命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

六幕 「地下に煌めく光」 四

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 次の日の正午過ぎ、アスはいつもの青い差し色の入った黒いコートを纏い、地下礼拝堂にてラウル像に寄りかかって眠るヴェルノの前に立つ。
 その後ろには礼服を着たオーべが立ち、少し離れて公式調査団五名が周囲を取り囲んでいた。調査団の他にフランケの姿もある。
 オーべがアスの後ろから小さな声で語りかける。
「昨日、フランケから輝葬に関する危険性は聞いたか?」
「はい、聞きました」
「そうか。・・・アス、実は今回の輝葬は、ヴェルノの過去、つまりクレアとの関係性を第三者に秘匿することを目的に最初からアスに行わせるようアレクから指示を受けていたんだ。大人の政治的都合というやつだ。アレクはアスの輝葬技術がまだ拙く危険が伴うということを知らないからそう指示したんだろう。俺はヴェルノの輝葬はアスがやるべきだと思う一方で、アスに危険なことはさせたくないという思いもあって、指示は受けたもののこのまま進めてよいか今も悩んでいる。先日、アスはやると言ってくれたが一度始めてしまえばもう後戻りはできない。本当にやるのかどうか、フランケの話を聞いたうえで最後にもう一度だけ意思を確認させてくれ」
 アスは振り返り、輝葬師特有の澄んだ青色の目をオーべに向けて微笑む。
「意思は変わりません。やります」
「・・・分かった。ならばもう何も言うまい。成功を祈る」
 オーべはアスの肩をポンと一度叩くと、周囲を取り囲む公式調査団の位置まで下がった。
 皆が離れたことを確認したアスは、青き眼でヴェルノの胸元で淡く明滅する輝核を捉えると、その上方に両手を差し出して目を閉じた。
 深呼吸をしてから目を開き強く念じる。次第に大気が振動しピリピリと肌を刺激する。
 不安定そうに明滅していたヴェルノの輝核がにわかに強く発光し、ゆっくりと上昇を始めた。
 輝核はアスの胸元の位置まで上昇すると、ヴェルノと繋がる光の糸に引っ張られる形で上昇を止め、ゆらゆらと空中に漂った。
 アスは輝核の下に両手を滑りこませると、光の糸を切るために輝核をさらに上へ持ち上げる。
 輝核が光の糸の切断を拒むかのように一段と強く激しく発光を始めた。
 次第にアスの脳裏にはヴェルノの記憶が映像として浮かび上がり始めた。そして自分の意識がその記憶に支配されていくような感覚に陥る中、まもなくして視界が暗転した。

「・・・始まりましたな」
 公式調査団の側で様子を伺っていたフランケが、横に立つオーべに声をかける。
「そうですね。フランケさん、アスは上手く出来るでしょうか?正直なところ、私の中では不安は拭えきれていません」
「どうなるか私にも分かりません。本来であれば、意識乖離からの戻りは然程難しいものではなく、五、六回程度の輝葬補助で大体感覚を掴めることができるものなのですが・・・。多分、鮮明すぎる記憶の映像が意識の戻りを阻害しているのでしょう。なので、アスさんには一つまじないの言葉を授けてみました」
「まじないの言葉?」
「ええ、咄嗟に思いついたなんの脈絡もない言葉です。それを輝葬中に唱えるようにと。記憶の映像とは全く別のことに意識を向けさせれば、もしかしたら意識乖離から戻るきっかけになるかと思いましてな」
「そんな方法があるとは知りませんでした」
「苦肉の策ですよ。深い集中を要する輝葬にあって意識をよそに持っていくことは、輝葬を長期化させる迷走状態を招く可能性があり、輝葬八景の危険性を高めるため、通常であれば絶対に行わない危険な行為です。だからこそヴェルノさんもこれまでその方法を教えなかったのだと思います。ですが、これまでと同様のやり方では多分同じ結果になるでしょうから、荒療治的にはなりますが変化を与えてみようと考えた次第です」
「・・・そうでしたか」
「ちなみにオーべさん、時間の計測は?」
「先程カウントを始めました」
 オーべが自分の腕時計をトンと指でつく。
「もし時間を大きく超えるようなら・・・」
「はい、アスには悪いが力づくで輝葬を止めるつもりです。輝葬の強制終了は最悪、アスに何らかの後遺症を与えるでしょうが、それでももっていかれるわけにはいきませんからね」
「しからば、止めるタイミングは私が判断しましょう。オーべさん、その時はお願いします」
「心得ました。よろしくお願いします」
 オーべとフランケはお互いに頷き合ってから、それぞれ固い表情でアスに視線を向けた。
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