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第一章 輝葬師
五幕 「白」 五
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状況は悪化の一途をたどる。
フレアの腰を切り払った際にヴェルノの剣が折れ、さらにその折れた刀身からは赤い色も失われた。
ヴェルノの魔力が尽きたのだ。
「これは、・・・いよいよヤバいな」
折れた剣を片手にそう呟くヴェルノにフレアが拳を振り抜く。
ヴェルノは威力を受け流すために、後方に飛びながら折れた剣でなんとか受けるが大きく吹き飛ばされてしまう。
体勢を崩しながら着地したヴェルノは右腕に走る激痛に顔を歪め、握っていた剣を落とした。
今の攻撃で利き腕の骨が折れていた。
ヴェルノは腕を抑えながらジゼルの様子を確認するが、ジゼルは顔面蒼白の状態で頭を振った。
それはまだ魔力の充填が完了していないことを意味していた。
フレアは周囲の脅威がなくなったと判断したのか、失った魔力を補充するために再び不快な重低音を鳴らしながら発光した。
「なんとか、今しばらく魔力の吸収を阻害しなければ・・・」
満身創痍のヴェルノは、魔力吸収を再開したフレアの前に立ち、素手のまま、左手をフレアの光球に向けた。
にわかにフレアの光球が強く発光を始めた。
「まさか、輝葬するつもりか?」
アスの応急処置をしていたニリルがその光景に息を呑んだ。
「・・・流石に輝葬は無理か。だが光球をいじられるのは気持ちのいいものじゃないだろう。さぁ魔力の吸収を中断して俺へ反撃しろ!」
しかし、フレアはその行為を脅威と判断することはなく、ヴェルノの方に顔を向けるだけで魔力の吸収を中断する素振りは見せなかった。
「くそっ、駄目か」
ヴェルノが諦めかけたその時、ヴェルノに意識が集中しているフレアの下に一つの人影が駆け寄る。
「これで、貸し1だからな!」
フレアの隙をついて懐に入った人影は、拳大の石を頭上に掲げ念を込めた。
「エ、エツィオ!?」
ヴェルノは人影の顔を視認して目を見開いた。
途端に場の魔力がその小さな石に吸い込まれ始める。
「最後の魔吸石だ。流石にこれは無視できないだろ!」
エツィオの言葉通り、フレアは核である光球の間近で使用された魔吸石を無視できなかったようで、魔力の吸収を中断すると体をひるがえしてエツィオへの攻撃を開始した。
「・・・あとは頼んだぞ」
全速の馬車が壁に衝突したかのような凄まじい衝撃音が広場にひろがる。
フレアの拳を真正面から受けたエツィオはアスの時と同様に大きく吹き飛ばされ、そのまま石畳に叩きつけられた。
エツィオの惨状にヴェルノとニリルが絶句する。
突如、大気がビリビリと震えるほどの強力な圧が発せられた。
ヴェルノがその圧が発せられる方向に目を向けると真紅に染まった魔錬刃を構えるジゼルが立っていた。
魔錬刃に込められた魔力はジゼルの怒りや悲しみといった感情が強く作用しているのか、先ほど魔力を込めた時よりも明らかに禍々しい様相をしていた。
その圧倒的な魔力にヴェルノの頬を一筋の汗が伝う。
魔錬刃から溢れ出す魔力によって生み出された上昇気流が、ジゼルの髪をフワフワと上下に揺らす。
ジゼルの目はただ一点、フレアの光球を見据えていた。
「みんな、ありがとう。・・・次はちゃんと仕留めるよ」
強大な魔力を感知したフレアがジゼルの方に顔を向けるが、その禍々しさに怯えるかのように一歩後ずさる。
「これで最後。・・・行くよ!」
そう言い放つとジゼルはフレアに向かって一直線に駆け出した。
向かってくるジゼルを迎撃するためにフレアが拳に魔力を込める。
残っているであろう魔力を全て注いだのかその拳は強烈に発光した。
フレアの射程に入ると、ジゼルは走ってきた勢いそのままに魔錬刃を光球に向かって振り払い、フレアもジゼルに向かって拳を振り抜く。
凄まじい轟音の中、大量の粉塵をあげて魔錬刃と拳がぶつかり合った。
「ッツ!ああぁぁあああ!!」
ジゼルがその衝撃に顔を歪めながらも剣を握る手に更に力を込める。
バリバリバリっという雷鳴のような大きな破壊音が鳴った途端、ジゼルの手には肉を切り裂く不快な感触が伝わってきた。
魔錬刃がフレアの魔力を切り破って、振り下ろされた拳に食い込んだのだ。
魔力による抵抗がなくなったことで、ジゼルの刃はフレアの拳、腕を滑るように両断しながら光球に向かってその体を一気に駆け上る。
そしてついに光球に刃が届いた。
ジゼルはそのまま刃を振り抜き、フレアの横を駆け抜ける。
フレアの体躯は光球を中点に胸の辺りを真横一文字に両断され、上部は大きく吹き飛んだ。
残った下部は切断された際の姿そのままで静止しており、切断面からは上空に向かって勢いよく赤黒い体液が噴出した。
その赤黒い体液が一帯に雨のように降り注ぎ、ジゼルの体を赤く染めた。
ほどなくして切断面から炎が発生する。
辺りに肉を焦がす匂いが漂い始める中、フレアの体はゆっくり大地に倒れた。
ジゼルは魔錬刃を大地に突き立てると、肩で息をしながらゆっくりと振り返り、フレアの亡骸を見つめた。
フレアの骸はゆっくりと発光し、光の粒子となって大気に霧散した。
同時にジゼルの衣服についたフレアの体液も同様に光の粒子となって消失していく。
それらは人を輝葬した時と全く同じ現象であった。
唯一異なる点は、人の輝核は輝葬後に双極に向かって飛翔するところ、切断した光球、すなわちフレアの核にあっては、淡い光を放ちながら静かに大地に吸収されたことだった。
戦いのあった広場に一段と強い陽光が降り注ぐ。
名もなき小さな激闘の終わりを告げるかのようにジゼルが突き立てた真紅の魔錬刃がゆっくりとその色を失っていった。
フレアの腰を切り払った際にヴェルノの剣が折れ、さらにその折れた刀身からは赤い色も失われた。
ヴェルノの魔力が尽きたのだ。
「これは、・・・いよいよヤバいな」
折れた剣を片手にそう呟くヴェルノにフレアが拳を振り抜く。
ヴェルノは威力を受け流すために、後方に飛びながら折れた剣でなんとか受けるが大きく吹き飛ばされてしまう。
体勢を崩しながら着地したヴェルノは右腕に走る激痛に顔を歪め、握っていた剣を落とした。
今の攻撃で利き腕の骨が折れていた。
ヴェルノは腕を抑えながらジゼルの様子を確認するが、ジゼルは顔面蒼白の状態で頭を振った。
それはまだ魔力の充填が完了していないことを意味していた。
フレアは周囲の脅威がなくなったと判断したのか、失った魔力を補充するために再び不快な重低音を鳴らしながら発光した。
「なんとか、今しばらく魔力の吸収を阻害しなければ・・・」
満身創痍のヴェルノは、魔力吸収を再開したフレアの前に立ち、素手のまま、左手をフレアの光球に向けた。
にわかにフレアの光球が強く発光を始めた。
「まさか、輝葬するつもりか?」
アスの応急処置をしていたニリルがその光景に息を呑んだ。
「・・・流石に輝葬は無理か。だが光球をいじられるのは気持ちのいいものじゃないだろう。さぁ魔力の吸収を中断して俺へ反撃しろ!」
しかし、フレアはその行為を脅威と判断することはなく、ヴェルノの方に顔を向けるだけで魔力の吸収を中断する素振りは見せなかった。
「くそっ、駄目か」
ヴェルノが諦めかけたその時、ヴェルノに意識が集中しているフレアの下に一つの人影が駆け寄る。
「これで、貸し1だからな!」
フレアの隙をついて懐に入った人影は、拳大の石を頭上に掲げ念を込めた。
「エ、エツィオ!?」
ヴェルノは人影の顔を視認して目を見開いた。
途端に場の魔力がその小さな石に吸い込まれ始める。
「最後の魔吸石だ。流石にこれは無視できないだろ!」
エツィオの言葉通り、フレアは核である光球の間近で使用された魔吸石を無視できなかったようで、魔力の吸収を中断すると体をひるがえしてエツィオへの攻撃を開始した。
「・・・あとは頼んだぞ」
全速の馬車が壁に衝突したかのような凄まじい衝撃音が広場にひろがる。
フレアの拳を真正面から受けたエツィオはアスの時と同様に大きく吹き飛ばされ、そのまま石畳に叩きつけられた。
エツィオの惨状にヴェルノとニリルが絶句する。
突如、大気がビリビリと震えるほどの強力な圧が発せられた。
ヴェルノがその圧が発せられる方向に目を向けると真紅に染まった魔錬刃を構えるジゼルが立っていた。
魔錬刃に込められた魔力はジゼルの怒りや悲しみといった感情が強く作用しているのか、先ほど魔力を込めた時よりも明らかに禍々しい様相をしていた。
その圧倒的な魔力にヴェルノの頬を一筋の汗が伝う。
魔錬刃から溢れ出す魔力によって生み出された上昇気流が、ジゼルの髪をフワフワと上下に揺らす。
ジゼルの目はただ一点、フレアの光球を見据えていた。
「みんな、ありがとう。・・・次はちゃんと仕留めるよ」
強大な魔力を感知したフレアがジゼルの方に顔を向けるが、その禍々しさに怯えるかのように一歩後ずさる。
「これで最後。・・・行くよ!」
そう言い放つとジゼルはフレアに向かって一直線に駆け出した。
向かってくるジゼルを迎撃するためにフレアが拳に魔力を込める。
残っているであろう魔力を全て注いだのかその拳は強烈に発光した。
フレアの射程に入ると、ジゼルは走ってきた勢いそのままに魔錬刃を光球に向かって振り払い、フレアもジゼルに向かって拳を振り抜く。
凄まじい轟音の中、大量の粉塵をあげて魔錬刃と拳がぶつかり合った。
「ッツ!ああぁぁあああ!!」
ジゼルがその衝撃に顔を歪めながらも剣を握る手に更に力を込める。
バリバリバリっという雷鳴のような大きな破壊音が鳴った途端、ジゼルの手には肉を切り裂く不快な感触が伝わってきた。
魔錬刃がフレアの魔力を切り破って、振り下ろされた拳に食い込んだのだ。
魔力による抵抗がなくなったことで、ジゼルの刃はフレアの拳、腕を滑るように両断しながら光球に向かってその体を一気に駆け上る。
そしてついに光球に刃が届いた。
ジゼルはそのまま刃を振り抜き、フレアの横を駆け抜ける。
フレアの体躯は光球を中点に胸の辺りを真横一文字に両断され、上部は大きく吹き飛んだ。
残った下部は切断された際の姿そのままで静止しており、切断面からは上空に向かって勢いよく赤黒い体液が噴出した。
その赤黒い体液が一帯に雨のように降り注ぎ、ジゼルの体を赤く染めた。
ほどなくして切断面から炎が発生する。
辺りに肉を焦がす匂いが漂い始める中、フレアの体はゆっくり大地に倒れた。
ジゼルは魔錬刃を大地に突き立てると、肩で息をしながらゆっくりと振り返り、フレアの亡骸を見つめた。
フレアの骸はゆっくりと発光し、光の粒子となって大気に霧散した。
同時にジゼルの衣服についたフレアの体液も同様に光の粒子となって消失していく。
それらは人を輝葬した時と全く同じ現象であった。
唯一異なる点は、人の輝核は輝葬後に双極に向かって飛翔するところ、切断した光球、すなわちフレアの核にあっては、淡い光を放ちながら静かに大地に吸収されたことだった。
戦いのあった広場に一段と強い陽光が降り注ぐ。
名もなき小さな激闘の終わりを告げるかのようにジゼルが突き立てた真紅の魔錬刃がゆっくりとその色を失っていった。
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