オオカミさんはちょっと愛が重い

青木十

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合間の偶然 1

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 王都内詰め所間での配達業務の帰り道、バースィルは西門から続く商店の立ち並ぶ通りを歩いていた。
 仮採用故にどうしても簡単な体力仕事になりがちだが、その方面に自信のあるバースィルにとっては、楽だしやりがいもあった。各方面の詰め所にいる騎士団員たちや衛士隊員たちと簡単な交流をしつつ、書類や備品を届けて回る。彼らとの交流は、王都内での実務状況が分かる業務なのだ。それに街の構造も理解できるおまけ付きだ。

 配達の役目を終えれば、騎士団本部へ戻って業務状況を報告し、あとは日報を書いて本日は終わり。さっさと終わらせて、寮の宿舎に戻ろう。
 そう思いながら、この先の大通りを北へ抜けた王城手前にある騎士団本部へ向けて、歩き始めた時だった。

「ウィアル……?」

 赤毛の三角耳がピーンと立ち上がった。
 このよく音を拾える耳が、愛しい人の声を聞き間違えるわけがない。小さな声ではあったが、確かに聞こえた。
 その声が聞こえたと思う方へ、バースィルは足早に向かう。小路を一つ入り、その二つ奥を左に折れる。

 その頃には、はっきりと音を拾っていた。
 どうやら数人の男たちに絡まれているようだ。何処かへ連れて行かれそうになっていて、ウィアルが拒否しているような言葉が耳に入ってくる。
 足が早くなり、腰の剣に手をかけた。焦りからグリップを握る手に力が入る。

 奥のボロ安宿の角を曲がったところで、大きく名を呼んだ。

「ウィアル!」

 安宿やボロい雑貨屋が並ぶ細い通り。
 そこにいたのは、ウィアルと複数人の男たち。
 黒髪のその人は、ならず者斯くやといった風体の男たちに囲まれていた。その内の一人が、嫋やかな腕を強く掴んでいる。

 手に武器は持っていない。剣を抜くのは過剰だろうと判断したバースィルは、すぐに柄から手を離した。
 周りの二人がこちらに気がつくと同じくして、バースィルはその中央の男の腕を取った。彼らからしたら、一瞬でここへ現れたように思えただろう。
 バースィルの使える数少ない魔法。元々高い身体能力を更に高めることができる。筋力も敏捷性もだ。それで一気に距離を詰めたのだった。

 あっという間に間合いに入ったバースィルは、そのまま男の腕を捻り上げた。

「複数人で取り囲むのは、感心しねえな」

 いででででと呻く男を押さえながら、ウィアルを守るように立った。

「バースィルさん!」

 ウィアルがバースィルの名を呼ぶ。心なしか安堵の含まれた声で、バースィルも彼の無事を感じ取って胸を撫で下ろした。
 眼の前で苦しむ男は、体格もよく腕に自信があるようだった。その慢心もあってか、すぐに捻られてくれた。
 男たちの人数は全部で五人。歳は二十半ばから三十くらい。皆赤ら顔で、機嫌よく酔っ払っていたようだ。最初はならず者だと思ったが、よく見てみればこの恰好は察しが付く。
 腕が痛くなるよう、ギリリと一際強く捻り上げた。

「いっいててて!」
「き、騎士団……っ」

 男たちは慌てふためいた。こんな裏路地に騎士団の制服を見るとは思わなかったのだろう。

「ほらほら、お前ら、どうせ王都に到着したばかりなんだろ。せっかく酒飲んで機嫌よくしてるのに、捕まっちまったんじゃ仕事に響くぞ」

 そう言って開放してやれば、ふらりとかしいだところを仲間が支えた。
 ウィアルに絡んでいたのは、五人中二人。体格のいい男と、軽薄そうな男だった。
 残りの内、一人が二人を止めようとしていて、残りの二人がおろおろとしている、というのが耳と目で判断した内容だ。
 服装は汚れてはいるが、よく見ればきちんとした装備を身に着けている。金属の部分鎧に革鎧、そんなに安物ではないが立派というには圧倒的に物足りない。それと、皆バラバラの恰好だった。

「こんな時間にすでに出来上がってるなんざ、昼過ぎに到着して報告済ませれたもんで、酒をたんまりかっくらった冒険者ってとこなんだろ」

 見てきたように語れば、軽薄そうな男が体格のいい男を支えながら驚いたように呟いた。

「なんで知って……」
「分かるって。久々にでかい街についたら、旨い酒飲んで旨い飯食いてえもんな」

 そこまではにこやかな笑顔だったが、すっと笑みを消して、バースィルは冒険者たちを睨んだ。

「だからって、他人に絡んじゃだめだわな」

 琥珀の瞳が睥睨すれば、見守っていた細身の冒険者が小さく声にならない悲鳴を上げた。
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