命導の鴉

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第一章 輝葬師

二幕 「ラフ・フローゼル」  二

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 目的の人物はすぐに見つかった。中隊ともなれば50名弱の編成となるため、この村では特に目立つ。
 任務からもどった兵士たちは各々に割り当てられた宿に入るところで、その中に兵士と話し込む黒いコートをまとった男がいた。
 そのコートは王都の双極と呼ばれる施設に所属する輝葬師が遠征の時に着るもので、フードがついており背中には白く縁取りされた青い十字架の紋様が刻まれている。
 男はフードを目深にかぶっており、遠目には顔を確認することはできなかった。
 父はその男に近づこうと歩み寄る。が、一人の兵士がその道を塞いだ。
「なんだぁ貴様は!?」
 兵士は不審者である父に対して大声で叫び、威圧的な態度を取る。
 あまりの大声にアスとジゼルは咄嗟に耳を両手で覆った。
 その兵士の手は腰の剣に伸びており、下手なことをすれば直ぐに斬りかかってくる様相だった。
 周りの数人の兵士が父を睨みつける中、騒ぎに気づいた黒いコートの男が様子を伺うかのようにこちらに視線を向けた。
「突然すまない、私はヴェルノという者だ。そちらの輝葬師と少し話がしたいんだが、取り次ぎをお願いできないか?」
 殺気立つ兵士に全くたじろぐ様子もなく、父は軽く頭を下げた。
「駄目に決まっぁぅうん!?」
 兵士が再び父に怒鳴ろうとしたが、奇妙な声をあげて兵士の声が止まる。先ほどの黒いコートの男がこちらにきて、変なタイミングで兵士を制したためだ。
「ヴェルノか?」
 黒いコートの男がフードを外して驚いた表情を見せる。その瞳は輝葬師である証拠に青く、顎には綺麗に整えられた髭を貯えていた。
 父も黒いコートの男の顔を見て驚く。
「なんだ、輝葬師はガフディだったのか。よかった、話が早い。この村での輝葬の件、少し話ができないか?」
「んっ?ああ輝葬の件か」
 ガフディと呼ばれた黒いコートの男は少し考えるが、すぐに期待感のこもったような表情に変わった。
「そうだな。ヴェルノなら構わないだろう。というより丁度よかった。これ以上ない巡り合わせだ」
 ガフディは、相変わらず怒気を放ってヴェルノを睨みつける兵士をなだめると、先ほど話をしていた兵士のもとに3人を招いた。
「その人達は?」
 兵士が招かれた3人を見て訝し気にガフディに尋ねる。その表情から、アスは兵士が少しイラついているような印象を受けた。
「ああ、この男はヴェルノといって、過去に王都双極に所属していた輝葬師だ。双極を辞めてからは自由契約型の輝葬師として各地を転々としている。あとの二人は・・・」
「俺の子供だ」
 ヴェルノはそう言ってから兵士に会釈すると、アスとジゼルもそれにならって軽く頭を下げた。
「・・・鴉か」
 自由契約型の輝葬師と聞いて、兵士は蔑むかのような声色を使った。
 自由契約型の輝葬師は、双極の厳格な資産統制の管理下にないこともあって、輝葬後に遺品を横領する者も多く、遺品を漁る姿を揶揄して一般には『鴉』と呼ばれていた。
「ヴェルノは信頼できる男だよ」
 兵士の横柄な態度を見たガフディがヴェルノを擁護をするが、そんな一言で兵士に染みついた鴉への印象を変えることが出来るはずもない。兵士は明らかに好意的ではない目でヴェルノの青い目を睨みつけた。
 一方でヴェルノは旅先で似たような扱いを受けることが多く慣れていたためか、あまり気にしていない様子だった。
 ガフディはゴホンと一つ咳払いをしてから、次に兵士を3人に紹介する。
「この中隊を指揮している者でハインツという」
 紹介を受けたヴェルノは軽く笑みを浮かべながら、よろしくと手を差し出した。
「鴉と馴れ合うつもりはない」
 ハインツは差し出されたヴェルノの手を無視した。
「・・・そうか」
 ヴェルノは差し出した手を引っ込め、苦笑いをしながらその手で頭をかいた。
「ハインツ、お前が鴉のことをどう思おうと勝手だが、とりあえず今は俺の顔を立てて仲良くしてくれないか?」
 ハインツはしかめた表情を崩すことはなかったが、ガフディの言葉を尊重して、とりあえずヴェルノを睨みつけることはやめた。
「ありがとうハインツ。さてヴェルノ、輝葬の件についてだったな。どこまで話を知っているかはわからないが、齟齬が無いように順を追って最初から話すぞ。まずは・・・」
 ぐぅ~っ。盛大に音がなった。
 一同が音の鳴った方を見ると、ジゼルが顔を真っ赤にしていた。今度は否定せず、早くご飯を食べさせないあんたが悪いんだと心の声が聞こえてきそうな表情でヴェルノを睨んでいた。
「・・・食事はまだなのか?」
 話の腰を折られてなんともいえない表情をしたガフディがヴェルノに尋ねる。
「ああ、今日の朝、ツミスオ山の奥地を出立してからまだ何も食べていないんだ」
「なるほど、ツミスオから戻ったとこだったのか。それなら宿に食事の準備があるから食べながら話そう。ハインツも中へ」
 ハインツはちっと舌打ちをして宿の入口へ向かった。
「すまない、助かるよ。ジゼルとアスも中へ入ろう」
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