30の雷が同時に落ちる衝撃……その様は、正に圧巻である。
城壁が崩れ落ちたんじゃないかと思わせる程の爆音が轟き、太陽の輝きが倍になったと錯覚させる程の閃光を放った。
次の瞬間には、矢の攻撃はパッタリと止む。
「うぉぉぉぉぉお!!!!」
一瞬の静寂の後、ベルヘイム兵から歓声が沸き起こる。
「ヨトゥンへの……バロールへの宣戦布告は終わった!!スラハトを解放し、我々の手に姫を取り戻す!!行くぞ!!」
「おおおおおおっ!!!!!!!!」
王子の檄に、ユングヴィ隊の兵から大地を揺るがす程の鬨の声が上がった。
ユングヴィ隊は、バロールの魔眼に晒されながら戦わなくてはいけない。
全滅する可能性も高い……その恐怖もある筈なのに、今はスラハト解放の為に勇気を奮い起こしている。
ユングヴィ王子はヴァン神族………神であるが、神ですら私利私欲を優先する者もいる中で、人の自己犠牲の姿には心を打たれずにいられない。
「行くぞ!!」
ならば、1人でも多くの兵を生存させる……ユングヴィは覚悟を決めると叫び、城門に向かって突っ込んで行く。
ユングヴィ隊の兵も、それに続いた。
「うおぉぉぉっ!!」
先頭を走るユングヴィが、雄叫びを上げながら城門に向かってゲイボルグを一突きする。
バアアアァァァァァン!!
30本に分離したゲイボルグが同時に城門に襲い掛かり、大きな破壊音が響いた瞬間、いとも簡単に城門は吹き飛んだ。
「突入!!」
ユングヴィの叫び声に呼応して、ベルヘイム兵が関を切ったかのようにスラハトの町に流れ込む。
が…………
スラハトの町に、兵の姿はない。
城壁からの攻撃があった為、確実にスラハトの町中に兵を配置していると思っていたベルヘイム兵は面食らい、その動きを止めた。
困惑するユングヴィ隊の兵は、進軍に二の足を踏んでしまう。
あまりに静かなスラハトの町に、何か策があるんじゃないかと感じているのだ。
「おい、ベルヘイム軍だ!!ベルヘイム軍が助けに来てくれたぞ!!」
そんな静寂を破ったのは、スラハトの住人の声であった。
先程の雷の爆音を聞き、住人達は家の中に避難していたのであろう。
恐る恐る家のドアを開けた住人の1人がベルヘイム兵の姿を見つけ大声を出した事を皮切りに、家から次々とスラハトの住人達が飛び出して来る。
「まじか!!助かったぜ!!」
「良かった!!これで魔眼から……ヨトゥンの支配から解放されるわ!!」
ユングヴィ隊の兵はスラハトの住人達を保護しながら、町の真ん中辺りに差し掛かった。
その時!!
ゴオオォォン!!
何か大きな物が崩れ落ちる……劈くような凄まじい音が、耳の中を通り過ぎていく。
「何の音だ!!」
ユングヴィが状況を確認しようとした時、驚くべき光景が目の中に飛び込んできた。
「城壁が……崩れた……」
そう、城壁が崩れ落ちている……ゲイボルグの雷を受けても崩れなかった城壁が、突如崩壊する。
何者かに謀られたかのように……ベルヘイム軍の侵入も脱出も拒むように……スラハトの住人を外に出さないと言わんばかりに……城門も何もかも潰され、出入りが不可能な状況になっていた……
先鋒は、魔眼に耐えれるユングヴィ王子が指揮する部隊。
中央に、航太とゼークの部隊。
後衛に、アルパスターとオルフェの本隊。
その本隊に守られるように、ホワイト・ティアラ隊が続く。
ヨトゥン軍は全軍コナハト城に篭っているのか、敵に一切遭遇しない。
(よし、ここまでは順調だな!!時間を調整して進軍できている)
順調な進軍に、ユングヴィは左腕に付けた腕時計を見て安心する。
作戦前日、一真は先鋒となるユングヴィに自分の腕時計を渡していた。
一真は懐中時計も持っており、お互いの時間を合わせて突入時間を決めている。
一真のコナハト城への突入時間は、昼の11時……
その1時間前に、ユングヴィ隊はスラハトへ進軍する手筈である。
ユングヴィ隊は決死隊であり、真っ先にスラハトに入り魔眼の効果範囲で戦う。
11時に魔眼の効果範囲外に後退し、ヨトゥンの部隊を出来る限りコナハト城から引き離す。
そして他のベルヘイムの部隊と合流し、おびき出したヨトゥン兵を討つ作戦である。
魔眼に唯一対抗出来ると思われているユングヴィ王子……戦神フレイが後退すれば、好機とばかりに敵軍は釣られて追って来るだろう………
この作戦で敵が釣れなければ一真が敵に囲まれる事になり、作戦の成功率が著しく下がってしまう。
逆に成功すれば一真がコナハト城に侵入しやすくなるし、バロールとの戦闘も邪魔される心配が減る。
時間とタイミング、そしてベルヘイム軍全体の連携が必要だ。
ユングヴィ王子の部隊がスラハトの城壁に近付いた時、大きな太鼓の音が響き渡り、その音に呼応するように一斉に城壁の上から矢が放たれる。
その数は凄まじく、空が矢で覆い隠されていく。
尋常ではない数の矢がユングヴィ隊に降り注がれる……まさに矢の嵐である。
しかし、その矢がユングヴィ隊を襲う事はなかった。
鎌鼬が……
水の球が……
光の槍が……
嵐の如く襲いかかる矢の攻撃を、次々とMyth Knightの神器の力で撃ち落とされていく 。
まるで予想していたかのように、その光景を驚きもせず眺めたユングヴィは、視線をスラハトを守る城壁の上……矢が放たれている場所に移すと、神槍ゲイボルグを構える。
「この一撃が、スラハトを解放する狼煙となる!!轟け、雷よっ!!」
ユングヴィは叫びながら、ゲイボルグを天空に向かって放り投げた。
ゲイボルグは城壁の遥か上で30本に分離し、その1本1本に雷の力を纏う。
ガァァァァァァァァン!!!
30本の雷が、城壁の上のヨトゥン兵に襲い掛かった。
30の雷が同時に落ちる衝撃……その様は、正に圧巻である。
城壁が崩れ落ちたんじゃないかと思わせる程の爆音が轟き、太陽の輝きが倍になったと錯覚させる程の閃光を放った。
次の瞬間には、矢の攻撃はパッタリと止む。
「うぉぉぉぉぉお!!!!」
一瞬の静寂の後、ベルヘイム兵から歓声が沸き起こる。
「ヨトゥンへの……バロールへの宣戦布告は終わった!!スラハトを解放し、我々の手に姫を取り戻す!!行くぞ!!」
「おおおおおおっ!!!!!!!!」
王子の檄に、ユングヴィ隊の兵から大地を揺るがす程の鬨の声が上がった。
ユングヴィ隊は、バロールの魔眼に晒されながら戦わなくてはいけない。
全滅する可能性も高い……その恐怖もある筈なのに、今はスラハト解放の為に勇気を奮い起こしている。
ユングヴィ王子はヴァン神族………神であるが、神ですら私利私欲を優先する者もいる中で、人の自己犠牲の姿には心を打たれずにいられない。
「行くぞ!!」
ならば、1人でも多くの兵を生存させる……ユングヴィは覚悟を決めると叫び、城門に向かって突っ込んで行く。
ユングヴィ隊の兵も、それに続いた。
「うおぉぉぉっ!!」
先頭を走るユングヴィが、雄叫びを上げながら城門に向かってゲイボルグを一突きする。
バアアアァァァァァン!!
30本に分離したゲイボルグが同時に城門に襲い掛かり、大きな破壊音が響いた瞬間、いとも簡単に城門は吹き飛んだ。
「突入!!」
ユングヴィの叫び声に呼応して、ベルヘイム兵が関を切ったかのようにスラハトの町に流れ込む。
が…………
スラハトの町に、兵の姿はない。
城壁からの攻撃があった為、確実にスラハトの町中に兵を配置していると思っていたベルヘイム兵は面食らい、その動きを止めた。
困惑するユングヴィ隊の兵は、進軍に二の足を踏んでしまう。
あまりに静かなスラハトの町に、何か策があるんじゃないかと感じているのだ。
「おい、ベルヘイム軍だ!!ベルヘイム軍が助けに来てくれたぞ!!」
そんな静寂を破ったのは、スラハトの住人の声であった。
先程の雷の爆音を聞き、住人達は家の中に避難していたのであろう。
恐る恐る家のドアを開けた住人の1人がベルヘイム兵の姿を見つけ大声を出した事を皮切りに、家から次々とスラハトの住人達が飛び出して来る。
「まじか!!助かったぜ!!」
「良かった!!これで魔眼から……ヨトゥンの支配から解放されるわ!!」
ユングヴィ隊の兵はスラハトの住人達を保護しながら、町の真ん中辺りに差し掛かった。
その時!!
ゴオオォォン!!
何か大きな物が崩れ落ちる……劈くような凄まじい音が、耳の中を通り過ぎていく。
「何の音だ!!」
ユングヴィが状況を確認しようとした時、驚くべき光景が目の中に飛び込んできた。
「城壁が……崩れた……」
そう、城壁が崩れ落ちている……ゲイボルグの雷を受けても崩れなかった城壁が、突如崩壊する。
何者かに謀られたかのように……ベルヘイム軍の侵入も脱出も拒むように……スラハトの住人を外に出さないと言わんばかりに……城門も何もかも潰され、出入りが不可能な状況になっていた……
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