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孤独な旅立ち
知らざれる一騎打ち
しおりを挟むその夜、アルパスターは湖畔に続く細い道を歩いていた。
湖畔から大きな音………… 始めて聞く空間が捩曲がるような音に続いて、水に大きな物が落ちたような音が響き渡る。
静かな夜だっただけに、その奇妙な音はあまりに不気味で、ヨトゥン領に入ったばかりのベルヘイム軍は不安に駆られていた。
アルパスターは、何か嫌な予感がした……………ヨトゥン領に入ったばかりだったし、何より恋人のネイアと同行しているエリサが気掛かりである。
ホワイト・ティアラ隊が湖に水を汲みに行った事は知っていたし、危険な事は隊長が自ら行っている事も知っていた。
(一体、何の音だったんだ??ネイアの事だから、無理はしないと思うが…………しかし、あれだけの音だ。何もなくても、ヨトゥンも気付いてる筈だから急がないと…………)
アルパスターは、用心しながら……………しかし早足で歩を進める。
すると視界の先…………少し崖のようになっている高台の下に、剣を持った男が歩いているのを見つけた。
(あいつが奇妙な音を出したのか??剣は持っているが…………鎧も装備していない。あんな隙だらけの男を警戒する必要もなさそうだが……………しかし、ヨトゥン領だし何かあってからでは遅い………………ただの人間かもしれんが、やむを得ん)
アルパスターは視界の先の男から自分の姿が見えないように身を隠し、ブリューナクを構える。
(悪いが、不確定要素を持ち込む訳にはいかん………こんな夜に、ヨトゥン領内を歩いている自分を恨んでくれ!!)
アルパスターの意思をブリューナクが理解したかのように、音もなく3本の光の槍がその男に向かって輝く。
そう…………その男には、ただ輝いたようにしか見えない…………躱すのは不可能なタイミングだった。
光の速さで伸びる閃光の槍は、目視してから回避しても遅い。
まして無防備に歩く男など、光が見えた瞬間に自分が何をされたか分からず倒れる筈だった……………
しかし、その男…………一真は光の槍を躱した…………それだけではなく、驚異的なスピードで横に避けると同時に、赤く輝いた瞳はアルパスターの姿を瞬時に捉らえる。
左腕を掠めたブリューナクの光の槍が一真の皮膚を切り裂き僅かに出血をするが、お構いなしにアルパスター目掛けて飛び込んで来た。
目の前の崖など、お構いなしに…………である。
(速い…………だが、高台にいる私の方が有利だっ!!)
下から飛び込んで来る一真目掛けて、アルパスターはブリューナクの光の槍を伸ばす!!
が……………一真は飛びながら方向転換をした……………その背中には、朱く輝く翼が見える。
(馬鹿な…………空中で向きを変えた??朱い翼に紅の瞳…………伝説の騎士、アスナの再来かっ??)
下から振り上げて来る一真のグラムの一撃を、ブリューナクで辛うじて防いだアルパスターは後方に跳び距離をとる。
着地した一真は、そのまま大地を蹴って加速し、アルパスターに迫った。
「早い…………だが、攻撃は単調だっ!!」
ガキィィィィィ!!
グラムとブリューナクが激突し、激しい音が響く。
ブリューナクでグラムの攻撃を受けたアルパスターは、次は自分の番とばかりに攻撃体制に移ろうとした。
その瞬間、アルパスターの後方の土が槍のように尖り、迫り上がってくる。
「くっ!!」
一真を攻撃しようとしていたアルパスターは一瞬動作が遅れたものの、自分の後方から迫る土の槍をブリューナクを振り回して破壊した。
「な…………んだと…………」
土の槍の攻撃を防ぎ、直ぐに一真を視界に捉えようとしたアルパスターの目に、一面に広がる炎が映る。
一瞬で火に囲まれたアルパスターは、驚愕していた。
攻撃の繋ぎに、隙が無い……………
(たった一瞬で…………ここまで自然を操れるモノなのか??いや、そんな事を考えているヒマは無い!!次の攻撃が来る!!)
どこから攻撃がくるか分からないアルパスターは、ブリューナクを構えながら火の壁の内側を小さな円を描くように廻り始めた。
どの方角から攻撃されても、直ぐに対応する為である。
火の壁を突き破って攻撃して来るだろう…………そんなアルパスターの考えは、簡単に打ち砕かれた。
ドオオオォォォォン!!!
突如、空間を切り裂くような音が響き渡る。
いや、正に空間を切り裂いた…………アルパスターの頭の上を塞いでいた火の壁に丸い穴が開き、黄色い閃光がアルパスターに襲い掛かかった!!
雷……………
咄嗟に、アルパスターは避雷針のようにブリューナクを立て、雷を逃す。
が…………
その瞬間、火の壁を突き破り飛び込んできた一真が、突き立てたブリューナクを弾き飛ばし、更にアルパスターを蹴り飛ばす!!
倒れたアルパスターが次に見た光景は、喉元にグラムを突き付けて自分
を見下ろす一真の姿だった。
「あなた、何者ですか??」
赤い瞳でアルパスターを睨みながら、一真は更にグラムを喉に近付ける。
(この男の瞳…………本当に凰の目か??だとしたら……………)
意を決し、アルパスターは一真に向かって口を開いた。
「君は、不死鳥のアスナ……………7国の騎士アスナの子孫なのか??」
アルパスターは喉元にあるグラムを気にも止めず、一真の赤い瞳を真っすぐに見つめる。
「あなたは…………何者ですか??」
一真は、そんなアルパスターの視線を睨み返しながら、その問いに答えず声を大きくして先程と同じ質問をした。
「オレはアルパスター・ディノ。7国の騎士ランティスト・ディノの末裔だ!!今はベルヘイム遠征軍の指揮をとっている!!」
アルパスターはそう言うと、その巨体を少し前に出す。
グラムの剣先は、アルパスターの喉に当たる直前まできているのに…………
その気迫にも、一真は一歩も引かずにアルパスターを見下ろしている。
「その瞳…………凰の目を持つ者であれば、この槍が上級神器ブリューナクという事が分かるだろ!!太陽神ルーからオレの先祖が直接賜わった神槍だ!!君は…………伝説の騎士の末裔なんだろ!!答えてくれっ!!」
そこまで聞いて、一真はようやくグラムをアルパスターの喉元から引いた。
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